2 / 2
がっかりなんて
しおりを挟む
社長のあんな顔……見たことなかったな。
私に向ける視線に熱を感じたことなんてただの一度もなくて。
私だって、社長に個人的な感情を抱くどころではなかった。
とにかくこの1年は多忙を極めたし、時々襲ってくる悲しみと戦っていた。
前社長の死はあまりに大きい損失だったから。
「佐久間さん。佐久間さん?」
「は、はいっっ」
またやってしまった。
テレビ会議を終えて戻ってきた社長が、私のデスクの目の前に座って、心配そうに呼びかけている。
「えっ、もうお戻りですか? あっ、もうお昼前? 申し訳ありません」
「今日、いつになくぼーっとしてるよね。どうしたの?」
「そ、そんなことは……」
そんなこと……あるよね。
だって、社長が今朝、意味ありげな顔するからー!
そんな顔、今までしたことないじゃん!
今だって、頬杖ついて優しく微笑んだりして。
「……社長こそ、いつもと違います……。いつもより……」
「いつもより?」
にやにやと笑いながら次の言葉を待つ社長に、私は唇を噛む。明らかに挑発されているような気がする……。
「……いつもより、意地悪な気がします……」
「そう? これが本当の俺だよ。親父みたいじゃなくてがっかりしてる?」
「がっかりは……して。ない、ですけど」
がっかりなんてしてないよ。
あまり感情を表に出さない社長が、笑いを堪えるようにしている。
「がっかりしてないんだ? なら、安心だな」
社長は少しだけ浮かれたように、にこにこと笑っている。
今までの社長とは確かに違う。けど、そんな、マイナスな印象は受けてはいない。
1年ほどの仕事の関係だけど、私はずっと見てきたのだ。
笑顔の社長を見ていたら、つい本音が零れ落ちた。
「……私は……昨年から、大変な中、弱音も吐かずにずっと頑張ってらっしゃった姿を見てきました。……だから、どんな社長でも、今更がっかりしたりはしません……」
社長がまっすぐに私を見つめる。
精悍な眼差しは、心まで射抜かれそうなほど鋭くて――前社長にもとても似ているけれど、こんなに熱く見つめられたことは今まで一度もない。
「………………」
「……社、社長……?」
「…………あーーー。ずるい。佐久間さん、ずるいよ」
あ、と思った時には、社長の手が肩に触れて、抱き寄せられた。
ほのかに香る社長の香りを感じて、一気に顔が紅潮する。
「あ、あのっ、社長っ……」
「ちょっとだけ、このままでいさせてくれる? 佐久間さんが、嫌じゃなければ」
嫌?
嫌なわけ――。
ぎゅっと社長の手に力が籠って、深く抱き合う。
誰かが入ってくるんじゃないかと気が気じゃなかったけど、社長の胸の中で幸せを感じていた。
私に向ける視線に熱を感じたことなんてただの一度もなくて。
私だって、社長に個人的な感情を抱くどころではなかった。
とにかくこの1年は多忙を極めたし、時々襲ってくる悲しみと戦っていた。
前社長の死はあまりに大きい損失だったから。
「佐久間さん。佐久間さん?」
「は、はいっっ」
またやってしまった。
テレビ会議を終えて戻ってきた社長が、私のデスクの目の前に座って、心配そうに呼びかけている。
「えっ、もうお戻りですか? あっ、もうお昼前? 申し訳ありません」
「今日、いつになくぼーっとしてるよね。どうしたの?」
「そ、そんなことは……」
そんなこと……あるよね。
だって、社長が今朝、意味ありげな顔するからー!
そんな顔、今までしたことないじゃん!
今だって、頬杖ついて優しく微笑んだりして。
「……社長こそ、いつもと違います……。いつもより……」
「いつもより?」
にやにやと笑いながら次の言葉を待つ社長に、私は唇を噛む。明らかに挑発されているような気がする……。
「……いつもより、意地悪な気がします……」
「そう? これが本当の俺だよ。親父みたいじゃなくてがっかりしてる?」
「がっかりは……して。ない、ですけど」
がっかりなんてしてないよ。
あまり感情を表に出さない社長が、笑いを堪えるようにしている。
「がっかりしてないんだ? なら、安心だな」
社長は少しだけ浮かれたように、にこにこと笑っている。
今までの社長とは確かに違う。けど、そんな、マイナスな印象は受けてはいない。
1年ほどの仕事の関係だけど、私はずっと見てきたのだ。
笑顔の社長を見ていたら、つい本音が零れ落ちた。
「……私は……昨年から、大変な中、弱音も吐かずにずっと頑張ってらっしゃった姿を見てきました。……だから、どんな社長でも、今更がっかりしたりはしません……」
社長がまっすぐに私を見つめる。
精悍な眼差しは、心まで射抜かれそうなほど鋭くて――前社長にもとても似ているけれど、こんなに熱く見つめられたことは今まで一度もない。
「………………」
「……社、社長……?」
「…………あーーー。ずるい。佐久間さん、ずるいよ」
あ、と思った時には、社長の手が肩に触れて、抱き寄せられた。
ほのかに香る社長の香りを感じて、一気に顔が紅潮する。
「あ、あのっ、社長っ……」
「ちょっとだけ、このままでいさせてくれる? 佐久間さんが、嫌じゃなければ」
嫌?
嫌なわけ――。
ぎゅっと社長の手に力が籠って、深く抱き合う。
誰かが入ってくるんじゃないかと気が気じゃなかったけど、社長の胸の中で幸せを感じていた。
10
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
Melty romance 〜甘S彼氏の執着愛〜
yuzu
恋愛
人数合わせで強引に参加させられた合コンに現れたのは、高校生の頃に少しだけ付き合って別れた元カレの佐野充希。適当にその場をやり過ごして帰るつもりだった堀沢真乃は充希に捕まりキスされて……
「オレを好きになるまで離してやんない。」
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる