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2.プレゼント
しおりを挟むあれから3か月経ち、俺はこっちの世界に馴染んでいた。
この生活が日常になるくらいには慣れたし、村の人達との関係も良好だ。
ただ、ずっと気がかりなことがある。
それは、イラレスさんに雇ってもらうときに言われたこと。
「レイ、お前さん魔力持ちか?」
「え?」
俺は最初言っていることがわからなかった。
魔力ってあの魔力?
魔法とか使えるあれ?
異世界定番の魔法ってやっぱりあるのか!
今後魔法を見る機会もあるかもしれない!
俺は魔法が存在することに子ども心を弾ませた。
「いや、魔力はなかったと思うが。」
「そうか、ならよかった。」
魔力がなくていい?
どういう意味だ?
「魔力があると何か不都合でもあるのか?」
「そうか、記憶がないから分からないのも仕方ない。この国では魔力持ちの存在は良くないとされているんだ。いや、良くないとされていた、の方が正しいかな。」
魔力ってあればあるだけいいんじゃないの!?
俺が向うの世界で読んでいた漫画では、魔力があれば優遇されたし能力が高いほど地位も高かった。
異世界共通でここもそうだと思ってた。
「元々そういう風習があったんだ。もう廃れたものになってきてはいるがな。だが、王都に近くなる程その考え方は強く残っている。だからこの国には魔力持ちが少ないんだ。いや、少ない故なのかもしれい。この辺の小さな村や魔力持ちが多い公爵領なんかはそんな昔の風習なんて無いに等しいが気をつけておいた方がいい。ただ、魔力のない者が魔力持ちを見つけることは不可能に近い。魔力持ち同士はお互いが分かるのだという。」
「このことはこの国の長い歴史と王族に関わりがあるものだから詳しい説明は追々するとしよう。」
「それともう1つ。これは、君にも関係する。外見の色、つまり髪の色や目の色が黒に近い程魔力が多く強いと言われている。そして、滅多にいないが、純粋な黒のみを持つ者たちを総称して黒の保持者と呼ばれている。」
「黒い髪と黒い目…?」
こんな平凡な色が珍しい?
「そう。レイみたいな、ね。」
俺は何故か元から周りの人より黒が強かった。
俺の友達でも黒髪の人はいたが、光に照らされると少し茶色がかっていた。
だが、俺の髪の毛はどう頑張っても黒。
黒すぎて印象が重く見られがちだった。
「もうわかってると思うけど。魔力持ち、そして黒の保持者の事をよく思っていない輩がいることを忘れてはいけない。」
「わ、わかった。」
全然わからないし聞きたい事あり過ぎるけど、とりあえず頷いておこう。
「ただ、そういう輩とは正反対の奴らもいるんだ。
魔力持ちや黒の保持者をやたら神聖視するような奴らがいてな、ただ崇拝するだけならまだしも愛玩動物…つまりペットとして手元に置きたがる者もいるらしい。」
はぁぁぁあ!?
何いってんの!人間をペットにすんのか!?
「そう云う訳であまり一人で出歩かないようにすること。レイに魔力はないが、黒の保持者というだけで目立つからな。小さな村だからといって変な奴がいないとは限らないんだ。」
「まぁ、レイに関しては魔力とか黒の保持者を抜きしにても、その綺麗な顔だけで寄ってくる奴らもいるだろうが…。」
イラレスさんが最後にボソッと呟いたことを俺は聞き逃さなかった。
え?
「今なん…」
「気をつけるに越したことはないってことだ。
さて、昨日の今日で疲れてるだろ、今日はこのまま休め。業務は明日からやってもらう。」
俺が聞き返そうとする前に、イラレスさんは話を終わらせ部屋を出ていってしまった。
俺はそれから目まぐるしい毎日を送っていた。
ある程度の計算や接客、力仕事、簡単な料理は出来たから、イラレスさんに即戦力だーとかいって喜ばれた。
覚えることは沢山あったが、とても遣り甲斐を感じている。お客さんも気のいい人達ばかりだから直ぐに打ち解けた。
最近、治安が悪くなってきたと嘆いてたのも、絡んできたガラの悪い輩を1発軽く伸したらそれ以降なくなった。正直なところ、複数人相手に勝てる気はしなかったが、身体が勝手に動いた。比喩じゃなくて、まじで。
昔から武道を習ってきてはいたが、こんな風に活用できるのならやってて良かったなとも思った。
用心棒も任せられるなんて棚からぼた餅だ、と上機嫌なイラレスさんだった。
「レイちゃん、エール2つ!」
「はいよー!エール2つな!」
エールの注文が入ったので俺は準備をする。
ここでの主な仕事は、ドリンク類の準備と所謂ホール業務。たまに会計。
料理はほとんどイラレスさんがやっている。
この店は、カウンターとテーブルがあり食事をする人は基本テーブルの方に案内する。
俺はカウンターの中でドリンクを作りお客さんまで運ぶ。
作業中でも、やはり考えてしまう。
魔力について。
「はい、お待ち、エール2つね!」
「あんがとよ!」
この世界に来てから魔法を見たことはないし、自分が魔力持ちだと感じたことはない。
黒の保持者っていう実感もない。
ただ、すごく視線は感じる。特に色について声をかけられたり、絡まれたりすることはなかったが視線が痛い…。
きっと、イラレスさんが気を遣って最初に注意してくれていたのだろう。
それにしても、こんなに見られるとは…。
黒って本当にそんなに珍しいものなのか?
元の世界だと、黒髪の人なんてそこら中にいたし珍しいものでも何でもなかったから違和感がすごい。
だが、ここ1週間くらい、周りの視線とは種類が違う鋭い視線を感じるときがある。店の中ではなく、店の外から。
視線を感じて顔を向けると決まって人影が窓から見えるが、すぐいなくなってしまう。
実害はないから放置してはいる。が、気になるものは気になるよね。
「どうかしましたか?レイ、手が止まっていますよ。」
話しかけて来るのは、ロン。
ロンは、俺がここで働くようになってからの常連客。3日に1回の頻度で飲みに来てくれる。
黒いローブを被り、白い前髪から覗くグレーの瞳と右の目元にあるホクロが特徴的。全体像が見えなくてもわかる、こいつはイケメンだ。
カウンターの1番左の席がお気に入りなのかいつも1人で飲みに来る。
暇なときは、カウンター越しによく話し相手になってくれている。
こっちの世界に来てから初めての友達と呼べる存在になっていた。
俺はこの時間を密かに楽しみにしている。
「なんでもないよ、少し疲れただけ!」
「本当ですか?顔色も少し悪いですよ。」
「本当に大丈夫!そんなこと気付くのロンくらいだよ、俺のことよく見てんのな」
笑いながらからかうように言ってみた。
すると、ロンは俺の耳元まで顔を寄せてきた。
「レイはずっと見ていたくなりますね。」
目を細め微笑むロンに、俺は仕返しされた。
耳のゾワゾワが止まらない。
このイケメンがァァァあ!
悪戯が成功したみたいな楽しそうな笑顔をみせながら、今日はこの辺にしときますね、と言って帰っていった。
カウンターには、空になったグラスとお金が置かれていた。
ロンめ、俺で遊びやがって。
俺は火照った頬を手で覆い冷やす。
「あっつい。」
業務を終わらせ自分の部屋へ帰ってきた。
今日もあっという間だったな。
ふぅ、と溜め息をこぼしながらベッドに座り星空を映す窓を見上げた。
ここは灯りが少ないせいか、夜空いっぱいの星を眺めることができる。
あっちの世界のと何ら変わらない空を見ていると、本当はここは異世界ではないのかもしれないと思えてくる。
ふと目線を下ろすと、窓の外側の花台になにか置いてある。
明るい空色の石と青紫色の花が1輪。
その美しさに一瞬見惚れた。
だが、おれはおいた覚えがない。
なら、誰が。
心当たりを探そうとしたとき、俺はハッとした。
ここ2階だぞ。1階から手が届くわけがない。
………。
やめよ。
嫌がらせのような悪いものじゃなさそうだし。
嫌いなやつにわざわざ花を寄越すようなことはしないだろうし。
素直に貰っておこう。
綺麗だし。うん。
俺は1階から使っていない古いコップに水を入れ花を挿した。
石は入れ物がないので後日買ってこよう。
机の上に移動させようとしたとき一瞬石が光ったような気がした。
再び石に目をやると元の状態でただ佇んでいるだけ。
見間違いか?
気にせず、机に置いた。
机上の石は月光に照らされキラキラと輝いている。
ベッドに横たわりながら石を眺めていたら、いつの間にか眠りについていた。
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