異世界で異分子の俺は陰に干渉する

Pisutatio

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3.才能

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石と花のプレゼントは暫く続いた。
それは決まって夜の時間。
俺が目を離した隙に窓の花台に置いてある。
貰いすぎてコップに花が入らなくなってきて、小さな花束くらいの量になってきた。
しかも、不思議なことに花はいくら日が経っても枯れる様子はない。
こっちの花は枯れないんだなー、すごいな。くらいにしか思っていなかった。
石用の木箱も買ってそこへ入れていたが、もう半分程埋まっていた。





今日は、隣に住む夫婦が結婚記念日で旅行ということで小さい子供たちを預かることになった。旅行と言っても日帰りで夜になる前には帰ってくるという。
5歳のマレと8歳のディー。
2人はよく店に来ては一緒に遊んでいたので今ではすっかり仲良しだ。
今日はそんなに混まないからと店はイラレスさんが見てくれることになった。

2人は店に来て早々に、俺に向かって叫びながら駆けてきた。

「レイにい!あれやって!」
「そうそう!あれ見たい!」


2人がワクワクといった表情で要求するものとは1つしかない。
あれだ。

前に1度絵を描いて見せたことがある。
それをもう1度描けと言っているのだ。
ただ、あれから1度も描いて見せてはいない。
何故なら、絵が動くのだ…。勝手に。

字面だけ見たらすごくホラーチックだか、そういう怖いものではなかった。
だが、困惑はする。
こっちの世界の絵は勝手に動くものなのかとも思ったが、子どもたちに聞くとそうでもないらしい。
そして、絵を描いた後どっと疲れるのだ。
元の世界で絵を描いてもそんなに疲労感に襲われることはなかった。基本ずっと描いていたし徹夜で描き続けることも多かった。
でも、こちらで絵を1枚描くとその後1日疲労感に襲われ寝込んでしまう。
さすがに、今描いて寝込むのは俺にとっても2人にとっても宜しくない。


「2人が今日1日いい子にしていたら描いてあげるよ。」
「ほんと!?」
「約束だからね!」
「はいはい、約束な。」
「言質とったからね!」

そんな言葉どこで覚えてきたんだよ…。
逞しい2人を見てやれやれといった表情である。


いい子にしていたら。という言葉をいい事をしたらと信じたのかいつもならしない店の手伝いをし始めた。
と言っても、テーブルを拭いたり掃除をしたりと危険のないものに限るが。
イラレスさんは、助かるわーと言って喜んでいる。
これ、2人に何かあったら俺の責任になるだろうに。
何事もなく終わってくれ。

そんなこんなで日が落ち始めるくらいまで働いた2人は、もうヘトヘトのようだ。
イラレスさんから頑張ったからご褒美、と2人へのクッキーの入ったカゴをもらって上で休んできなとお許しが出た。
俺は2人を俺の部屋に入れベッドの端に並んで座らせ間にクッキーのカゴを置いた。
2人は、食べていいよの言葉待ちなのかキラキラした目でこちらを見つめている。
クッ。かわいい…。
俺はこのまま焦らして意地悪したくなる気持ちを抑えて、食べていいよと言いながら2人の頭をワシャワシャと撫でた。
その言葉を待ってましたと言わんばかりにクッキーに飛びつく2人。
俺はクッキーを美味そうに頬張る2人を微笑ましく見ていた。


「そんなに急いで食べなくてもクッキーは逃げないぞ。」

俺はディーの口についたクッキーの欠片を親指で拭い舐めた。
お、今日のクッキーはナッツか。美味いな。

ディーは顔を赤くしたかと思えば、クッキーを喉に詰まらせたのか咳き込んだ。
「ほら、言わんこっちゃない。」
と呆れながらディーにジュースを渡した。
ディーは急いでジュースを流し込んだ。


「あ、あれ!お花!ブローディアじゃん!」
ディーは恥ずかしいのを紛らわそうとしたのか、違う話を持ちかけた。
ディーは机の上の青紫色の花を指差す。
「ディー、知ってんのか?」
「うん、お母さんが花好きでよく買ってきてる。」
「そうなのか、ディーは物知りだな」

褒められて嬉しそうなディーは、ヘヘッと笑う。

そうか、あの花ブローディアっていうのか。
今まで花に興味なかったから、名前を言われてもピンとこない。



「あ!レイにいからのご褒美まだもらってない!」
「あ!そうじゃん!レイにいあれやってよ!」


あ…。
気づいたか。
このまま忘れたままいてくれるかと思っていたが、2人の執念を甘く見ていたらしい。

「わかったよ!ちょっと待ってな。」
俺は机から、紙とペンを取り出した。

何を描こうか悩むな。
2人はワクワクと期待を向けた視線をこちらへ飛ばす。


あ、あれにしよう。
俺は、思いついたかのようにペンを走らせた。




ふぅ、できた。
今回、描いたものは風景画。
大自然の中で力強く流れる滝と川、その横には岩肌が剥き出しの崖。
これは実際に見たわけではないのだが、小さい頃から頭の中に残っているイメージ。
今も目を瞑るとそこに立っているかのように鮮明にイメージできる。
滝が激しく流れる水の音、木々の葉が擦れる音、森の中独特な緑の匂い、それらが俺を囲い包んでいく。


え?
本当に聴こえるし、匂いもするんだけど!?


目を開けると、ペンでモノクロに描いたはずの風景画が鮮やかな色を放っていた。
それだけじゃない、滝は激しく流れ、木々の葉は風で揺れている。

いやいやいや。どーゆこと!?
前回は絵が動いたとはいえ、ほんとに動いただけだった。紙の中でウサギがピョンピョン跳ねたり、鳥が飛び回るくらいだったのに!

なんだよこれ。

「なんだこれ、すっげぇー!」
「さすが、レイにい!」
「やっぱレイにいの絵はすげぇな!」

2人は、絵を見て興奮しているようだった。

「う、うん。ありがとう…。」
俺は何とも言えない複雑な気持ちだった。
理解が出来なかった。
そして、考える間もなく俺の体を疲労が襲う。
強い睡魔と脱力感。目を開けているのもつらい程に。
前回の比じゃないぞ、これ。

「レイにい?大丈夫?」
「お、おう。平気平気。もうすぐお母さん達帰ってくる時間だろ、下に行って待ってろ。」
「わかった!」「はーい!」
「うん、いい返事だ。」

俺は、2人を先に行かせた。
ふと、机上へ目を向けると、木箱が光っていた。
いや、木箱の中から光が漏れている。

なんなんだよ。さっきから。
俺は、朦朧とする意識の中、力を振り絞り木箱を開けた。
予想はしていたが、中の石が光っている。
俺は中から1つ取り出し手に乗せる。すると、より一層眩しく光を放った。
眩しさのあまり俺は目を細めた。
何がなんだか分からないと心のなかで叫ぶ。
混乱している俺とどこか客観的に冷静でいる俺がごちゃごちゃに混ざっている。


俺は石を手に握りしめたまま、最後にマレとディーの両親にちゃんと挨拶しようと部屋を出た。



その瞬間、物陰から人が現れ目と口、鼻を塞がれた。
口と鼻を押さえている布からは甘くキツイ臭いがしたかと思えば、俺は意識を失った。

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