異世界で異分子の俺は陰に干渉する

Pisutatio

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4.救世主

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ガタンッガタ、ガタン。


地面が揺れている。


うっ…。
頭いてぇ。
俺何してたんだっけ。
意識がはっきりしない。
身体もだるくて動かない。



……………。

俺、なんで床に寝っ転がってんだ?
しかも、足と手を縛られて…。

これはダメなやつだ。
危険なやつ、俺の中で警告音が鳴り響いている。
俺の頭には、二文字の言葉が浮かんでいた。
……拉致。





いや、一旦落ち着け、俺。
ここでパニクっても絶対プラスにはならない。
落ち着かせようと深呼吸をする。

スゥー、ハァー…。


冷静になってきた気がする。
周りを見渡すと小さな窓が両脇に付いていて、景色が流れている。結構なスピードで走っているな。
外はもう真っ暗で夜が訪れていた。
山道を走っているのか窓からは木ばかりが見える。
目印になりそうなものは見つからない。
これは、馬車?荷馬車ってやつか。
どうりで揺れが激しいんだな。
後ろを見ると扉のような物がある。流石に、鍵かかってるよな。


馬車ってことはもう結構遠くまで来てしまった可能性が大きい。
俺がどのくらい意識を失っていたかも分からない。
ただ、確か馬は、そんなに長時間連続で走れなかったはずだ。このペースならきっと30分か1時間あたりで休憩が入る。そして、そのタイミングで俺の状態を確認しに来るだろう。
後ろの扉の鍵が開いたら隙をみて逃げよう。

それまでに縛られている手と足をどうにかしなくちゃ。幸い、手は体の後ろではなく前で縛られていて、縛っているのはロープだった。
鎖とか枷とかの金属じゃなくて良かった、どうにかなりそう。
とは言っても、頑丈そうなロープだ。俺みたいなヒョロっちい人間なんか輪ゴムくらいで十分だろ。

さて、どうしたものか。
さっきからどうにかして手をロープから抜くことができないか試してはいるものの、一向に緩まる気配がないし手首が取れそう。
ロープを切れる刃物でもあれば、いいんだけど。
あたりを探してみるが、もちろんそんなものはない。
詰んだ。焦りが俺の頭を支配していく。



あ、ナイフの絵描いたら本物にならないかな。
俺はマレと、ディーに見せた絵を思い出した。
荒唐無稽なのは百も承知。
だが、今までの出来事を考えると絶対に無理とは言い切れない。
モノクロだった絵が色鮮やかな風景画に変わり、音や匂いまでもが本物だった。
もしかしたら、ナイフも創り出せるかもしれない。


俺は指を口に咥え思いっきり噛んだ。
歯で指の先を切り、血を流した俺はペンの代わりに血で描き始めた。
アドレナリンが出まくってるのか痛みは感じなかった。
急いでナイフを描く。焦らず丁寧に。
描き終わった途端、またもや疲労感に襲われる。
だが、今回はまだ意識を保っていられた。
描かれたナイフは、フヨフヨと動き始めた。
ん?なんか思ってたのと違う!
それは全く本物とは似ても似つかないほどの、ふにゃふにゃしたもの。
ただ絵が動いているだけだった。

しっ…ぱい、したのか?

愕然としている俺を横目に、ふにゃふにゃナイフが俺に近づいて来る。
そして、手首に巻き付いているロープに触れたと同時に、パサッとロープが切れた。


え…?
まじか。
本当に切れた。
ハハッ
なんだよ、やればできるじゃん!ふにゃふにゃナイフ!

そして、ふにゃふにゃナイフは続けて足首のロープも切り落とした。

手首と足首のロープを無事に切り終えたふにゃふにゃナイフは、役目は果たしたと言わんばかりに動かない絵へと戻っていった。

ハラハラさせんなよ…。
手と足が自由になった俺は、馬車が止まる時間まで息を潜める。
俺が起きていて、自由の身であることを悟らせてはいけない。
敵がどんな相手でどんな手段を使ってくるか分からない以上、慎重に。

ん?なんか脚の付け根が熱い。
ポケットの中になにか…。
あれ?なんでここに。
ポケットの中には、あの石が入っていた。
それも熱と光を帯びて。
なんでこれ持ってきてるんだ。俺ポケットの中入れたっけ。
まぁ、いいか。



すると、ガタンッと突然馬車が止まった。
外から男達の言い争うような声がする。だが、何を言っているかまでは分からなかった。
暫くすると、外は静かになり扉の方へ近づいてくる1人の足音だけが聞こえてくる。
俺はそのタイミングが来たのだと、身を構える。


ガチャ。ギィー

扉が開く。
俺は扉から入ってくる人物を見据えた。

え?なん…で?
入ってきた人物は、見覚えがあり過ぎる外見をしていた。
黒いローブを深く被り、白い前髪を垂らしている。
右の目元にはホクロが…。
いつもと違うのが1つ。
白い前髪から覗く瞳は、明るい空色をしていた。
そしてその瞳には、いつもの温厚そうな彼とは違って、殺気とも言えるものが溢れていた。



「ロ…ン…?」

俺は、恐る恐る口を開く。
ロンは、その瞳に俺を映すと、レイッ!と叫びながら俺に駆け寄りその手で俺を抱きしめた。


えぇぇ!?
「ロ、ロン!?なんでここに!?」
「レイ、怪我はないですか?あぁ、手首と足首に跡が残ってしまいましたね。」


そう言いながら、ロンは俺の体を隅々まで確認する。
「指を怪我したのですか?血が出ています。」
「う、うん。ちょっとね。でも大丈夫だよ。」
「他は?顔に怪我はないですね?」

ロンは俺の頬を両手ではさみ、強制的に顔をロンに向かされる。
ちょっと距離が近い、この体制は恥ずかしいな。
さっきは明るい空色に見えた瞳は、いつもと同じグレーの色を取り戻していた。
じっと見すぎていたのか、そのグレーの瞳と視線が重なった。
俺は咄嗟に目を泳がせてしまう。


「レイ?何か隠し事でも?」
「何も?」

ハハハ。と渇いた笑いで誤魔化す俺。怪しすぎるわ。


「それにしても、なんでここにロンがいるの?」
「貴方が拉致されたと分かり追ってきたのですよ。全く、なぜちょっと目を離したら何かに巻き込まれるんですか。」

えぇー。今回は俺悪くなくね?

それから、ロンは少し待っててください。と言って扉から外へ出た。
そして、2人の男を抱えて戻ってきたと思ったら座り込んでいる俺の前に投げた。
どうやらロンに気絶させられているらしい。ピクリとも動かない。

「この男達に心当たりは?」

俺は2人の男を交互に見た。
んーー。
あっ!待って。

「だいぶ前に店で絡んできた人達の中にいた顔だ。」
「やはりな。」
「やはりな、って何!?知ってたの!?」
「まぁ。説明は後です。レイにはついてきてほしい場所があるので。」

「それってどk…え!?なにしてるの?何のポーズ?」
「何っておんぶですけど?あ、こっちが良かったですか?」

そう言って今度は、お姫様抱っこをするようなポーズをする。

「いやいやいや!おんぶでいい!てか、何で俺がロンに運ばれる前提で進めてんの!?」
「レイ、立って移動できるんですか?」

ロンは俺の脚を一瞥する。
俺はそんなの簡単だと言おうとしたが、立てなかった。あ、脚に力が入らない!
今日1日で2回も絵を描いた反動の疲労なのか、拉致されて本当はそれほどまでに恐怖していたのか、それとも助かった故の安心からなのかは分からない。

俺は恥ずかしいと思いつつ、おんぶでお願いします。と伝えた。

ロンは笑いながら、喜んで。と言って俺を背中に乗せた。

広い背中とその温もりで安心感に包まれる。
だが、俺はここで安心してはいけなかったと後悔した。



しっかり掴まっていてくださいね、と言ってロンは走り出した。
ドンッ。という音と共に…。
俺はジェットコースターの急発進と同じ衝撃を感じた。
ロン。めちゃめちゃ足速い。
もう、足速いとかそういう次元じゃない!
本当に山道を走っているのかと疑う速さ。
予想外の速さに振り落とされないように、必死に掴まるしかない。
すると今度は、俺の体はフワッと浮遊感を覚えた。
何かと思えばロンが崖から飛び降りている。

あ、俺、死ぬ…。

地面が近くなり、地面からの衝撃に備え身を構えたが、ロンは音もなくフワリと着地した。
そして再び急発進。
おいおいおい。
まじか、この人。
なんでもありかよ。
もう何もツッコまないと決めた。



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