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6.異分子
しおりを挟むこれ、夢じゃないんだな…。
俺はベッドに寝っ転がったまま天井を見上げていた。
昨日は気付かなかったけど、公爵家の屋敷は天井まで豪華なのな。
ルネサンス期のイタリアのような絵画が天井に描かれている。某イタリアンファミリーレストランに飾られている絵画に似たやつ。
真ん中には、お腹が膨らんだ女性。その周りを囲み祝福するように2人の天使が飛んでいる。
女性はとても幸せそうな表情でお腹を撫でている。
この部屋を使っていた人は、きっと周りの人から愛されていたんだな、と思う。
でも、この絵画には少し違和感を感じてしまう。
この世界では黒髪は珍しいのに、描かれている女性は美しい黒髪だった。
きっと、この絵画はだいぶ前に描かれていて、その時代の黒髪はそんなに珍しいものではなかったのかもしれない。
それよりも考えなければいけないことがあるではないか、俺よ。
昨日の濃藍色の男が、まさか本物のグラディウス様だったなんて!
そう。俺は何を隠そう、ワールド・ディバージェンスというゲームのグラディウス・ルイ・ヴォルグの大ファンなのである。
俺の推しだ。
ワールド・ディバージェンスは元の世界で俺が夢中でやっていたゲーム。
グラフィックが綺麗で俺の大学では人気のゲームだった。俺も最初はグラフィック目当てで始めたものの、やってみると面白くて課題の合間に進めていた。
このゲームにも攻略キャラという存在がある。グラディウス様もその1人だった。
攻略と言っても、ゲーム進行上の相棒みたいな立ち位置で、必ずしも主人公とそのキャラをくっつけなければいけないということはない。ただ、交際・結婚のエンディングルートが、ある一部では人気だった。
俺は、グラディウス様に一目惚れだった。
何故か分からなかったが、見た瞬間にこのキャラだって思った。
だから、俺はグラディウス様のエンディングルートを見ようと攻略サイトにはだいぶお世話になったし、自分でも何回も挑戦して研究した。
そんなグラディウス様が今、同じ世界にいるなんて…。
あ。てことは、俺って今、ワールド・ディバージェンスの世界にいるってこと?
まじか…。
半年近くこっちの世界に住んでいたのに、全然気づかないとは。
こっちに来て間もない頃イラレスさんから、この国の説明を受けたとき、聞き覚えがあったのは俺がこのゲームを知っていたからか。
もう少し早く気付こうよ、俺。
まぁ、主人公枠でこっちに飛ばされたわけじゃなさそうだしな。特にしなきゃいけないこともないんだろうけど。
でも、ゲームに枢木玲なんてキャラ出てこなかったし…。
あれ、俺ってここにいていいのか?
俺は重要なことを見落としていたのかもしれない。
俺は、名前すら出てこないモブか、この世界で存在していなかった人間なのだと。
それなのに今、ゲームのメインキャラと言っても過言ではないグラディウス様の屋敷にいる。
…だめじゃね?
このままここでお世話になると確実にストーリーに関わってしまうことになる。
俺なんかの小さな存在でゲームの流れが大きく変わることはないだろうが、何が起こるかわからない。
ただ、小さなことの積み重ねで大きなズレを起こすことは避けなければならない。
よし。
ストーリーに関わる前に、ここを離れてどこかでひっそりと暮らそう。イラレスさん達にも無事だったと顔見せに行きたいし。
俺の最重要任務が決定した。
そうと決まれば、逃げる一択。
ロンもグラディウス様も昨日の様子から見て、ここではない何処かで暮らすことを許可してくれるとは思えない。
幸い、ここは1階だから窓から行ける。
俺は、ゆっくり窓を開け外に誰もいないことを確認して駆け出した。
屋敷から門まで遠すぎだろ…。
門にたどり着く直前、俺は足を止めた。
門番がいる。
そりゃ、そうか。公爵家っていう大貴族のセキュリティがそんなガバガバな訳がない。
どうしようか、と考えていたとき。
「おや、レイ殿。外出ですか?」
門番の1人が声をかけてきた。
「そ、そう。少し外に用事があって…。すぐ戻ってくるんだけど。グラディウス様には許可もらってるんだ。」
嘘だけど。
こう言わないとグラディウス様に直接確認を取りに行きそうだったから仕方なく。
「そうでしたか、失礼いたしました。もうすぐ雨が降る予報ですのでお早めにお戻りください。」
「そうさせてもらうよ。」
………ガバガバ、だな…。
いや、俺がグラディウス様の客人として顔が知られてるからか?
まぁ、いいや。無事外に出れたことだし。
俺は再び駆け出した。
屋敷の外は森に囲まれているし、すぐには追っては来ないだろう。
ゲームの中だと分かれば、ある程度のマップは覚えているし、簡単なミッションだ。
ただ、この森を抜けることができればの話だが。
公爵家の屋敷を囲むこの森は、招かれざる者に対しては恐怖を与える森だ。
一般の人間が足を踏み入れれば、生命力を吸い養分にされる。道に迷い憔悴したところを、嗅ぎ付けた魔物が襲ってくる。
というのが、ゲーム内での設定。
だから昨日、「こんな北部まできて襲おうとはしない」と言っていたのだろう。
俺は1度、公爵家に入っているし招かれざる者の対象ではない。
そして、生命力を吸う森は魔力持ちなら防ぐことができる。
コントロールのできていない俺がどこまで防ぐことができるかは分からないが、一般の人間よりはマシだろう。
俺は走り続けた。
あたりが闇に包まれ始めている。
本当は今日のうちに森を抜けたかったが、夜に行動するのは危険だと分かっている。
今日はこの辺で休もう。
すると、俺の頬に水滴が触れる。
うわ、雨…。
このあたりで野宿でいいと思っていたが、雨となると話は別だ。
体が濡れると体力を消耗する。
どこか雨を遮れるとこを探さないと。
だが、周りは暗くなり雨の影響で足元が悪い。
気をつけないとな。
俺は、慎重に足を進めた。
夜が訪れ街灯がない森の中は一寸先は闇だった。
俺は、目を凝らして探索する。
一瞬、光るものが目の前を横切った気がした。
辺りを見るが、光っているものは見当たらない。
気の所為かと、目線を前へ戻すとさっきまで何もなかったそこには、色鮮やかな光る粒子が集まっていた。
ホタルのようで、全く違うそれは俺を誘うように道を作っていた。
触ろうとすると逃げるが俺の近くから離れない。
俺は、その誘いに従い道を歩く。
雨の勢いが弱まっているのか、光がさっきよりもハッキリと強く見える。
ズルッ
バキバキバキバキ、ドスン。
俺は泥濘んだ地面に足を滑らせ、斜面を転がり落ちた。
「いってぇ…。」
落ちた先は平らな地面だ。
下まで落ちたのか?
どこまで落ちたのか確認しようと顔を上げた目の前には、さっきまでの光とは比べものにならないほどの量と強い光が満ちていた。
太陽の光がなくとも辺りをハッキリと確認できる。
その光に照らされたものを見て俺は固まった。
この景色‥‥。
それは、小さな頃から頭に残っているイメージ。
マレとディーのために描いたあの景色。
なんでここに…。
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