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7.記憶
しおりを挟む眩い色鮮やかな光の粒子で照らされているそこは、俺が描いた風景画と全く同じ光景だった。
雨のせいで水嵩が増したのか、荒々しく流れる滝と川。剥き出しの岩肌が覗く崖。
ここって本当にあった場所なのか。
え、ちょっと待て。
ゲームではこんな場所出てきた覚えはないし、小さい頃から俺の頭の中にこの光景があった。
つまり、ゲームで出てきたとしてもゲームをやる前から俺はこの場所を知っていることになる。
どういうことだ。
俺の心境とは裏腹に光の粒子達は、楽しそうに空中を舞っている。
俺に近寄って周りをぐるぐると飛び回っているかと思えば、離れていく。寄っては離れを繰り返す光の粒子は、人懐っこい猫みたいだ。
もしかして、意志を持っているのだろうか。
俺をここに導いたのも光の粒子達の意志なのか?まぁ、導いたと言ってもズッコケただけだけど…。
そんなことを考えていると、一際眩しい白い光の粒が俺に寄ってきた。
他の光の粒子と違って離れていかない。
俺の周りをずっと飛んでいる。
(…こっちだよ。)
俺の頭の中に声が響いた。
なんだ?
どこから声が…。
すると、白い光はフワフワと岩の方へ飛んでいき止まる。
まるで、俺が付いてくるのを待っているみたいだ。
俺は、試しについて行ってみることにした。
俺が白い光に追いつくと、再び移動し始めた。
それを繰り返していると岩の壁に辿り着いた。
白い光は、今度は壁に沿って右側に進む。俺は、迷いなく白い光の後を追う。
そして、白い光は止まった。
小さな洞窟の前で。
「これを教えてくれたのか?ありがとう。」
俺は白い光に感謝を述べると、光は喜んでいるのか俺の周りを楽しそうにぐるぐると回る。
まさか、光に意志があるとは。
俺は、洞窟の中へ入ろうとした。
しかし、何かに拒まれているのか入ることが出来なかった。目の前には何もない。ただ、壁に穴があるだけ。
目に見えない壁があるみたいだ。
俺は、この壁に手を当て力を入れてみた。
一瞬何もなかった空間が光った。そして、透明の壁が消えたのか俺の手は支えを失いバランスを崩した。
倒れそうになった体を支えようと俺の右足が一歩前に出る。
「痛っ!」
俺の右足に全体重が乗ると同時に激痛が走った。
見ると、足首が腫れていた。
うわ、気付かなかった。
滑って転げ落ちたときに捻ったのかもしれない。
最悪だ。これだと先へ進めない。
俺は、洞窟の中で腰を下ろした。
白い光が心配そうに足首の周りを飛んでいる。
「大丈夫だよ、軽い捻挫だ。」
傍から見たら、独り言の多い変人だ。
元の世界にいたら、こんな光の粒に対して話しかけたりしない。
けど、この世界に来て有り得ないことを見聞き、経験して俺もこの世界に染まってきているのだろう。
白い光は、俺の周りを飛び回ると洞窟の奥へ飛んでいった。
その光に照らされ、さっきまで真っ暗だった洞窟の奥が見える。
そこには、木刀やおもちゃ、そして幼い子供が描いたであろう絵が入った箱があった。
ここは誰かの秘密基地だったのか?
俺は、その物たちを手に取る。
なんだか、懐かしく心温まるように感じる。
俺は、知らないはずなのに何なのだろうか。
洞窟の壁を見ると、子供の字で「ラディ・レイ」と書かれていた。
俺の名前?
俺は、拙い字で書かれたそれに手を触れた。
触れた瞬間、激しい頭痛が襲う。
「いってぇ」
激しい頭痛と一緒に俺の頭の中へ映像が流れてくる。
6歳くらいの濃藍色の男の子と、黒髪の男の子?
2人が楽しそうに走り回ったり、木刀でチャンバラしたり、洞窟の中で遊んでいた。
2人はお互いのことを、ラディ、レイと呼び合っていてとても仲が良さそうだった。
頭痛が治まると、流れてくる映像も止んだ。
何の映像なのか。
誰かの記憶を覗いている気分だった。
誰かの幼少期だろうか。
黒髪の男の子の顔はぼかされていて誰だか分からなかった。
でも、あの濃藍色の男の子、グラディウス様に似ていたな。
ゲーム内でグラディウス様の幼少期について語られる部分は多くない。その1つが幼少期のトラウマについて。
それは、両親と幼馴染の死。
賊に襲われ、幼いグラディウス様を守ろうとした両親と幼馴染が殺され、グラディウス様だけが生き残ってしまったという。
このことは、ゲームの最後、相棒として信頼している主人公に打ち明ける。
ゲーム内では、2行しか出てこない幼少期のトラウマ。
たったの2行でも、どれほどの悲しみと怒りだっただろう、と俺の心は痛んだ。
そんな過去を持っていながら、王国一の騎士と言われるまでに上り詰めた彼を、俺は尊敬しているし、彼を推す理由の1つである。
へックションっ
あー。寒い…。
考え事をしていた俺は、全身が震えていることに今気づいた。
だいぶ雨に打たれたし、そりゃ冷えるよな。
俺の服は雨に濡れ、冷たい感触で体に張り付いていた。
俺は、体の熱が逃げないように体育座りのような体制になり体を丸めた。
でも、寒さは変わらなかった。
やっぱり、グラディウス様とロンにちゃんと相談して出てくるべきだったかな。
今頃、2人とも怒ってるかな。
それとも、厄介者がいなくなって清々してるかな。
後者だったらちょっと寂しいな。
体が弱ると思考も弱るのか。
寒さのせいなのか俺は眠気を感じる。
「レイ!レイ!そこにいるのか!?」
俺を探す声が聞こえてくる。
グラディウス様の声?
いよいよ、幻聴まで聞こえてきたかと俺自身に呆れる。
その声が徐々に大きくなり、目の前で聞こえる頃には、俺の目にグラディウス様本人が映っていた。
「幻覚…?」
幻聴だけでなく幻覚まで映すとは。俺の脳みそは煩悩で埋め尽くされてるなと思った。
「何をバカなことを言ってる、幻覚なわけあるか。」
グラディウス様が俺を諫める言葉を並べるが眠気に襲われている俺には届かなかった。
「さ、寒い…。」
俺の呟きを聞き、グラディウス様はハッとしたように俺の手を触った。
「なぜこんなに冷えている!?体温が低すぎる!」
慌てた様子でグラディウス様は俺に上着をかけた。
そして、洞窟の入口付近にどうやったのか分からないが、火を焚いた。
流れてくる空気が暖かい。
俺は、じんわりと体温が戻っていく暖かさにさらにウトウトし始めた。
「おい、こんなところで寝るな。」
グラディウス様は、俺の手を触りまだ体温が低いと確認すると、俺の服を脱がし始めた。
俺は抵抗する力もなくあっという間にパンツ一丁。
そして、グラディウス様は自身の服のボタンを外し、前を開けた。
「ったく、嫌だろうが暫く我慢しろよ。」
そう言って、俺を軽々と持ち上げたかと思えば脚の間に座らせ後ろから俺を抱きしめる体制になった。
俺の背中にグラディウス様の温もりを感じる。
「あったかい…。」
その温かさを求め、俺は無意識に体制を横向きへ変え、グラディウス様の胸に顔を埋めた。
人の温もりってこんなに安心するものなのか。
意識が遠のく中、俺は「ラディ」と呟いた。
俺は自分が呟いたことと、その言葉にグラディウス様が反応したことに気付かないまま眠りについた。
その後、グラディウスが何かと闘っていたことをレイは知る由もなかった。
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