異世界で異分子の俺は陰に干渉する

Pisutatio

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16.出会い

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店の前で2人を待っている間、俺の目の前には人と喧騒が溢れている。親子で仲良く歩いている人達や恋人同士、友達数人でいる人達。色んな人がこの街を自由に歩き、楽しそうな声が俺の耳に絶えず入ってくる。さっきまでの俺たちもこの楽しそうな人達の一部になっていたのだろうか。
喧騒の中、俺1人だけ切り取られ、取り残されたように感じてしまう。俺だけがこの世界の人間ではないと1線を引かれているのではないかと。
「っ…!」
人混みの中に見慣れた面影を見た気がした。黒いローブを被る白い前髪の男が。ロン!?見間違いか?俺は、慌てて追いかける。人が多すぎて追いつかない。
俺はあの脱走した日以降ロンを見ていない。今まではロンから店に来てくれてた訳であって、繋がりであった店が俺にはもうない。ロンに会いに行こうとしても、俺はロンに関して何も知らないのだ。普段何の仕事をしているのか、何故公爵であるラディと知り合いなのか、本当の名前もロンではないのかもしれない。ラディに、最近ロンに会わない、何をしているのかと遠回しに聞いたことがある。暫く仕事をサボっていたから仕事に追われてるんだろと濁された。俺には何も教えてくれないようだ。この世界に来てから初めての友達で大切な友達、それは騎士団に入った今でも変わりはない。
人と人の間を縫って追いかける。

ドンッ。

「あ、すまない。」
反対側から来た人とぶつかってしまった。その人は1言謝ると、俺が謝る時間を与えずすぐ行ってしまった。俺もロンをはやく追いかけないと。
ガシャッ。
走り始めた一歩目で何かを踏んづけた。
それは、コインが入った袋だった。この世界の財布だ。これさっきぶつかったあの人のものだ。くそっ。
俺はロンを追いかけるのを止め、さっきの人を追いかけた。確か、グレーの短髪で白いシャツを着ていたな。周りを見渡しながら探しているためか何度も人とぶつかる。少し開けた広場にでたら、人が少なく見渡しがいい。中央には噴水があり、向き合うように屋台がぽつんと佇んでいた。
あっ。
屋台の前にグレーの短髪の男の人が立っているのが見えた。そこは花屋だろうか、色とりどりの花が台の上から溢れんばかり置いてある。男は何かを探しているようでポケットをまさぐっている。ビンゴ。
「あの、これあっちで落としてたよ。」
俺は急いで駆け寄りその男に声をかけた。
「え?あ、これ、俺のだ。なぜ君が?」
「え?だから、さっきぶつかったときに落としてたから渡しに来たんだよ。」
「……あ、そうなのか、ありがとう。助かったよ。」
「いや、いいんだ。無事渡せてよかった。」
なんか、この人ちょっと抜けてる?会話のテンポが遅れてくる感じがする。
「これ…あげる。」
「え?」
男は俺に小さな白い花の花束を渡してきた。
「…財布、届けに来てくれたお礼。」
「いや、いいよ。元は俺がぶつかったのが悪いし。」
「…放っといても誰も何も言わないのに、届けに来てくれたから…。受け取って?」
「わ、分かった。ありがたく受け取るよ。」
そこまで言われちゃうと、断ることはできなかった。よくわかんないやつだと思ったけど、意外と良いやつなのかもしれない。
「…これから会う妹のために、花束を買う予定だったんだ…。君が届けてくれなかったら、買えなかった…。ありがとう。」
「なら良かった。今度は気をつけて。」
男は無言で頷いた。なんか、弟がいたらこんな感じなのかなって思ってしまった。俺には兄弟も家族もいないのにな。
「…名前…。名前だけ、教えて。」
「あー。いや、今後会うこともないだろうし、名乗るほどのこともしてない。じゃあな。」

俺は男に別れを告げ、花屋を背に走り出した。
俺はあることに気付き一刻も早くここを離れなければならなかった。
やばい。フィジーとレオに離れんなって言われたのに、1人で突っ走って来てしまった。これは怒られるやつだ。しかし、俺は初めて訪れたこの街の道を知らない。さっきは人を探すのに夢中で道なんか覚えて走ってないし。とりあえず戻ろうと道もわからないのに走り出した結果、人がいない裏路地みたいなところまで来てしまったみたいだ。これって…もしかして、迷子?約束破って1人で、行動した挙げ句に迷子て!やってしまったよ…。俺は途方に暮れ、トボトボと歩く。道を聞こうにも奥ばった裏路地なのか人が一人もいない。詰んだな、俺。

「…や!…はな、して!」
なんだ?話し声が聞こえてくる。
あっちのほうか?
声がする方へ行ってみることにした。人がいれば道を聞いて、さっきの店に戻れるかも。
声が段々と大きく鮮明に聞こえてくるに連れて、ただ事ではない雰囲気が伝わってくる。なんか言い争ってる?俺は走るスピードをはやめた。すると目の前に、恰幅のいい男とその腕に捕まっているグレーの髪の女の子がいた。女の子は腕で首を抑えられ首にナイフを突き付けられている。恰幅のいい男は壁に隠れて見えないもう一人の男と話している。
これ女の子めちゃめちゃ危険な目にあってるんじゃ!?恰幅のいい男は女の子を人質にとりもう一人の男と何やら交渉しているらしい。
「お前がこの前捕まえた奴らは俺の部下なんだ。こいつに傷をつけて欲しくなければ部下どもを解放しろ。」
「くっ…!」
おぉ。結構な修羅場じゃねーか。
いや、それお前らが何かしたんだろ、自業自得ってやつなんじゃねぇの?いや、冤罪で捕まっている可能性もあるのか?だとしても、人質はだめだろう。
「それは無理だ。お前らは宝石店の強盗に入り、その場にいた店員に暴行を加えた重罪人だからだ。」
自業自得じゃねーか。
そんなんやって捕まるに決まってんだろ。俺は当たり前過ぎてツッコミを入れてしまった。大人しく捕まってろよ。
ったく。
ナイフを持った男に恐怖心なんて微塵も感じなかった。訓練でフィジーとあんだけ戦ってればな…。あの男がフィジーよりも強いとは思えない。ただ、心配なのは魔力を使いすぎてしまわないかということ。最近は、フィジー相手にも使いすぎず戦えるようになってきたから大丈夫か。俺はもらった花束を地面に優しく置いた。せっかく貰ったのだからダメにしたくない。
俺は助走をつけて地面を強く蹴り上へ飛んだ。俺より体格のいい男の頭頂が俺の目線より下にある。そして、男の右斜め上後方の死角から顔を蹴飛ばした。
男の体は吹っ飛び壁へその身を打ち付ける。その拍子に、ナイフは地面に落ち女の子は腕から解放された。
魔力のコントロールが上手くなったのか、身体操作?ってやつが出来るようになってきている。いつもより身体が軽いしよく動く。普段ならできないような動きが簡単にできる。
男と女の子の間に入り、女の子を俺の方へ寄せる。
「平気か?」
「う、うん…。」
女の子の肩は震え顔色も悪い。その小さな手は縋るようにしっかりと俺の裾を掴んでいる。平気なわけないよな。
「もう大丈夫だ、安心していいよ。」
「ビア!」
「お兄ちゃん!」
俺の後ろから聞こえたその声に反応するように女の子は、声の主の方へ駆けていく。そこにいたのは、さっきの花屋で会ったグレーの短髪の男だった。あぁ、会話で出てきた妹があの女の子なのか。俺は、なるほど、と理解した。
お兄ちゃんの側にいるなら安心だな。俺も一人の方が動きやすい。
恰幅のいい男は、呻き声をあげながら立ち上がる。流石にあれだけじゃ倒れないか。落ちているナイフの刃は血に飢えた獣のように鋭い光を反射している。俺はナイフを拾い上げると兄妹の方へ地面を滑らせるように投げた。素手相手に俺だけ武器持って戦うのは少し気が引ける。怪我だけで収まればいいが、手加減できずに殺してしまうかもしれない。
「持っててくれ。」
一言だけ告げ、俺は男に向き直る。すると、男は笑いながら腰からもう1本のナイフを取り出した。
「手に入れた武器を捨てるなんて余程自信があるのか、余程の馬鹿だな。」
はぁ!?まだ持ってたのかよ!それだと話違くない!?やっぱりナイフ返してもらおうかな。だが、そんな暇は与えてくれず男は俺に飛びかかる。俺は体を反らしナイフを避ける。やっぱりフィジーに比べると体の軸がブレブレだし、どう攻撃してくるかバレバレなんだよなぁ。斬りかかる、避けるの繰り返し。俺より先に息が乱れ始めたのは男の方だった。男の動きは、疲労によって単調になり始め遂には、分かりやすく俺に突っ込んでくる。俺は、刃を避けながら男の手首を掴み投げた。あれだ、背負い投げだ。
地面に体を打ち付けられた男はそれから動かなくなった。頭を打った様子もないし脈はあるから気絶か?
俺は、ふぅ、と息をこぼした。

その一部始終を見ていた兄妹は、なんか、固まっている。あっ。男を背負い投げしたときにフードが脱げてしまったようで、俺の黒い髪が晒された。やばっ。俺の視線に気付いたのか兄の方が口を開いた。
「…た、助かった。…ありがとう。すごいな、君。」
「全然だよ、相手が油断してくれてたから。もっと警戒されてたら危なかったかも。」
「…いや、それだとしても…」
「それより、あいつどうしようか。」
俺は気絶して倒れている男を一瞥する。
「…あぁ、あいつは、俺が引き取るよ。」
「え?」
「…俺、こう見えて、治安隊の隊員なんだ。」
えぇ。聞いてた感じと全然違う!もっと血気盛んな感じかと思ってた。
「そうなのか、じゃあ、後はよろしく頼む。」
この街で、トラブルを起こしたってなると後が怖いからな。特に、ラディとかレオが。なるべく関わらない方が良い。
「うん……。」
治安隊だという男はまだ何か言いたげにしている。
「ん?どうかしたか?」
「…名前…聞いてもいい?また、会えたから。」
んーまぁ、いいか。悪用するようにも思えないし。
「いいよ、俺はレイ。君は?」
「俺は、フェルソン…フェルって呼んで。」
「フェルな。まぁ、いつ会えるか分かんないけどな。」
「うん、でも…また会えると思う。」
ん?どういう意味なんだろ。
「そうか?あっ、俺行かなきゃ!急いでるんだった。」
俺は、貰った花束を取り走り出した。
「この花ありがとなー!」

早く戻らなきゃ。
あ…。

「フェル…道教えてくれる?」




その後、無事にフィジーとレオの2人と合流した。
2人から雷が落ちたことは言うまでもない。
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