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17.イベント
しおりを挟む俺はレオとフィジーの3人で訓練場へと向かっていた。
その途中やけに賑わう声が聞こえてくる。
俺達は、その声のする方へ足を向ける。
するとそこには、いつになく盛り上がっている騎士団の団員達が集まっていた。
それはなぜか。
1週間後に騎士団内でランキング戦が行われるからである。
騒がしいのは、ランキング戦のトーナメント表が発表されたからだろう。
騎士団グアルディアンには毎年決まったイベントがある。そのイベントが、ランキング戦。団員同士でトーナメント形式に闘い競うイベントだ。新しく入団した団員たちが馴染んできた頃に行われ、その結果は今後の任務に編成されるチームに関わってくるらしい。実力を正確に測りチームのバランスをとるんだとか。それと、戦闘スタイルや性格もそこでみられるという。
壁に掲示されているトーナメント表の前に群がる団員たち。
対戦相手を見て、喜んでいる人やうなだれている人、反応は様々である。
俺たちもその群がりに加わり俺の名前を探した。俺は4つのブロックのうちのブロック2だった。レオはブロック1か。
あれ…。
「フィジーの名前なくないか?」
4つのブロック全てを見てもフィジーの名前がどのブロックにもなかった。書き忘れ…なわけないよな。
「あぁ、去年のランキング戦で3位以上のやつはシード権持ってるから決勝トーナメントまで試合ないんだよ。俺は2位だったからシードだ。」
「じゃあ、勝ち上がらないと闘えないってことか。」
「そういうことだ、予選で負けるなんてこと俺は許さねぇからな。ここまで上がってこい。」
「もちろんだ。あんだけフィジーに鍛えられたんだ、次はフィジーに勝って優勝してやる。」
「楽しみにしてる。」
「レイはまず、魔力のコントロールも体内での馴染ませるのを完璧に仕上げないとね。」
「ああ、前と比べたらコントロールも馴染ませるのも上手くなったと思う。でも、完璧じゃないとフィジーには勝てないし優勝なんて無理だ。」
初顔合わせでのフィジーとの戦い以降、俺はフィジーに勝つどころか引き分けることも出来ていない。負けっぱなしだ。最初に戦ったのときは魔力のことなんて考えずに自由に戦ってたけど、今は魔力をコントロールしなきゃいけないし魔法を馴染ませるのも同時にしなくてはいけない。戦いに集中するってことができない。それだけ、俺のコントロールは未熟ってことだ。
「フィジー以外のシードの人は?」
「1位の副団長と3位のアネーロだな。2人とも強えけど頭良くて仕事できるもんだから、色んな所に飛ば…任務行っててほぼこっちにいないんだよ。」
「だからその2人に会ったことがないのか。」
「強いのに頭悪い貴方ができない分回されてんのよ。」
「おい、レオ。俺は頭悪くねぇ、あいつらが良すぎなんだ。」
「でも、アネーロは団長一筋みたいなところあるからレイは気を付けたほうがいいかもね。」
「おい、無視かよ。」
フィジーと言い合ってたかと思ったらこっちに話を振ってきた。
「え?なんで俺が?」
「貴方本気で言ってる?団長が拾ってきただけでも異例なのに、あんだけ世話焼かれてたら嫌でも目立つわ。」
「団長に憧れて入ってきたやつは少なくないからな。実力があるとはいえ、面白くないと思ってるやつも多いかもな。」
「え?俺って目立ってるの?」
「貴方のどこに目立たない要素があるのよ。魔力はさることながら、その黒の外見、さらにはその美貌!」
「びぼ…なんて…?」
今まで垂れ流してきた魔力を考えれば、魔力で目立つのは納得できるが、美貌って!俺そんな美しい顔面持ち合わせてないよ!?
美しいっていうのはグラディウス様のような顔面のことをいうんだよ!?
皆、もしかしてB専なのでは。
「とにかく、アネーロには気をつけることね。まぁ、決勝トーナメントまでは対戦することはないだろうし大丈夫だと思うけど。」
「わ、わかった。気を付ける。」
「でも、レイ、お前魔法の攻撃覚えてなくね?」
「そういえば、そうね。ランキング戦は決勝トーナメントになると、魔法での攻撃が許可されるの。魔法の攻撃があるということは、魔法での防御も必要になってくるわ。」
「まって、ランキング戦っていつから?」
「1週間後よ。」
「…無理ゲーじゃね?」
そうして、ランキング戦までの1週間レオとフィジーによる地獄の特訓が始まったのだった。
フィジーの魔法の得意分野は、身体強化。身体を魔法で強化し獣のようになれる。元々、身体能力はずば抜けて高いはずなのに、そこから魔法でまだ強くなるらしい。
本来の身体強化という魔法自体、人間の体を獣に近づけるまでの能力はないらしい。少し筋肉がデカくなって力が強くなったり、足が速くなるというもの。
しかし、フィジーの身体強化は桁違いだった。言葉で表すなら、獣化。運動能力が上がるのは勿論のこと、聴覚や嗅覚といった五感も鋭くなる。その全てを駆使した、闘いは凄まじかった。
ヒトでいう第六感というものだろうか。移動しようとした場所には既にフィジーが先回りしているし、死角から狙った攻撃でさえ難なく避けられる。
人間離れしたその動きは、まさに獣化。
これは、フィジーの魔力量の多さとコントロール力があってできるものだと思う。
レオにも聞いてみたが、あそこまでの魔力で身体強化させるとなると、コントロールできなかった場合四肢が爆散するリスクがあるのだとか。
それをやってのける、フィジーは伊達に騎士団2位の地位にいないなと改めて感心した。
「フィジーの魔法は、パッと見、脳筋なのにその中身は正確な魔力のコントロールなんてギャップありすぎよねぇ?」
「ああ?ちまちました魔法よりよっぽどかっこいいじゃねえか!」
レオは、緻密な魔力のコントロールが得意らしい。基本的に魔法は、火・水・土・風・光の属性があり、1人につき1つの属性が使用可能らしい。が、レオはその5つ全ての属性が使えるらしい。
フィジーの魔法も別格だったが、レオも別格だな。
レオが言うに、どの属性の魔法を発現するかによって魔力の練り方や構造、イメージが全く違うらしい。その5つの魔力の在り方を理解し、実際に発現させているレオ。それだけでも、すごいのに2つ同時に属性の違う魔法を発現させる。
「レオは軽くやってのけているけど、実際やってみると分かるぞ、脳擦り切れるほど頭使うんだよこれ。そんなの常時やるなんて頭ショートすんぞ。」
「なるほど、だから皆できないのか。レオすごいな。」
「フフッ、惚れ直しちゃったかしら。」
「はじめから惚れてもねーよ。」
「フィジーいったわね!」
少し喋るだけで口喧嘩が始まる2人。なんだかんだで仲いいんだよな。
ちなみに、レオは5つの中で得意な属性は火らしい。なぜなら、「なんにも考えずに出せるから」だと。それほど火はレオと相性がいいのだろうが、口喧嘩が悪化してフィジーがレオの火の生贄になっているのは助けたほうがいいのだろうか…。
炎の赤とレオの朱殷色の髪の毛が同化しそうだ。
「レオってそんなにすごいのになんでシードじゃないの?」
「あぁ、それは去年アネーロに負けたからよ。」
「え?」
「アネーロも2つの属性を同時発現できるのよ。」
「しかも、あいつのはそれだけじゃなくて2つの属性の応用を使うんだ。」
「応用?」
「そう、例えば、火に適量の風や水を加えると爆発、水と風で氷、のように2つの属性を混ぜ合わせて派生した魔法を使うのよ。」
「それってすごいの?」
「ばっっっか、すごいってもんじゃねーぞ。2つ同時に発現させるだけでもしんどいっていうのに、適切な量の魔法を混ぜ合わせる作業なんて拷問だね。あれは一種の変態だ。」
フィジーは俺なら御免だねというように、手をヒラヒラさせている。
「団長はそれでさえも息を吐くようにこなすけどな。」
「そうそう、そんな団長に憧れてアネーロは魔法を練習したらしいわよ。」
「お前、面倒くさそうなやつに目つけられたんじゃねぇの?」
その後、2人からの特訓を受け、瀕死になったのはここだけの話。
自室に戻り1人になると、さっきまで五月蝿かったのが嘘のように静まり返る。
今日の魔法の話を聞いて、俺は元の世界のゲームを思い出した。ゲームをしていたころは、魔法のコマンドが出てそれを選択しただけで魔法を使えた。だが、実際に使う側になってみるとこんなにも難しいものなのだと実感した。
「あれ、そういえば、ゲームの中でレオとフィジーって出てきたことなかったよな。」
あれだけ、すごい魔法を使える団員ならゲームで出てきてもおかしくない。だが、姿だけでなく名前さえも出てきた覚えはない。そして、今日なんども名前が上がったアネーロも。
騎士団が出てくるストーリーはいくつかあった気がするが、その全てにレオもフィジーもアネーロの名前は出てこない。
俺が忘れてるだけか…?
胸騒ぎがする。
俺は、胸騒ぎが収まらないまま、体の疲れに負け目を閉じた。
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