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19.ランキング戦2
しおりを挟む突然、肩に乗せられた手にビクッと身体が震えた。
背後から聞こえてきた声は、どこかで聞いたことのある声色だった。ゆっくりと背後を振り返る。
そこには、グレー色の髪の毛を短く整えている男が立っていた。
「…フェルっ!?」
フェルは、前にレオとフィジーの3人で街へ出かけたときに出会った青年だ。情けなくも帰り道が分からず困っていた時に、道を教えてくれた恩人だった。
「…レイ、久しぶり。」
フェルは相変わらずのゆっくりとしたペースで会話を続ける。
「あぁ、久しぶり。といっても会ったのはついこの間じゃないか。あの時は助かったよ。ありがとう!妹さん…ビアちゃんだっけ?も元気?」
「…こちらこそ、だよ。…あの時助けてくれなかったら、ビアは、どうなっていたこと、か。お陰で、ビアは今も元気にやっているよ。」
街で迷子になっていた俺は、なんと妹さんが襲われている現場に遭遇し、その救出に手助けをしたんだ。捕まえた男の仲間がまた逆恨みで襲ってくるかもしれないと少し不安だったが、今も元気に暮らしているみたいだし、ひと安心だ。俺は、ほっと胸を撫で下ろす。
「フェルは今日ここへは観戦にきたのか?」
なんとなく、フェルはこういった騒がしいものは好きではなさそうだとばかり思っていたがそうではないのかも。
こんな大人しそうな雰囲気出しておいて、実は好きなことには熱狂的なのかもしれないな。
「…今日は、ここの警備を、しにきたんだよ。…前に、言ったでしょ、俺、治安隊の隊員だって。」
「今日って治安隊も警備でここにいるの!?」
確かに、主に街中を日常的に守っているのは治安隊で、今日は街中を巻き込んでのランキング戦だ。
そう考えると、治安隊が競技場の警備を任されるのは当たり前なことなのかもしれない。
騎士団の団員は、各々のランキング戦の試合に集中しているだろうし、治安隊に警備してもらうのが1番か。
あれ、まって、フェルは治安隊が競技場の警備をするってわかってたってこと!?
だから、この前の会ったとき、「また会えると思う」って言ってたのか!?
「フェルがこの前、また会えるって言ったのは、ここでこうやって会えるって分かってたから?でも、俺、騎士団の団員って自己紹介したっけ?」
ここでまた会えると分かっていたということは、俺が騎士団の団員ということに確証があったからだ。俺はあの時、名前しか言わなかったはずだ。なんで騎士団だって分かったんだろう。
「…レイ、すごく強かったし、魔力も多い。…それに最近、騎士団に黒の人が入団したって噂になってた…」
「あー、そういうことか。あの時、俺の髪の毛見られてたのか。」
確か、妹さんを襲っていた男を背負投げたときフードが脱げてたんだっけ。あの時は、それどころじゃなかったから気付かれてないと思ってた。
それはそうと、治安隊と騎士団って仲悪いって聞いてたけど、フェルは、俺が騎士団の団員と分かっても態度を変えずに仲良くしてくれてるんだな。やっぱりフェルはいい奴だ。
「…黒いのきれい…隠すのもったいない…」
フェルは、俺の髪の毛に手を伸ばし1束分手に取ると、その1本1本を確かめる様にサラサラと離していく。
どこまでも深い黒の髪の毛を映す瞳は、どこかうっとりとした艶気のあるように見えた。
そんなに黒色好きなのかな。あんまりこの歳で褒められることなんてないから少し照れる。
「ありがとう、でも、黒は目立つしよく思わない人もいるみたいだしやっぱり隠した方が何かと過ごしやすいんだよ。」
「…そっか…残念…」
フェルは、髪の毛から名残惜しそうに手を離す。髪の毛から目線が外れ、顔があがるとその表情は少しの悲しみが含まれ落ち込んでいるように見えた。
「見たい時は、いつでも見に来ていいからさ、そんな残念がらないでよ。」
「…ありがとう、レイ、優しい…」
フェルの表情から悲しみが消え、パァっと顔がほころんだ。なんだか、歳下の弟をあやしている気分になるな。
「フェルはこのあと、治安隊の警備?」
「…うん、見廻りの人と、交代…。あ、レイに伝えておきたかったことが、ある…」
「伝えておきたかったこと?」
「…今日、何件か不審者の報告が、でてる。気を付けてね…」
「不審者…?」
「…うん、黒いフードを被った人達が、何やら彷徨いてるって…」
「黒いフード…」
…それって…
さっきぶつかった人じゃね!?黒いフード被ってたし、挙動不審だったし。何件か報告があるってことは、1人じゃないってことだろうか。複数人の不審者が同じ場所でほぼ同時刻に目撃されている。何か良くないことが起こるんじゃないだろうか。胸騒ぎが当たらないことを願うしかない。
2人の間に重い空気が流れる。
すると、突然ワァーっと歓声が大きく響く。
さっきまでも、静かとは言い難い盛り上がった会場だったが、それとは比べものにならないほどの歓声が競技場を包んだ。
いよいよ、ランキング戦が始まったのだと会場の盛り上がりが知らせる。
俺もそろそろ戻らないと。
「ランキング戦が始まったみたいだ、もう戻らないと。教えてくれてありがとう。不審者のことは騎士団にも言っておくよ。」
「…うん、がんばって、応援してる。」
フェルに背を向け、待機部屋へと足を進める。
会場の歓声の大きさに比例するかのように、俺の心臓はバクバクと音を鳴らし鼓動をはやめる。
黒いフード、競技場、複数人の不審者…。何かを見落としている気がする。胸騒ぎがおさまらない。
足早に待機部屋へ向う。部屋の扉が見えたと同時に、扉の横に人影が佇んでいるのが確認できた。
誰だ?
騎士団の制服を身に着けているが、見覚えがない。
その人影との距離が縮まるごとに、鮮明に映る。俺と同じか少し低いくらいの身長。紫色の髪色でボブ、1束だけ長い後ろ髪を1つに纏めているようだ。目が大きくパッチリとしている可愛らしい顔から女の子だと思ったが、その口から発せられた第一声で否定された。
「お前がレイか。」
とても低い声だった。
女の子だと思っていたからなのか、予想以上の低い声は冷たく聞こえる。
その冷たい声と目は、真っすぐと俺へ向けられている。熱をどこかに忘れたような冷え切った目線は、俺を憎むようにも感じられた。
「そうだが。」
「団長が連れてきた黒だから、どんなもんかと思っていたが、とんだお子ちゃまじゃないか。聞けば、ついこの間まで魔力のコントロールもまともにできなかったとか。団長もなぜこんなお荷物を拾ってきたのか。お前のようなやつが騎士団にいるのが不思議でならない。」
目の前の男は、口を開けば俺を否定する言葉をぶつけてくる。
いや、確かに言ってることは間違ってないよ?俺自身、騎士団に入れる実力があるかと聞かれれば肯定はできない。1週間前まで魔力のコントロールも満足にできてなかったのは事実だしな。
だが、内容はともかく言い方が腹立つな。
「初対面の人相手に、それは失礼じゃないか?名前も知らない奴に何言われても響かないな。なぜ騎士団にいるのかの答えだが、騎士団に必要とされたからだ。」
「っ……。」
ちょっと言い過ぎたかな。俺も間違ったことは言ってない。いや、ちょっと間違えたな。『俺が騎士団に必要とされた』じゃなくて、『俺が騎士団を必要とした』の方が合ってるかも。
魔力のコントロールの練習として騎士団の訓練に混ざらせてもらうのが最初の目的だったしな。
「っ僕を知らないだと!?」
男は驚いた表情を見せた。
ん?そこ?なぜ驚く?俺が自分を知らないことに驚いてる?こいつはそんな有名人なのか?
生憎、俺はこっちの世界に来てから日が浅いもんで、こっちの有名人とやらも俺は知らない。
誰もが知る人物だというプライドを俺がへし折ったらしい。
「っなんで、団長はこんなやつ…。だが、団長のやることが正しくないわけがない。いや、しかし…」
男は、ブツブツと何か言っている。
こいつ相当、グラディウス様のことが好きらしい。おっと?そうなると、俺とこいつは同担か?俺は、大歓迎だが、男の様子を見るに同担拒否か?
「おい、名前くらい教えてくれてもいいんじゃないか?お前だけ、俺のこと知ってるの嫌なんだけど。」
「くっ…。アネーロ…だ。」
「え?声が小さくてきこえなかった。」
「あ、アネーロだ!」
あねーろ?………。
アネーロ!?あの、アネーロ!?
レオが負けたっていう、めっちゃ魔法使うアネーロ!?
やばい、知ってたわ。有名人だった。
「くそっ…。ランキング戦でボコボコにしてやるから、決勝トーナメントまで上がってこい。」
終わった。
レオから気をつけなさいと、言われていたのに。火に油を注いだらしい。
俺が衝撃の事実に呆然としている間に、アネーロは何処かへ行ってしまい、俺に試合の準備を促す係員の人が迎えに来た。
俺はこころの準備ができないまま試合の時間が来てしまった。
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