小説の定番のセリフを現実に聞いたなら

桃田みかん

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2.アルバートの過去

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 執事とメイド長に伝言を頼んだ後、夫婦の寝室に戻ると布団の中に潜る。

 結婚初日からプランBを発動させる羽目になるとは…



 シルキード子爵家はセレナがサイファ侯爵家に嫁入りすることになった時点で、三歳年下の妹が継ぐことに決まってしまって、もうその為の教育も始まっている。

 白い結婚だからといって、元いた場所には戻れない。
 そもそもこの結婚は家と家の契約でもあるのだから。




 アルバート様は学園時代、当時の騎士団長の子息、エメルディ公爵家の子息と共に当時の王太子殿下の側近候補として行動を共にしていた。

 そこに現れたのが、男爵の庶子で市井育ちのナタリー様。
 王太子殿下(当時)にも高位貴族令息の側近候補三人にも婚約者がいたというのに学園ではナタリー様を囲んでいたらしい。

 礼儀も礼節も弁えない令嬢のどこがいいのか、さっぱり分からないけれど、顔が可愛らしいのは確かみたいだから、顔、なのかしら?
 市井育ちだから男女の距離が近くて気安いって話だし、そこなのかしら?

 わたしはアルバート様とは十歳離れているから、学園で一緒になることはなかったし、噂で聞いただけだけど。

 なぜかは分からないけど、王太子殿下(当時)と騎士団長(当時)子息、エメルディ公爵子息はわざわざ卒業パーティーで揃って婚約破棄宣言をしたらしい。
 ナタリー様を虐めたからとかなんとか。

 隣国で流行ってて、お父様にお土産でもらった本を当時読んでて、その本の中とそっくりの出来事で、そな噂を聞いても全く現実感がなくてちょっとだけワクワクしてしまった。

 だけど、本の世界より現実はシビアで、そもそも政略の為の婚約者を蔑ろにして、他の女を側に置くなんて許されない。

 虐めだなんだって言うけど、王太子殿下(当時)の婚約者だったパールモント公爵令嬢が本気でナタリー様を排除しようと思ったら、既にこの世にナタリー様はいないだろう。

 当然のように返り討ちにあい、彼らの有責にて婚約が破棄されることになった。

 王太子殿下は王太子の座から下ろされ、離宮に幽閉、騎士団長は息子の失態の為その座を退き、当の本人は辺境の警備に回された。
 公爵子息は跡取りから外され地方に飛ばされたという。

 この騒動の中心人物ナタリー様は一応、王子妃候補として、王宮で教育をされているらしいが、その後その姿を見た者はいない。

 当然のように、何年経っても候補のまま。

 王子殿下もナタリー様もこのまま表舞台に出てくることはないという専らの噂だ。
 生きてるかどうかすら怪しい気がする。

 アルバート様はどうなのかと言えば、たまたまなのか、わざとなのか、卒業パーティーの場にはいなかった。

 そもそもアルバート様の元婚約者の侯爵令嬢は一つ年上で、既に卒業されてたから、ナタリー様を虐めようもなかったのだけれど。

 ナタリー様を囲んでいたメンバーとして認識されてしまっていたのが問題だったのか、正確なところは分からないが、婚約は解消された。
 それでも穏便に解消されたらしく、アルバート様にはこれといった罰もなかった。

 その後、元婚約者の侯爵令嬢は外国の高位貴族に嫁いだらしいのだが、アルバート様はそれから十年、結婚しなかった。

 サイファ侯爵の一人息子のアルバート様は二十八歳になっていて、いい加減、結婚して後継を残さなければならない。
 サイファ侯爵はどうしても血の繋がった自分の子に跡を継がせたかったらしい。
 女性関係を除けばアルバート様は優秀だという噂だから、尚更だろう。

 そこで問題となるのが、過去の醜聞なのだ。

 確かに罪に問われるようなことは何もしていないのだが、なまじ何年も結婚しなかったばかりか恋人を作ることもしなかったことで、ナタリー様のことを今も思っていると、嫌厭されてしまったのだ。

 同年代の令嬢はとっくに結婚しているし、年下の令嬢もいくら次期侯爵で見目がよくても、他の人に操を捧げているような男は避けたい。

 自分がどれだけ粗雑に扱われるかわかったもんじゃないからね。

 事実、アルバート様はあれからずっと女性には塩対応、結婚する気ゼロの雰囲気を醸し出していた。

 残ったのは、爵位目当て、お金目当ての下心満載の下位貴族の令嬢だけ。
 
 そんな中、サイファ侯爵が目をつけたのが、シルキード子爵家。
 シルキード子爵家は他国との貿易で財を成していて、下手な高位貴族よりも財産をもっているので、お金目当てで動くことはない。

 そして、シルキード子爵側にも利があったのだ。
 サイファ侯爵領は海に面していて、大きな港がある。
 シルキード子爵の新しく商売相手となった島国との貿易は、その港を使用して行っていて、港の使用料を格安にするという条件に飛びついた。

 しかし、三歳年下の妹がこの結婚を嫌がった為に、本来なら子爵家を継ぐはずだったセレナにおはちが回ってきたのだ。


 自分だけが政略結婚の被害者面をしているのが気に入らない。

「元はと言えばお前のせいだろうが!ばーか!」

 枕にボスボスと拳を叩き込んだあと、ふーっと息を吐き出すと、ぎゅっと目を瞑った。

 もう考えても仕方ないわ。
 これからは好きにさせてもらう!


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