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6.魔法学院入学前に
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「リーリエさん、今日はこれだけ終わらせますよ」
リーリエの目の前にドンと五冊の本が置かれた。
五冊の本は結構な厚みがあり、思わず
「ひぇっ」
と声が出た。
本を置いた彼女のメガネのレンズがキラリと光り、冷たい視線がリーリエに突き刺さった。
メルトロー前侯爵から派遣してもらった家庭教師のマルトレイ夫人は中々に厳しい人だった。
「学院入学まで時間がありませんから、急ピッチでいきますよ」
初めの日にどれくらいのできるかのテストをして、リーリエに見合った勉強を教えてもらっている。
おまけに、周りの貴族令嬢から浮かないようにと、立ち振る舞いやマナーまで教え込まれているのだが、一番苦戦しているのが、肝心の魔法だった。
「まだ始めたばかりだから仕方ないですが、リーリエさんは魔力を操るのが苦手ですね」
マルトレイ夫人に何度も説明されて、理屈は分かっても魔力の流れがよく分からないし、それを思うがままに操るなんて全くできそうにない。
何の準備もせずに入学してたら、どれだけ落ちこぼれることになっていたかと思うと、考えるだけで恐ろしい。
それにしても、こんなに大変だなんて!
偶にいる平民出身の魔力持ちはどうしてるの?
わたしの出来が悪いから大変だって感じるの?
少しの疑問を抱きつつ、今日のノルマをこなすと満足そうにマルトレイ夫人は帰って行った。
教会の外にあるベンチに腰掛け、ぼんやりと日の沈みかけている景色を眺める。
もうすぐ魔法学院が始まる。
このまま魔力が上手く操れないままでは、非常にまずい。
ちょっと、自主練習をしないと。
マルトレイ夫人に教わった通りに指先に魔力を集めるが、集める側からすぐに霧散してしまう。
何度やっても結果は同じ。
深いため息を吐いて俯いた顔を上げると、ふと少し離れた大きな木の側に立っているレオナルドが目に入った。
わたしの護衛なんて、いつも暇そうだし、なんか左遷されたみたいで本当申し訳ない。
「レオナルドさんは魔法を使えるんですか?」
話しかけると、レオナルドの片眉がピクっと跳ね上がる。
リーリエはそれが少し面白くて、最近、時折レオナルドに話しかけている。
「少しは使える。剣の方が得意だから、補助的に使うだけだが」
ぼそっとだけど、ちゃんと返事はしてくれる。
「そうなんだ。魔法を使うコツってあるのかな?わたしは魔力の流れがよく分からなくて」
初歩の初歩から全く進まなくて、ついついため息がでてしまう。
「全身を流れる血液をイメージしたら、分かりやすいと思う。実際・魔力は血液にのって全身を流れてる」
「血液?そっか、なるほど、いいかも」
あんまり期待してなかったレオナルドからの的確なアドバイスに、前世で学んだ理科の教科書が思い浮かんだ。
早速、心臓から流れて巡る血液が指先に集まるイメージを思い描く。
ふわっと指先が暖かくなった。
できた?
レオナルドを見ると、少し微笑んで頷いていた。
リーリエは初めて見るその笑顔に固まってしまった。
美形の笑顔は心臓に悪いわ…
普段は無表情が定番のレオナルドは特に。
「その感覚を覚えておけば、色んな魔法が使えるはずだ」
驚いて口をぽっかり開けているリーリエに気づいたのか、再び無表情に戻ってしまった。
「いつも、そうやって笑ってくれたらいいのに…」
小さく呟くリーリエにレオナルドの冷たい目が向いた。
「いえ、何でもないです」
慌てて、首を振って、頭を下げた。
「ありがとうございます。なんか、コツが掴めた気がします」
ようやく光明が見えた気がして、部屋に戻る足取りが久しぶりに軽い。
よし!これで、落ちこぼれのざまぁされるヒロインにはならないはず!
リーリエの中では、すっかり自分がざまぁされるヒロインになる運命に抗っている気になっていた。
リーリエの目の前にドンと五冊の本が置かれた。
五冊の本は結構な厚みがあり、思わず
「ひぇっ」
と声が出た。
本を置いた彼女のメガネのレンズがキラリと光り、冷たい視線がリーリエに突き刺さった。
メルトロー前侯爵から派遣してもらった家庭教師のマルトレイ夫人は中々に厳しい人だった。
「学院入学まで時間がありませんから、急ピッチでいきますよ」
初めの日にどれくらいのできるかのテストをして、リーリエに見合った勉強を教えてもらっている。
おまけに、周りの貴族令嬢から浮かないようにと、立ち振る舞いやマナーまで教え込まれているのだが、一番苦戦しているのが、肝心の魔法だった。
「まだ始めたばかりだから仕方ないですが、リーリエさんは魔力を操るのが苦手ですね」
マルトレイ夫人に何度も説明されて、理屈は分かっても魔力の流れがよく分からないし、それを思うがままに操るなんて全くできそうにない。
何の準備もせずに入学してたら、どれだけ落ちこぼれることになっていたかと思うと、考えるだけで恐ろしい。
それにしても、こんなに大変だなんて!
偶にいる平民出身の魔力持ちはどうしてるの?
わたしの出来が悪いから大変だって感じるの?
少しの疑問を抱きつつ、今日のノルマをこなすと満足そうにマルトレイ夫人は帰って行った。
教会の外にあるベンチに腰掛け、ぼんやりと日の沈みかけている景色を眺める。
もうすぐ魔法学院が始まる。
このまま魔力が上手く操れないままでは、非常にまずい。
ちょっと、自主練習をしないと。
マルトレイ夫人に教わった通りに指先に魔力を集めるが、集める側からすぐに霧散してしまう。
何度やっても結果は同じ。
深いため息を吐いて俯いた顔を上げると、ふと少し離れた大きな木の側に立っているレオナルドが目に入った。
わたしの護衛なんて、いつも暇そうだし、なんか左遷されたみたいで本当申し訳ない。
「レオナルドさんは魔法を使えるんですか?」
話しかけると、レオナルドの片眉がピクっと跳ね上がる。
リーリエはそれが少し面白くて、最近、時折レオナルドに話しかけている。
「少しは使える。剣の方が得意だから、補助的に使うだけだが」
ぼそっとだけど、ちゃんと返事はしてくれる。
「そうなんだ。魔法を使うコツってあるのかな?わたしは魔力の流れがよく分からなくて」
初歩の初歩から全く進まなくて、ついついため息がでてしまう。
「全身を流れる血液をイメージしたら、分かりやすいと思う。実際・魔力は血液にのって全身を流れてる」
「血液?そっか、なるほど、いいかも」
あんまり期待してなかったレオナルドからの的確なアドバイスに、前世で学んだ理科の教科書が思い浮かんだ。
早速、心臓から流れて巡る血液が指先に集まるイメージを思い描く。
ふわっと指先が暖かくなった。
できた?
レオナルドを見ると、少し微笑んで頷いていた。
リーリエは初めて見るその笑顔に固まってしまった。
美形の笑顔は心臓に悪いわ…
普段は無表情が定番のレオナルドは特に。
「その感覚を覚えておけば、色んな魔法が使えるはずだ」
驚いて口をぽっかり開けているリーリエに気づいたのか、再び無表情に戻ってしまった。
「いつも、そうやって笑ってくれたらいいのに…」
小さく呟くリーリエにレオナルドの冷たい目が向いた。
「いえ、何でもないです」
慌てて、首を振って、頭を下げた。
「ありがとうございます。なんか、コツが掴めた気がします」
ようやく光明が見えた気がして、部屋に戻る足取りが久しぶりに軽い。
よし!これで、落ちこぼれのざまぁされるヒロインにはならないはず!
リーリエの中では、すっかり自分がざまぁされるヒロインになる運命に抗っている気になっていた。
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