【完結】もしかしてヒロインなのでしょうか?断固拒否ということで

桃田みかん

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7.魔法学院入学式①

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 おはようございます。
 なぜかまた、メルトロー家のふかふかの馬車に揺られているリーリエです。
 見慣れた街を通り抜け、まるで豪邸のような魔法学院が見えてきました。
 さすが、王侯貴族の子息令嬢が多く通う王立の学校です。
 あっ!今、誰かとぶつかる予定だったかもしれない門を通り抜けました。
 何ということでしょう。そのまま、馬車の降り場まで直行です。
 到着したので、馬車を降りようとしたら、レオナルドさんが手を貸してくれました。
 お姫さまになった気分です。



「大丈夫か?」
 レオナルドが珍しく、顔が緊張で青白くなっているリーリエを気遣って声を掛けてきた。

 今日は魔法学院の入学式。
 真新しい魔法学院の制服に身を包み、早めに登校しようと準備をしていたところに、リーリエを学院に送るためのメルトロー家の馬車がやって来て、断る間もなく馬車に乗せられ、今に至る。

「大丈夫です。…多分」
 今日のリーリエは目立たないようにしようと、ピンクブロンドの髪をおさげにして、大きめのメガネをかけている。
 だというのに、立派な馬車から降りて、常時無表情とはいえ、目を引く美丈夫のレオナルドと一緒にいるからか、多くの視線を集めてしまっている。

 なんてことなの!
 目立たず、影のようになる作戦が少しも上手くいってない気がする。
 いや、待って。護衛のレオナルドさんが一緒なのはここまでだし、幸い、まだ早い時間なので人も少なめだ。
 まだ大丈夫かもしれない…

「では、いってきます」
 レオナルドと別れて、入学式の会場を目指して歩き始めた。
 
 ここで迷って、遅刻して目立つなんてこともないように、さっさと会場入りをしてしまおう。


 
 はい、絶賛迷子のリーリエです。
 綺麗に整えられた庭木は、きっと、迷路にするつもりだったに違いありません。
 それとも、悪意ある誰かがわたしを迷子にすべく、わざとこんなに入り組んだ作りにしたのか。
 まさか、ダメダメヒロインにする為の強制力なのか。
 花が咲き誇る綺麗な庭で、最初はあんなに感動したのに、わたしの感動を返していただきたいです。



 三十分以上歩き続けて、一向に会場に辿り着かないリーリエ。
 魔法学院の敷地は大変広く、残念なことにリーリエはかなりの方向音痴だった。

 疲れた…

 ベンチに腰掛け、青い空を見上げた。

 建物はいくつか建っていて、最初に目指した建物が会場じゃないことに気づいて、慌てて違う建物を目指したけれど、次もはずれ。
 ウロウロしている間に庭に入り込み、抜け出せなくなっている。

 このままじゃ、完全に遅刻だ。
 というか、今日中に辿り着けるのかしら?
 まさか、魔法学院内で遭難なんてことにならないわよね?


 不安になってきたところに突然、ガサガサと背後の木の葉が揺れる音がした。
 驚いて振り向くと、木の枝を掻き分けてきた黒髪の男子生徒がルビーのような瞳を丸くしている。

 艶のある黒髪を後ろで括って、すらっと背が高く、女性的な美しさを持つ男子生徒だ。

「あれ?何でこんなとこに女の子が一人でいるの?その赤いリボンは新入生?」
 首を傾げるその男子生徒は青いネクタイをしているので、二年生らしい。

 男子生徒はネクタイ、女子生徒はリボン、赤が一年生、青が二年生という決まりがあるのだ。

「もうすぐ入学式始まるけど、真面目そうな顔してまさか早々にサボリ?」
 リーリエは首を傾げる男子生徒の綺麗な顔をじっと見つめた。

 このキラキラ具合は非常に攻略対象者っぽい。
 本当なら、絶対に関わり合いになりたくなかった人だが、背に腹は変えられない。
 
 このまま一人でいても時間までに辿り着ける気が全くしない。
 遅刻や遭難で目立つ寄りはマシだろう。

「道に迷ってしまって。会場はどうやったら行けるか教えてもらえませんか?」
「庭に入り込むとややこしいからね。いいよ。着いておいで」
 にっこり笑うと、男子生徒は先に歩き始めたので、慌てて後を追った。

「ありがとうございます。助かりました。このままずっと彷徨うことになって、遭難したらどうしようかと心配になってたところだったんで」
 リーリエとしては、至極真面目にお礼を言ったつもりだったのだが、何がおかしかったのか男子生徒はケラケラと笑い出した。

「遭難って!君、面白いね」
 
 なんと!面白い奴認定されてしまった。

「俺は二年のアンドリュー・ガルレン、よろしくね」
 お近づきにはなりたくなかったけど、名乗られてしまっては仕方ない。

「リーリエです。面白い人間ではないのですが、よろしくお願いします」
 リーリエが名乗ると益々笑いが止まらなくなったようで、目に涙が溜まっている。

 そこまで笑わなくてもと、白い目で見ると、
「ごめんごめん」
 そう言いながら、肩を震わせている。

 もう放っておこうと、震える背中の後ろを黙って歩く。
 少し歩くと、庭を抜け出して入学式の会場が見えて来た。

 まだ、会場に入って行く人がいる。
 何とかギリギリ間に合ったようだ。

 よかった。遅刻で目立つことは回避できた。
 リーリエはほっと息を吐いて会場に足を踏み入れた。
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