【完結】もしかしてヒロインなのでしょうか?断固拒否ということで

桃田みかん

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29.前世の話をざっくりと

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「パティはどうして、リーリエ嬢の監禁場所が分かったのかな?」
 ライハートが昨日の件で訊きたいことがあると言って、二人のもとにやって来た。

 パトリシアがどうやって、リーリエの監禁場所を知ったのかを説明するには、前世の記憶があることを話さなくてはならない。

  
 二人で相談して、特別な力があるとか言われるのは却って危険なので、疑問を抱いているライハートには前世の記憶について話すことに決めていた。

 信じるか信じないかは、ライハート殿下次第だ。


 パトリシアは前世の記憶の話をして、そこで読んだことのある物語とこの世界がそっくりであり、リーリエの誘拐事件も時系列的には違っているものの、物語にもあったことを説明をしたが、ライハートは難しい顔をして黙り込んでいる。


「ざっくり説明すると、わたしとパティはこことは違う世界で生きていた記憶があって、この世界はそこで読んだ物語と似た世界だけど、現実で、物語と一緒ではないってことです」

「いや、ざっくりし過ぎだろ。全く意味が分からん」
 ライハートは疲れたようにソファにぐったりともたれた。

「でも、パティがそんな荒唐無稽な嘘を吐くとは思えないし…ここは現実で物語と似ているだけってことでいいのか…?」
 一人ぶつぶつと呟いた後、大きなため息を吐いた。

「あの場にいたアンドリューとフェルナンドとレオナルドには、その話をすることになるけど、大丈夫か?信じるかは分からないが、彼らは口も堅いし信頼できる」

「わたしは大丈夫ですよ」
 どうしても秘密にしなければという気のないリーリエはあっさりと了承して、パトリシアの方を見た。

 確かに、パティが監禁場所をぴたりと言い当てたことは何か説明をしないと、気になるだろう。

「彼らなら、無闇に話を広めたりしないと思いますし、大丈夫です」
 パトリシアも頷いたのを見て、ライハートがそれならと話を進める。

「彼らとも相談するが、調書には危険を感じていてリーリエ嬢に居場所が分かる魔道具を持たせていたことにしようと思う」
「そうですね。それなら、すぐに居場所が分かったことが不自然ではないですね」
 ライハートの提案にパトリシアがなるほどと頷いた。


「じゃあ、そのように話を進める。それで、リーリエ嬢、昨日、パティと別れてからの話を聞かせてもらえるか?」
「はい。えっと、頼まれていた資料を研究室に運んで、生徒会室に向かって渡り廊下を歩いている時に突然、後ろから何かを口にあてられて、気がついたらあそこにいました」
 あの部屋で目覚めてからのことを話し終えると、ライハートは顎に手を当てしばらく考えた後、口を開いた。

「これまでに分かったことを…って、もしかして話す必要ないのか?」
 
「いえ、もちろん必要ですよ。現実は別なんで普通に気になります」
 
「そうか。じゃあ、まずはリーリエ嬢を学院から攫ったのは、あの時側にいた若い男だ。あいつは学院の生徒なんだが、妹を人質に取られていて仕方なく犯行に及んだらしい。リーリエ嬢にはずっとレオナルドが護衛でついていたし、学院内は関係者以外入ることができなかったから、こんな手を使ったんだろう」
 ライハートは卑怯なことをすると苦々しい顔になった。

「その妹さんは?」
 わたしを誘拐するために誘拐されたなんて、とんだとばっちりでなんだか申し訳ない。

「あぁ、あの邸の一室に閉じ込められてた。無事助け出したから、大丈夫だ」
 ライハートの返事にリーリエは、巻き込まれた形の彼の妹が無事であったことにほっと息を吐いた。

「主犯はキルバル国の元王女で、今はマキスタ公爵に嫁いでいるから、キルバル国の公爵夫人ということになるな」

「マキスタ公爵夫人が何故こんなことをしたのかということだが、元王女が求婚してきた当時の事情を知る父上、陛下やメルトロー前侯爵、ニコラス神官長から話をうかがった」
 
 ライハートから出される錚々たる名前にリーリエが目を見開いた。

 陛下?国王陛下まで!?

「リーリエ嬢の父親、クラウディオはメルトロー侯爵家の子息で、父上たちとは友人だったらしい」
 
 友人!?国王陛下が?
 
 リーリエが唖然としている間にも話は進んでいく。

「元王女が婚約をゴリ押ししてきた件は知っているのか?」
「それは存じてます。それを避けるために駆け落ちをされたんですよね?」
 ライハートはパトリシアの問いに頷いた。

「馬車を崖から落として、死を偽装したんだ。偽装の話は聞いてはいなかったものの、そうと察して父上たちはわざとおざなりな捜査しかしなかったんだが、元王女は密かに調べていたらしい。未だにクラウディオが生きていると信じていて、娘であるリーリエ嬢を手に入れれば、彼が出てくると思ったらしい」
 本当に執念深いと疲れたように呟いた。

「あっ、それから、リーリエ嬢に目をつけたのは学院祭の時らしい。リーリエ嬢の瞳はクラウディオにそっくりらしいな。わたしもメルトロー前侯爵に似ていて血縁だろうとは思っていたんだ。馬車もメルトロー侯爵家の馬車のようだったし。まぁ、隠しているようだったから、敢えてツッコミはしなかったが」
 ライハートは付け足しのように言うと、すっかり冷めてしまったお茶に手を伸ばした。

 小説内では探偵役のライハート殿下は現実でも色々と鋭かったらしい。
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