【短編集】因果応報

彼岸花

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スキルが好みではなかったので婚約破棄された話

スキルが好みではなかったので婚約破棄された話

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この世界では神殿で神託を受け、スキルを授かる。
神託を受けられるのは、十七歳から。
一定の年齢が必要なのは、スキルの一部にとても危険なものがあるためだ。

もっとも、そんなスキルは極々少数の選ばれた人のみで、ほとんどのスキルは余程悪用しない限り、平和に過ごせるものばかり。

「酪農だと!」

十七歳になったナターシャは、神殿で神託を受け「酪農」というスキルを授かった。
スキルを告げた聖職者も、告げられたナターシャとその家族、そして一緒に神託を受けに来た友人や親族たちも、

「良かった」

と、穏やかで役に立つスキルを喜んだ。

たが、ただ一人だけ、スキルを聞いて激昂した人物がいた。

「酪農だと!」

ナターシャの婚約者のアラン。

「そうです」
「なんだ、その貴族令嬢らしからぬスキルは!」

貴族令嬢らしいスキルとは?とナターシャは思ったが、口は開かなかった。
ナターシャに「貴族らしくない」と言っているアランのスキルは「剣術」
たしかに貴族らしいスキルなのだが、剣術のスキルは持っている人も多く、体格に恵まれてもいなければ、訓練もしていないアランは、同じスキルを持っている者たちのほとんどに遅れを取っていた。

「酪農だという、貴族令嬢らしさ、延いては貴族夫人に相応しくないスキル持ちのお前とは、婚約を破棄する!」

長年婚約者だったアランが思う「貴族令嬢らしいスキル」がなんなのか?ナターシャには見当もつかなかった。

(だから、歩み寄れなかったんでしょうね)

長年婚約関係だったが、二人は不仲……アランはナターシャを嫌い、ナターシャもアランのことは好きになれなかった。

ナターシャはその後、貧しい土地だが、領民と共に酪農で領地を発展させたいという志を持った貴族に求婚され、

「わたしの酪農がどれほどのものかは解りませんが、それでも宜しければ」
「ありがとう!」

自分の酪農のスキルでどこまでできるか、不安はあったが、求婚を受けて嫁いだ。ナターシャは自らのスキルに不安があったので、酪農に関する勉強も怠らなかった。
スキルはナターシャの勉強に応えてくれ、スキルの強度はみるみる上がり、貧しかった領地は、裕福ではないが、かつては餓死者が大勢いたが、ナターシャが嫁いで十年もしないうちにゼロになり、

「ナターシャ。本当にありがとう」
「私こそ」

夫との仲も良好。
煌びやかな貴族生活ではないが、友人を招いて近況を報告しあい、余裕が出来たので家族と旅行をする。
そんな幸せな人生を送っていた。

ナターシャは元婚約者のアランの行く末に関して、全く興味がなかったので知らないが、あの後アランは、ナターシャに隠れて愛を育んでいた相手ミランダと結婚しようと、ナターシャに婚約破棄を告げてから、ミランダを伴い自宅へと戻った。

「酪農ですよ!酪農!貴族令嬢らしからぬスキルですよ!」

馬鹿息子は、酪農の大切さも知らないのか……と、父親は呆れた。実はアランは自分のスキルが剣術だと判明してから、勉学からは遠ざかっていた。
もともと勉強が出来なかったのを、スキルのせいにもしていた。そんなアランの両親は勤勉なナターシャが嫁いでくれたら……そう思っていたのだが、息子が独断で婚約を破棄し、その場にいたナターシャの両親もその破棄を飲んだ。

「破棄を受け入れる代わりに、復縁はなしだ」

そんな文章が添えられていた。
アランの両親は頭を抱えた。そして、婚約したいと紹介されたミランダのスキルが、

「ミランダは貴族令嬢らしいスキルの持ち主なのです」
「なんというスキルだ」

話術か刺繍か等と思っていたアランの両親は、

「聖女なのです!神殿で神に仕えることを、許された女性なのです!」

ナターシャ任せで、自分の息子をしっかりと教育してこなかったことを後悔した。
息子アランの隣で頬を赤らめているミランダも、息子と同じ貴族としての常識を学んでいなかったのが解った。

「アラン、聖女というのはスキル無し、無能のことだ」
「は……」
「え……」
「スキルがないと結婚就職にも不利だ。そこで女性は聖女、男性は聖人という称号を与え、神殿で働かせるという仕組みになっている。独身なのは、誰も無能と結婚したがらないからだ」
「いや、そ……」

冷や汗をかき、言葉を失っている息子に、

「ここまで馬鹿だったとは。ナターシャのご両親が、復縁などないと書類に書き記すわけだ」

それだけ言って、父親は深く息を吐いた。

ミランダの実家にも行き「聖女がなにかすら、知らない娘だったとは」とミランダの両親も呆れた。
ミランダは聖女と認定されてから、両親が神殿に入るため身の回りの準備をするよう命じたこともあり、アランに言い寄って神殿入りを阻止しようとした。

ミランダの希望通り、神殿に入らなくて済んだものの、アランは実家から追い出され、二人は慣れない庶民生活にすぐに音を上げたが、実家に拒絶され、困窮者として神殿の炊き出しの列に並ぶ。

そこでは聖女や聖人が細々と動き、奉仕活動を行っていた。その姿はいまのミランダとは比べ物にならないほど輝いていた。
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