【短編集】因果応報

彼岸花

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死に戻った私は夫だったモノの罪を叫ぶ

死に戻った私は夫だったモノの罪を叫ぶ

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「かはっ……」

今まで感じたことのない熱が喉を焼き、思わず口に手を当てると、指の隙間から生温い液体が溢れ出した。
指から零れたのは血。

それに気付いた時には、椅子から崩れ落ちた。床にたたき付けられたのかもしれないが、体の感覚がなくなっているらしく、痛くなかった。

向かい側に座り、一緒にお茶を飲んでいた夫は……

「死んだ?」

頭上から夫のものではない声が聞こえてきた。たしかこの声はメイドの……

「まだ見苦しく足掻いている」

メイドの問いに答える夫の声は、とても冷たかった。

「早く死ねばいいのに」
「こんなにしぶといとは、医者の私ですら思わなかったよ」

夫のケビンは我が家お抱えの医者だった。
ケビンがやってきたのは、私が十三歳の時。
年上で知的、すっきりとした目元と穏やかな話し方に、私は憧れた。
多分……いや間違いなく、初恋だった。
事故で両親を失った私を、献身的に支えてくれ、そして結婚した……


「両親の遺産ですよね。この女の魅力って、それしかないでしょ」
「ああ」
「死んだら、ケビンが全遺産を継ぐのよね」
「そうだ。そしたら、お前には何不自由ない生活をさせてやるぞ、エリナ」
「嬉しい。大好き、ケビン」
「私もだ。長いこと待たせたな。ディックも」

視界が狭まり徐々に暗くなってゆく。でも聴覚だけは失われず、二人は私の死後の生活を愉しげに語っていた

「避妊薬を混ぜたお茶を飲ませていたのに、妊娠なんかするから悪いんだ」
「この女との間に子どもができたら、ケビン遺産貰えないもんね」

……子どもができたと……言ったとき……喜んで……くれたのは…………惨め……

――――――

「お嬢様。お目覚めの時間ですよ」

聞き覚えのある声に、私は驚いて目を開けて体を起こした。

「あ……」
「どうなさいました?フランカ様」

私を起こしたのは、昔から我が家に仕えてくれているメイド。
私が結婚する前に、結婚するので辞めたメイドだった。

「あ……あ……」

喉が渇いて口内が張り付いて、上手く言葉を発することができない。
お父様と、お母様の所へ早く行かなくてはいけないことに気付き、慌ててベッドから飛び起きて、

「お嬢様!」

メイドの慌てる声を聞きながら、両親の元へと急いだ。
寝間着姿の私を見て両親は注意してきたが、それすらも嬉しかった。

「お母様!お父様!会いたかった!」
「どうしたの?フランカ」
「怖い夢でも、見たのか?」
「お母様!お父様!ああああああ……!」

喉が裂けるほど叫ぶ。
もう二度と会えないと思っていた両親。突然の事故でお別れを言えなかった両親。

「フランカ、フランカ」

部屋に飛び込んだ時は怒っていたお母様だが、慟哭する私を抱きしめてくれた。

「ケビンを呼べ」

お父様が私の身を心配して、主治医のケビンを呼ぶよう、従僕に指示を出す。

「いやああ!お父様!ケビンを呼ばないで!」
「フランカ?」
「ケビンはお父様とお母様を殺そうとしているの!」

私は全身で叫ぶ。

「何を言っているのだ、フランカ?」
「お父様と、お母様を殺して、私を慰めて結婚して、財産を手に入れようとしているの」

あまりに荒唐無稽な叫びに、両親はもう一度ケビンを呼ぶよう従僕に指示を出したが、

「信じてお父様!ケビンには、内縁の妻エリナと、その間にディックという子を儲けているの!」
「…………」

具体的な名前を出したことで、お父様は少し考えてくれ、部屋にいた従僕と、やってきた家令にケビンの調査指示を出した。
その間、私はお母様の実家へ。

邸を出る時、ケビンが「お嬢さまの体調をもっともよく知っているのは、私なので、同行いたします」と言っていたが、お父様は許さなかった。


三週間後「片付いた」と、お父様から連絡が届き、私とお母様は実家に帰った。
我が家の主治医はケビンではなくなっていた。

そして我が家にいたケビンは、先代医師が紹介したケビンではなかった。医者なのだが、犯罪を犯した人物で、本物のケビンが我が家に雇われるという情報を掴んで、彼を殺害し紹介状を手に入れて我が家へとやってきた。

「私たちを殺す計画など練っていないと言っていたが、フランカが言った通り、下町に内縁の妻と子がいた」

殺人や経歴偽装で貴族の邸に入り込んだことなどで、ケビンは処刑され、エリナと息子は強制労働施設に送られたと、お父様が教えてくれた。

「お前に何ごともなくて、良かったフランカ」

お父様に抱きしめられ、私はやっと人心地ついた。


ここでは、まだ私に対して何もしていないケビンを、貴族の権力で排除することに、少しだけ躊躇いがあったが、既に殺人を犯した身の上だと聞き、そんな気持ちは無くなった。


夢見がちだった私は、親ではなく自分で結婚相手を決めたいと言い、前回は婚約相手がいなく、そして初恋だったケビンと結婚してしまった。

その反省から、ケビンのことが片付いてすぐに、両親に結婚相手を見つけて欲しいと頼み、身元がしっかりとした男性と結婚することができた。

花嫁衣装姿の私を見て喜ぶ両親の姿に、私も涙が溢れ出す。

そして、前回は会えなかった我が子に会えることを楽しみに、お父様と腕を組みバージンロードをゆっくりと歩み出した。
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