【短編集】因果応報

彼岸花

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灰かぶり、遺産を放置する

一族の特性

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「逃げられた……だと……」

灰かぶりが離宮の王子の手下によって連れ出された後、邸内は当然ながら大騒ぎになった。
遺産を受け継ぐたった一人の娘が逃げ出したら、騒ぎになって当然だが、この騒ぎには別の一面もある。

実は灰かぶりの一族のほとんどは、人の顔を覚えることができない。
顔を覚えるのが苦手というレベルではなく、それは顔だと解るが、判別が全くつかない。

顔が区別できないのなら、灰かぶりが遺書にあった娘だとは解らないのではないかと思われるかもしれないが、灰かぶりの家は使用人を名ではなく番号で呼び、お仕着せにも番号を振っていた。
全ては番号で管理されており、遺書には灰かぶりの名前と共に番号が記載されていた。

灰かぶりの婿が遺産を受け継ぐことが決まった時点で、灰かぶりは使用人ではなくなるので、振られていた番号では呼ばれなくなる。

そのため、速やかに隔離されたのだ。

灰かぶりはこれらの説明は受けていないので、ただ財産狙いで自分を監禁しているのだろうとしか思わなかった。灰かぶりのその考えも、間違いではないが、とにかく彼らは灰かぶりの容姿が解らない。

閉じ込めた灰かぶりに食事を運んでいた使用人だが、一族の一派閥に買収され、灰かぶりの情報を流していた。
それを敵対している派閥に気付かれ、食事を運ぶ役が変えられたが、変えた召使いは離宮の王子の恋人で、灰かぶりを連れ出してしまった。

全員、一度は灰かぶりの顔を見ているのだが、ほとんどの者が認識できず。ただ顔を判別できる者もいる。
だが彼らは自分が顔を認識できると公表してしまえば、大多数を占める失顔症の者たちに排除されてしまうので、口を噤む。

その結果が、あの靴を使っての調査だった。

あちらこちらの街で、若い女の足を削る原因となった靴だが、あれは灰かぶりが置いていった荷物の中にあったもの。
だが灰かぶりのものでもない。

単純に、本当にどこかから紛れ込んだものだった。

捜索隊に靴を持たせた一族の者達は、その靴がぴったり合う者が灰かぶりだと噂を流したが、彼らもそんなことは信じていない。

灰かぶりはその噂を聞いても、きっと現れないことは解っていた。だから年頃で靴を履きたがらない娘の元へと出向き、情報を集めて最終的に、既に身柄を捕らえた離宮の王子の恋人の女性に判別させることにしていた。

恋人の女には「修道院送りになった王子を、修道院から連れ出して、二人で暮らしていけるようにしてやる」という条件付で協力させていた。

もっとも彼らはとても疑り深いので、恋人の女の証言だけでは信用できないということで、離島の修道院に隔離された元王子を連れ出して、恋人の命と引き替えに、灰かぶりと思しき娘達を見せて、本人を探し出させようとしていた。

灰かぶりの夫の条件を見逃すくらい、軽率な二人なので、この甘言に騙されて協力を約束した。

既にこの世にいない者として扱われている二人と、灰かぶりの一族が約束を守るとは、普通は考えないのだが、元王子は「あんな策」が上手く行くと思っていたほど、脳内がお花畑で、同じく上手く行くと思っていた恋人も似たようなもの。

こうして二人は別々に、捜索隊が目星を付けた女性たちを、確認したが灰かぶりを見つけることはできなかった。

灰かぶりは変わらず薬草屋で働いていたのだが、監禁されていた時とは違い、髪をしっかりとまとめ、眉をきつめに描き、人前に出る時は意識して口角を上げていた。その唇には、薬草屋一推しのリップクリームが塗られ、艶々している。

灰かぶりは一族の人間の大半が、失顔症だとは知らないので、顔を見られても解らないようにと、メイクで当時と随分雰囲気を変えていた。

一族の人間には、メイクを変えるなどというのは無意味なことだが、元王子とその恋人には効果があり、二人は灰かぶりを見つけることができなかった。
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