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婚約破棄された私
後編
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「婚約を白紙にしたい」
七年間婚約していた彼女に告げると、彼女はとても驚いた。
無理もないことだ。
彼女は私のことを愛しているのだから。
そして私も彼女のことを、大切に思っているのだから。たとえ愛していなくとも、大切に思って……
「すでに白紙になっておりますが?」
「え……白紙に、なっている……」
彼女の言葉の意味が解らなかった。
私と彼女の婚約が既に白紙になっている?
言葉を失っている私に、彼女は続けて言ってきた。
「一ヶ月ほど前に貴方との婚約は白紙になりました」
初めてみる彼女の呆れを隠さない表情。
「なにを言って……」
「なにを言ってとおっしゃいましても」
「私の気を惹きたいからといって、嘘をつくな!」
「気を惹きたい……ですか?」
「そうだろう?私との婚約が白紙になっているのなら、君の警護に近衛が就くはずがない!」
近衛が護衛するのは皇族だけ。
彼女は近衛を伴って、私のところへと来た。
室内にはもちろん近衛がいる。
彼女は近衛の一人と視線をかわし、
「なにか伝えたいことがあるのかと思い時間を取りましたが、それ以前のようですね」
ソファーから立ち上がり、
「もうお話することはないので、はっきりと言っておきますが、わたくし、貴方の気を惹きたいなどと思ったことは一度もありません。わたくしは貴方のことを男性として好いたことは一度もございません。ただ義務として婚約者になっただけのこと。お間違えのないように」
近衛を引き連れ、私の元を去っていった。
「待て!」
私が叫び追いかけようとすると、部屋にいた近衛に捕らえられた。
「離せ!」
叫んで振り払おうとしたが、近衛は私から手を離さなかった。
――――――
彼女が去ったあと、父の執務室へと連行された。
「これが皇子に対する言動か!近衛の誇りはないのか!」などと叫んだが無視された。
執務室につれて来られた私は、罪人のように腕を捻りあげられ膝をつかされ、
「お前は皇籍から抜く。皇太子?とっくの昔に皇太子の地位は別の者に移っている。皇太子になれる血筋は大勢いる。あんなことをしていて、皇太子のままでいられると思っていたのか?」
「お前の元婚約者は、新たな皇太子の婚約者になった。彼女は優秀だからな…………なんと!まさかいまだに自分が婚約していると勘違いしていたと?愚かになったものだ。いや、化けの皮がはがれただけか。もういい、それを下がらせろ」
父は書類から視線を上げることなく、私に告げた。
「父上!待って下さい父上!」
私はまた引きずられながら執務室から引きずり出され、廊下も引きずられた。
私たち皇族の生活する場ではない、使用人たちが住む区画を通り過ぎ、人気のない簡素な空間を抜けたさきに、一台の馬車があった。
「あれに私を乗せるつもりか!私が一体なにをしたというのだ!父上に!父上に話を!」
私の叫びは無視され手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされて馬車に押し込まれた。
薄暗い馬車内には先客がいた。誰かは解らなかった。
そのまま馬車が走り出し、どことも知れない小さい窓が遙か頭上にある、堅牢な塔に先客とともに放り込まれた。
先客は私の愛しい女性だった。
その後、私と愛しい女性は声の限りに叫んだが、誰も答えてはくれなかった。
一日一食だが食事は差し入れられ、たまに新聞も食事が載った盆に乗せられていた。
新聞には皇太子になった私の従兄と彼女が結婚したこと、彼女が妊娠したこと、無事に出産したこと、そして父が退位し、従兄が即位したこと。
私は新聞の余白に皿に残ったソースで愛しかった女と浮気したことに関する詫び、そして二度とそんなことはしないから許してくれ、これを父や彼女に渡してくれと書き、食器を返却する盆に乗せているが、返事が返ってきたことはない。
私のことを愛している彼女なら……と思ったのだが、もしかしたら、私は本当に彼女に愛されていないのだろうか?
そんなはずは……
七年間婚約していた彼女に告げると、彼女はとても驚いた。
無理もないことだ。
彼女は私のことを愛しているのだから。
そして私も彼女のことを、大切に思っているのだから。たとえ愛していなくとも、大切に思って……
「すでに白紙になっておりますが?」
「え……白紙に、なっている……」
彼女の言葉の意味が解らなかった。
私と彼女の婚約が既に白紙になっている?
言葉を失っている私に、彼女は続けて言ってきた。
「一ヶ月ほど前に貴方との婚約は白紙になりました」
初めてみる彼女の呆れを隠さない表情。
「なにを言って……」
「なにを言ってとおっしゃいましても」
「私の気を惹きたいからといって、嘘をつくな!」
「気を惹きたい……ですか?」
「そうだろう?私との婚約が白紙になっているのなら、君の警護に近衛が就くはずがない!」
近衛が護衛するのは皇族だけ。
彼女は近衛を伴って、私のところへと来た。
室内にはもちろん近衛がいる。
彼女は近衛の一人と視線をかわし、
「なにか伝えたいことがあるのかと思い時間を取りましたが、それ以前のようですね」
ソファーから立ち上がり、
「もうお話することはないので、はっきりと言っておきますが、わたくし、貴方の気を惹きたいなどと思ったことは一度もありません。わたくしは貴方のことを男性として好いたことは一度もございません。ただ義務として婚約者になっただけのこと。お間違えのないように」
近衛を引き連れ、私の元を去っていった。
「待て!」
私が叫び追いかけようとすると、部屋にいた近衛に捕らえられた。
「離せ!」
叫んで振り払おうとしたが、近衛は私から手を離さなかった。
――――――
彼女が去ったあと、父の執務室へと連行された。
「これが皇子に対する言動か!近衛の誇りはないのか!」などと叫んだが無視された。
執務室につれて来られた私は、罪人のように腕を捻りあげられ膝をつかされ、
「お前は皇籍から抜く。皇太子?とっくの昔に皇太子の地位は別の者に移っている。皇太子になれる血筋は大勢いる。あんなことをしていて、皇太子のままでいられると思っていたのか?」
「お前の元婚約者は、新たな皇太子の婚約者になった。彼女は優秀だからな…………なんと!まさかいまだに自分が婚約していると勘違いしていたと?愚かになったものだ。いや、化けの皮がはがれただけか。もういい、それを下がらせろ」
父は書類から視線を上げることなく、私に告げた。
「父上!待って下さい父上!」
私はまた引きずられながら執務室から引きずり出され、廊下も引きずられた。
私たち皇族の生活する場ではない、使用人たちが住む区画を通り過ぎ、人気のない簡素な空間を抜けたさきに、一台の馬車があった。
「あれに私を乗せるつもりか!私が一体なにをしたというのだ!父上に!父上に話を!」
私の叫びは無視され手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされて馬車に押し込まれた。
薄暗い馬車内には先客がいた。誰かは解らなかった。
そのまま馬車が走り出し、どことも知れない小さい窓が遙か頭上にある、堅牢な塔に先客とともに放り込まれた。
先客は私の愛しい女性だった。
その後、私と愛しい女性は声の限りに叫んだが、誰も答えてはくれなかった。
一日一食だが食事は差し入れられ、たまに新聞も食事が載った盆に乗せられていた。
新聞には皇太子になった私の従兄と彼女が結婚したこと、彼女が妊娠したこと、無事に出産したこと、そして父が退位し、従兄が即位したこと。
私は新聞の余白に皿に残ったソースで愛しかった女と浮気したことに関する詫び、そして二度とそんなことはしないから許してくれ、これを父や彼女に渡してくれと書き、食器を返却する盆に乗せているが、返事が返ってきたことはない。
私のことを愛している彼女なら……と思ったのだが、もしかしたら、私は本当に彼女に愛されていないのだろうか?
そんなはずは……
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