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1年前に婚約破棄と、冤罪で国外追放を宣言した元婚約者がいきなり現れた
中編
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「なんで俺が!」
俺の婚約者が決まった。決定してから告げられたことを抗議したが、
「お前の抗議など聞く必要はない」
と父に返された。
「俺だって父さんみたいに、自分の好きな女性と結婚したかったのに!」
俺の父は公爵家の当主だが、母と恋愛結婚の末に結婚した。だから俺だって、恋愛結婚してもいいはずなのに!
俺は何度か父に婚約をなかったことにして欲しいと頼んだが、まったく聞いて貰えなかった。
俺の抗議も虚しく、隣国から俺の婚約者になる女がやってきた。その女の名前はブランシュ。故国では賢いことで有名だったらしく、こっちに到着する前から、家庭教師として教授を複数呼んでいた。
とても賢く、家庭教師を戸止めた享受たちも褒めていたらしいが、俺はそういう、あたまでっかちな女は嫌いだ。
「あの娘は、ジャンの運命の恋人ではないわね」
厳しい父とは違い、母は俺に優しい。
婚約者について文句を言いに行くと、母もそう言ってくれた。
そして恋人を持つことを勧めてくれた。
そうだ、貴族は妻は政略で迎え、恋人とは恋愛を楽しむものだった。
実の両親が恋愛結婚で、どちらも愛人を持っていないから、気付けなかった。両親のような相思相愛の夫婦が理想だったが、愛しい恋人との巡り会いを諦める必要はない。
そして俺はアンジェリクと出会った。
彼女は何もかもが好みで、
「一目あっただけで、こんなに好きになってしまうなんて」
アンジェリクも同じように思ってくれた。
そして俺たちは恋人同士になった。母に会わせると、
「ジャンにとってもお似合いだわ」
ブランシュなんかよりも、ずっと気に入ってくれた。
父はアンジェリクには会ってくれなかったが、特になにかを言ってくることはなかったから、内心では父も政略結婚ではなく恋愛結婚をして欲しいと思っているのだと”勘違いしていた”。
アンジェリクと幸せな日々。
「実は……」
だがある日、アンジェリクが涙ながらに、ブランシュから受けている嫌がらせを告げていると告げられた・
俺は怒りで目の前が真っ赤になった。
嫉妬に狂った女ほど醜悪なものはない。
思うと同時に、やはり俺は両親と同じく幸せな結婚をしたい。だから、やはりブランシュとは結婚できない。
気持ちに素直になろう。母だって、好きという気持ちは抑えきれないものだと言っていた。
きっと父も解ってくれるに違いない。
だから俺は夜会で断罪して婚約を破棄し、国外追放を宣言した。
ブランシュも少しは恥という気持ちがあったのか、特に抵抗せずに国から出ていった。
――――――
アンジェリクとの幸せな生活が待っていると、信じて疑っていなかった俺だったが、現実は甘くはなかった。
「俺はアンジェリクと結婚したいんです!」
ブランシュを追放してすぐに、父にアンジェリクとの結婚許可をもらおうとしたのだが、父から想像もしていない言葉が返ってきた。
「あんな阿婆擦れと?正気か?」
「失礼なことを言わないで下さい!俺達は愛し合っているんです!父さんと母さんと同じように相思相愛なんです!」
「私とアレが相思相愛?馬鹿も休み休み言え」
「え、なにを?父さんと母さんは、政略などではなく愛し合って結婚したんですよね」
甘くないというより、俺が見ていた世界は、俺の想像と思い込みが大半を占めていて、現実は違った。
「誰がそんなことを……ああ、アレか。お前の母親が言ったのか」
「はい」
「アレは政略結婚に使えない、無能な王女だ。だから、我が公爵家が臣下として引き受けただけだ。アレがお前を焚きつけたのか。自分が政略結婚の駒にも使えぬ無能だと、前国王に言われ臣籍降嫁したのがアレだ。他の候補者達と、くじ引きで決めただけだ」
「くじ引き……」
「誰も引き取りたくはなかった。候補者達は私も含めて、全員婚約者がいたのだからな。結局私が引き当ててしまい、私は婚約者とは別れることになってしまった」
母は言っていた。父が母のことを好きになって、二人は相思相愛になり、父は婚約者に婚約破棄を告げて、母と結ばれたと。
その時父は、婚約者に国外追放も命じたと。
だから俺は父と同じことをした”だけ”のつもりだった。
「アレはそんなことを言っていたのか。そんなことはない。全部、アレの妄想だ。少し調べれば解ることだろう……お前はアレの血が濃いのだろうな。外れも外れ、息子まで外れを産むとは。アレが理想ならば、あの阿婆擦れが理想の女に見えて当然か」
父はそう吐き捨てるように言った。
「ジャンを部屋から出すな」
俺は召使い達に引きずられ、部屋に閉じ込められた。
何度も部屋のドアを叩いたが開かず、そしていつの間にか疲れて眠ってしまった。夢も見ないほど泥のように。
そして目を覚ましたが、部屋のドアが開くことはなかった。
もちろんアンジェリクとも連絡を取ることができず、室内を歩き回ることしかできなかった。
『……って』
『だ……よね……』
日中、ふと何かが聞こえてきた。
耳を澄ましていると、
『あの阿婆擦れ……行きだって』
『醜態をさらしまくったて』
『この家のバカ以外にも、三人だっけ?』
『四人って聞いた』
『陛下がお怒りだって』
メイド達の話し声が聞こえてきた。
今まで気付かなかったが、どうやらメイド達の休憩場所の音が、届くらしい。
外の情報に飢えていた俺は、聞き耳を立てる。
そして知ったのは、アンジェリクは俺以外にも複数の男性と付き合っていたこと。
それにより婚約破棄になった家が他にもあったこと。
俺とブランシュの婚約を壊したことで、アンジェリクは国王陛下の逆鱗に触れ、マルロー伯爵家は全員、強制労働施設へと送られた。
そして、
『ついにジャンが廃嫡になるらしいよ』
『バカだよね』
『でも旦那様、喜んでるよ』
『相思相愛の恋人で婚約者だった……との間に生まれた子を跡取りにすることができるんだから』
『知ってる?バカが旦那様と王家の阿婆擦れが、相思相愛だと思ってたって』
『聞いた!聞いた!旦那様の何処を見たら、あのキモ若作りのこと愛しているように見えるんだろ』
『バカだから!』
『あのバカ、バカだよね。婚約者が隣国の……公爵家のお姫様だから、跡取りになれたのに』
『廃嫡間近だね』
父の息子は俺しかいないと思っていたのだが、父には他にも子どもがいた。それも元婚約者との間に……相思相愛だと……。
それよりも、俺が廃嫡だと!父の元の婚約者は貴族で愛人。俺の母は王女で正妻。まだ俺のほうに分がある!
……そうだ!ブランシュだ!ブランシュと婚約を結び直すことができたら、
きっと俺は公爵になれる!
俺の婚約者が決まった。決定してから告げられたことを抗議したが、
「お前の抗議など聞く必要はない」
と父に返された。
「俺だって父さんみたいに、自分の好きな女性と結婚したかったのに!」
俺の父は公爵家の当主だが、母と恋愛結婚の末に結婚した。だから俺だって、恋愛結婚してもいいはずなのに!
俺は何度か父に婚約をなかったことにして欲しいと頼んだが、まったく聞いて貰えなかった。
俺の抗議も虚しく、隣国から俺の婚約者になる女がやってきた。その女の名前はブランシュ。故国では賢いことで有名だったらしく、こっちに到着する前から、家庭教師として教授を複数呼んでいた。
とても賢く、家庭教師を戸止めた享受たちも褒めていたらしいが、俺はそういう、あたまでっかちな女は嫌いだ。
「あの娘は、ジャンの運命の恋人ではないわね」
厳しい父とは違い、母は俺に優しい。
婚約者について文句を言いに行くと、母もそう言ってくれた。
そして恋人を持つことを勧めてくれた。
そうだ、貴族は妻は政略で迎え、恋人とは恋愛を楽しむものだった。
実の両親が恋愛結婚で、どちらも愛人を持っていないから、気付けなかった。両親のような相思相愛の夫婦が理想だったが、愛しい恋人との巡り会いを諦める必要はない。
そして俺はアンジェリクと出会った。
彼女は何もかもが好みで、
「一目あっただけで、こんなに好きになってしまうなんて」
アンジェリクも同じように思ってくれた。
そして俺たちは恋人同士になった。母に会わせると、
「ジャンにとってもお似合いだわ」
ブランシュなんかよりも、ずっと気に入ってくれた。
父はアンジェリクには会ってくれなかったが、特になにかを言ってくることはなかったから、内心では父も政略結婚ではなく恋愛結婚をして欲しいと思っているのだと”勘違いしていた”。
アンジェリクと幸せな日々。
「実は……」
だがある日、アンジェリクが涙ながらに、ブランシュから受けている嫌がらせを告げていると告げられた・
俺は怒りで目の前が真っ赤になった。
嫉妬に狂った女ほど醜悪なものはない。
思うと同時に、やはり俺は両親と同じく幸せな結婚をしたい。だから、やはりブランシュとは結婚できない。
気持ちに素直になろう。母だって、好きという気持ちは抑えきれないものだと言っていた。
きっと父も解ってくれるに違いない。
だから俺は夜会で断罪して婚約を破棄し、国外追放を宣言した。
ブランシュも少しは恥という気持ちがあったのか、特に抵抗せずに国から出ていった。
――――――
アンジェリクとの幸せな生活が待っていると、信じて疑っていなかった俺だったが、現実は甘くはなかった。
「俺はアンジェリクと結婚したいんです!」
ブランシュを追放してすぐに、父にアンジェリクとの結婚許可をもらおうとしたのだが、父から想像もしていない言葉が返ってきた。
「あんな阿婆擦れと?正気か?」
「失礼なことを言わないで下さい!俺達は愛し合っているんです!父さんと母さんと同じように相思相愛なんです!」
「私とアレが相思相愛?馬鹿も休み休み言え」
「え、なにを?父さんと母さんは、政略などではなく愛し合って結婚したんですよね」
甘くないというより、俺が見ていた世界は、俺の想像と思い込みが大半を占めていて、現実は違った。
「誰がそんなことを……ああ、アレか。お前の母親が言ったのか」
「はい」
「アレは政略結婚に使えない、無能な王女だ。だから、我が公爵家が臣下として引き受けただけだ。アレがお前を焚きつけたのか。自分が政略結婚の駒にも使えぬ無能だと、前国王に言われ臣籍降嫁したのがアレだ。他の候補者達と、くじ引きで決めただけだ」
「くじ引き……」
「誰も引き取りたくはなかった。候補者達は私も含めて、全員婚約者がいたのだからな。結局私が引き当ててしまい、私は婚約者とは別れることになってしまった」
母は言っていた。父が母のことを好きになって、二人は相思相愛になり、父は婚約者に婚約破棄を告げて、母と結ばれたと。
その時父は、婚約者に国外追放も命じたと。
だから俺は父と同じことをした”だけ”のつもりだった。
「アレはそんなことを言っていたのか。そんなことはない。全部、アレの妄想だ。少し調べれば解ることだろう……お前はアレの血が濃いのだろうな。外れも外れ、息子まで外れを産むとは。アレが理想ならば、あの阿婆擦れが理想の女に見えて当然か」
父はそう吐き捨てるように言った。
「ジャンを部屋から出すな」
俺は召使い達に引きずられ、部屋に閉じ込められた。
何度も部屋のドアを叩いたが開かず、そしていつの間にか疲れて眠ってしまった。夢も見ないほど泥のように。
そして目を覚ましたが、部屋のドアが開くことはなかった。
もちろんアンジェリクとも連絡を取ることができず、室内を歩き回ることしかできなかった。
『……って』
『だ……よね……』
日中、ふと何かが聞こえてきた。
耳を澄ましていると、
『あの阿婆擦れ……行きだって』
『醜態をさらしまくったて』
『この家のバカ以外にも、三人だっけ?』
『四人って聞いた』
『陛下がお怒りだって』
メイド達の話し声が聞こえてきた。
今まで気付かなかったが、どうやらメイド達の休憩場所の音が、届くらしい。
外の情報に飢えていた俺は、聞き耳を立てる。
そして知ったのは、アンジェリクは俺以外にも複数の男性と付き合っていたこと。
それにより婚約破棄になった家が他にもあったこと。
俺とブランシュの婚約を壊したことで、アンジェリクは国王陛下の逆鱗に触れ、マルロー伯爵家は全員、強制労働施設へと送られた。
そして、
『ついにジャンが廃嫡になるらしいよ』
『バカだよね』
『でも旦那様、喜んでるよ』
『相思相愛の恋人で婚約者だった……との間に生まれた子を跡取りにすることができるんだから』
『知ってる?バカが旦那様と王家の阿婆擦れが、相思相愛だと思ってたって』
『聞いた!聞いた!旦那様の何処を見たら、あのキモ若作りのこと愛しているように見えるんだろ』
『バカだから!』
『あのバカ、バカだよね。婚約者が隣国の……公爵家のお姫様だから、跡取りになれたのに』
『廃嫡間近だね』
父の息子は俺しかいないと思っていたのだが、父には他にも子どもがいた。それも元婚約者との間に……相思相愛だと……。
それよりも、俺が廃嫡だと!父の元の婚約者は貴族で愛人。俺の母は王女で正妻。まだ俺のほうに分がある!
……そうだ!ブランシュだ!ブランシュと婚約を結び直すことができたら、
きっと俺は公爵になれる!
応援ありがとうございます!
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