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1.綺麗に着飾る時間があったなら、薬も作れたのでは?
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(せっかく久しぶりにカタクリン修道院に来れたのに、少し遅れてしまった。あぁ、もう!)
双子の姉であるナハルに、「お支度の時間が無くなってしまうの」と薬作りを押し付けられ、貴重な時間を浪費してしまった。
ナハルは、薬草学が苦手というよりも薬草を触るなんて貴族の令嬢がすることではないと思ってる節があり、やりたがらない。
薬作りは好きだからいいのだが、ナハルの手柄になるのは釈然としない。
が、面と向かってナハルに文句を言おうものなら、両親に奴隷として売り飛ばされるか、殺されるだろう。
ここ、イートポーテル国、ひいては、ラム教を国教としているレザンジュ大陸では、双子は、悪魔が宿る不吉な象徴として忌み嫌われている。
その為、双子のうち1人は7歳前後で参加する聖顕式の前に殺されるか、顔に傷をつけて奴隷として売られる。
ちなみに、聖顕式とは、お披露目の場でもあり、大人の仲間入りとして認められ、魔力量や属性、加護の有無が分かる大事な儀式だ。
どんな意図かは不明だが、父マルティンは私を殺すことなく、妾との娘として育ててくれている。正確にいうと待遇は下女と変わらないが、それでもシエルは父親にとても感謝している。
シエルは、目的の図書館に向かって修道院の廊下をそそくさと歩く。
カッカッカッと大理石にヒールの音が響いて反響している。慣れない靴は、ため息をつきたくなるほど歩きにくい。
逸る気持ちを押さえ、はしたなく見えない程度にドレスの裾を持ち上げて走る。
(今日は、カレーム先生はいらっしゃるかしら。聞きたいことが山ほどあるのだけど)
突き当たりを右に曲がると図書館、左に曲がるとホールに繋がっている。
廊下の突き当たりで、双子の姉ナハルと、ゆったりとした巻き毛の美女達に出くわした。
皆、揃いも揃って魔絹をふんだんに使用した華やかなドレスを身にまとっている。たっぷりとした袖には艶やかな装飾が施されている。
(何とも動きにくそうだ…。)
魔絹とは、粉末状に砕いた魔石を練り込んであり豪華に見える上、絹のような滑らかな質感で肌触りが良い布ということで、最近流行っているのだ。
(ええと、侯爵家のご令嬢の名前なんだっけ。薬草の、シルフィウムみたいな、名前!)
挨拶の言葉以前に名前も出てこないことに焦りながら、一応微笑みかける。
(ん?シルフィウムって、確か…)
「昨日のポーケッタ侯爵のパーティ、素晴らしかったわ。特に最後のクラッシックの曲調には、私うっとりしてしまいました」
「えぇ、そうですわね。私もとても感動しましたもの。貴方もそう思わなくて、シエル?」
突然話を振られ、戸惑う。
薬草と魔木の魔力量の違いに気を取られて話を全く聞いていなかったのだ。
シルフィウムは、薬草の中でも毒消しや治癒の効力が高く、魔力量も多いのだ。下手すると魔木よりも。
「あら、ナハル様。昨日もドレーンご婦人とお2人でいらっしゃったではありませんか」
くすくすと笑いながら、不躾に私の格好を見るブロンド美女。
「まぁ、そのような品格に欠ける時代遅れの格好では、ナハル様のお隣に立ちたくない気持ちはわかりますわ」
(今日は、なぜかゼーリエに口酸っぱく言われたからまともなはずなんだが、どこが問題なの!?)
ゼーリエは、屋敷の家政を管理し、女中を取りまとめる侍女頭だ。離れの小屋に住むシエルの世話も、子供の時からしてくれている。
他の使用人からは空気として扱われているシエルを、隙間時間を捻出しては面倒を見てくれる非常に優秀な侍女頭である。
まだ30代と若いこともあって、最近はナハルのコンパニオンを扱う練習役としてずっと付き従っている。だから、久しぶりにお説教を聞き流しながらの着替えとなったのだ。
シエルは、自分の服を確認する。今日着ているのは、前にナハルが要らないといったドレスで袖がすっきりしていて動きやすくて気に入っているものだ。
手持ちの服では最も状態が良い。
「えぇ。半分も血が繋がっているとはとても思えませんわ。ナハル様の瞳の美しさがシエルには欠片もっ」
「それは、失礼ではなくて?見た目が全てではありませんからね。身嗜みと手習い、愛嬌も重要な要素でしょう。
そうそう、ナハル様は昨日ビスカリア様からダンスに誘われて華麗に踊られていましたね」
さすがこの面子の中で1番身分が高いプラリーネ様だ。しかし、その優しさに心が抉られる。
シエルは、貴族女性の嗜みである裁縫も踊りも音楽も全く出来ないのだ。
(本当は、半分ではなく全部繋がっているんだけどね。ぱっちり二重で肌も白く華奢なナハルと、奥二重に日焼けで肌が黒く手の荒れた私では誰も双子とは思わないよね。うん、私だって信じられないもの!)
ちなみに、ビスカリア様とは、ポーケッタ侯爵の嫡男で、見た目には秀でている。
真っ青で深みを感じさせる目は、何を考えているか悟らせないミステリアスな雰囲気で素敵と専ら噂になっている。
最も、何も考えていないだろうが。
考える頭があったら、今の時期は騎士の修行に励んでいてパーティどころではないからだ。
「お褒めいただき嬉しいですわ。まあ私は、公爵様、いえ、王族の方と結婚をするつもりですので、あのくらい踊れて当然ですの」
ナハルの自意識過剰な発言に、心の中で突っ込む気力も失せた私は、さっさと立ち去って図書館の入口に駆け込んだ。
双子の姉であるナハルに、「お支度の時間が無くなってしまうの」と薬作りを押し付けられ、貴重な時間を浪費してしまった。
ナハルは、薬草学が苦手というよりも薬草を触るなんて貴族の令嬢がすることではないと思ってる節があり、やりたがらない。
薬作りは好きだからいいのだが、ナハルの手柄になるのは釈然としない。
が、面と向かってナハルに文句を言おうものなら、両親に奴隷として売り飛ばされるか、殺されるだろう。
ここ、イートポーテル国、ひいては、ラム教を国教としているレザンジュ大陸では、双子は、悪魔が宿る不吉な象徴として忌み嫌われている。
その為、双子のうち1人は7歳前後で参加する聖顕式の前に殺されるか、顔に傷をつけて奴隷として売られる。
ちなみに、聖顕式とは、お披露目の場でもあり、大人の仲間入りとして認められ、魔力量や属性、加護の有無が分かる大事な儀式だ。
どんな意図かは不明だが、父マルティンは私を殺すことなく、妾との娘として育ててくれている。正確にいうと待遇は下女と変わらないが、それでもシエルは父親にとても感謝している。
シエルは、目的の図書館に向かって修道院の廊下をそそくさと歩く。
カッカッカッと大理石にヒールの音が響いて反響している。慣れない靴は、ため息をつきたくなるほど歩きにくい。
逸る気持ちを押さえ、はしたなく見えない程度にドレスの裾を持ち上げて走る。
(今日は、カレーム先生はいらっしゃるかしら。聞きたいことが山ほどあるのだけど)
突き当たりを右に曲がると図書館、左に曲がるとホールに繋がっている。
廊下の突き当たりで、双子の姉ナハルと、ゆったりとした巻き毛の美女達に出くわした。
皆、揃いも揃って魔絹をふんだんに使用した華やかなドレスを身にまとっている。たっぷりとした袖には艶やかな装飾が施されている。
(何とも動きにくそうだ…。)
魔絹とは、粉末状に砕いた魔石を練り込んであり豪華に見える上、絹のような滑らかな質感で肌触りが良い布ということで、最近流行っているのだ。
(ええと、侯爵家のご令嬢の名前なんだっけ。薬草の、シルフィウムみたいな、名前!)
挨拶の言葉以前に名前も出てこないことに焦りながら、一応微笑みかける。
(ん?シルフィウムって、確か…)
「昨日のポーケッタ侯爵のパーティ、素晴らしかったわ。特に最後のクラッシックの曲調には、私うっとりしてしまいました」
「えぇ、そうですわね。私もとても感動しましたもの。貴方もそう思わなくて、シエル?」
突然話を振られ、戸惑う。
薬草と魔木の魔力量の違いに気を取られて話を全く聞いていなかったのだ。
シルフィウムは、薬草の中でも毒消しや治癒の効力が高く、魔力量も多いのだ。下手すると魔木よりも。
「あら、ナハル様。昨日もドレーンご婦人とお2人でいらっしゃったではありませんか」
くすくすと笑いながら、不躾に私の格好を見るブロンド美女。
「まぁ、そのような品格に欠ける時代遅れの格好では、ナハル様のお隣に立ちたくない気持ちはわかりますわ」
(今日は、なぜかゼーリエに口酸っぱく言われたからまともなはずなんだが、どこが問題なの!?)
ゼーリエは、屋敷の家政を管理し、女中を取りまとめる侍女頭だ。離れの小屋に住むシエルの世話も、子供の時からしてくれている。
他の使用人からは空気として扱われているシエルを、隙間時間を捻出しては面倒を見てくれる非常に優秀な侍女頭である。
まだ30代と若いこともあって、最近はナハルのコンパニオンを扱う練習役としてずっと付き従っている。だから、久しぶりにお説教を聞き流しながらの着替えとなったのだ。
シエルは、自分の服を確認する。今日着ているのは、前にナハルが要らないといったドレスで袖がすっきりしていて動きやすくて気に入っているものだ。
手持ちの服では最も状態が良い。
「えぇ。半分も血が繋がっているとはとても思えませんわ。ナハル様の瞳の美しさがシエルには欠片もっ」
「それは、失礼ではなくて?見た目が全てではありませんからね。身嗜みと手習い、愛嬌も重要な要素でしょう。
そうそう、ナハル様は昨日ビスカリア様からダンスに誘われて華麗に踊られていましたね」
さすがこの面子の中で1番身分が高いプラリーネ様だ。しかし、その優しさに心が抉られる。
シエルは、貴族女性の嗜みである裁縫も踊りも音楽も全く出来ないのだ。
(本当は、半分ではなく全部繋がっているんだけどね。ぱっちり二重で肌も白く華奢なナハルと、奥二重に日焼けで肌が黒く手の荒れた私では誰も双子とは思わないよね。うん、私だって信じられないもの!)
ちなみに、ビスカリア様とは、ポーケッタ侯爵の嫡男で、見た目には秀でている。
真っ青で深みを感じさせる目は、何を考えているか悟らせないミステリアスな雰囲気で素敵と専ら噂になっている。
最も、何も考えていないだろうが。
考える頭があったら、今の時期は騎士の修行に励んでいてパーティどころではないからだ。
「お褒めいただき嬉しいですわ。まあ私は、公爵様、いえ、王族の方と結婚をするつもりですので、あのくらい踊れて当然ですの」
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