双子の姉の身代わりという人生から逃げるため、空飛ぶ絨毯作ります

ねり梅

文字の大きさ
1 / 69

1.綺麗に着飾る時間があったなら、薬も作れたのでは?

しおりを挟む
(せっかく久しぶりにカタクリン修道院に来れたのに、少し遅れてしまった。あぁ、もう!)


双子の姉であるナハルに、「お支度の時間が無くなってしまうの」と薬作りを押し付けられ、貴重な時間を浪費してしまった。


ナハルは、薬草学が苦手というよりも薬草を触るなんて貴族の令嬢がすることではないと思ってる節があり、やりたがらない。


薬作りは好きだからいいのだが、ナハルの手柄になるのは釈然としない。

が、面と向かってナハルに文句を言おうものなら、両親に奴隷として売り飛ばされるか、殺されるだろう。


ここ、イートポーテル国、ひいては、ラム教を国教としているレザンジュ大陸では、双子は、悪魔が宿る不吉な象徴として忌み嫌われている。

その為、双子のうち1人は7歳前後で参加する聖顕式の前に殺されるか、顔に傷をつけて奴隷として売られる。


ちなみに、聖顕式とは、お披露目の場でもあり、大人の仲間入りとして認められ、魔力量や属性、加護の有無が分かる大事な儀式だ。


どんな意図かは不明だが、父マルティンは私を殺すことなく、妾との娘として育ててくれている。正確にいうと待遇は下女と変わらないが、それでもシエルは父親にとても感謝している。


シエルは、目的の図書館に向かって修道院の廊下をそそくさと歩く。
カッカッカッと大理石にヒールの音が響いて反響している。慣れない靴は、ため息をつきたくなるほど歩きにくい。


逸る気持ちを押さえ、はしたなく見えない程度にドレスの裾を持ち上げて走る。


(今日は、カレーム先生はいらっしゃるかしら。聞きたいことが山ほどあるのだけど)


突き当たりを右に曲がると図書館、左に曲がるとホールに繋がっている。


廊下の突き当たりで、双子の姉ナハルと、ゆったりとした巻き毛の美女達に出くわした。 


皆、揃いも揃って魔絹をふんだんに使用した華やかなドレスを身にまとっている。たっぷりとした袖には艶やかな装飾が施されている。


(何とも動きにくそうだ…。)


魔絹とは、粉末状に砕いた魔石を練り込んであり豪華に見える上、絹のような滑らかな質感で肌触りが良い布ということで、最近流行っているのだ。


(ええと、侯爵家のご令嬢の名前なんだっけ。薬草の、シルフィウムみたいな、名前!)


挨拶の言葉以前に名前も出てこないことに焦りながら、一応微笑みかける。


(ん?シルフィウムって、確か…)


「昨日のポーケッタ侯爵のパーティ、素晴らしかったわ。特に最後のクラッシックの曲調には、私うっとりしてしまいました」

「えぇ、そうですわね。私もとても感動しましたもの。貴方もそう思わなくて、シエル?」

突然話を振られ、戸惑う。


薬草と魔木の魔力量の違いに気を取られて話を全く聞いていなかったのだ。
シルフィウムは、薬草の中でも毒消しや治癒の効力が高く、魔力量も多いのだ。下手すると魔木よりも。


「あら、ナハル様。昨日もドレーンご婦人とお2人でいらっしゃったではありませんか」

くすくすと笑いながら、不躾に私の格好を見るブロンド美女。

「まぁ、そのような品格に欠ける時代遅れの格好では、ナハル様のお隣に立ちたくない気持ちはわかりますわ」


(今日は、なぜかゼーリエに口酸っぱく言われたからまともなはずなんだが、どこが問題なの!?) 

ゼーリエは、屋敷の家政を管理し、女中を取りまとめる侍女頭だ。離れの小屋に住むシエルの世話も、子供の時からしてくれている。

他の使用人からは空気として扱われているシエルを、隙間時間を捻出しては面倒を見てくれる非常に優秀な侍女頭である。

まだ30代と若いこともあって、最近はナハルのコンパニオンを扱う練習役としてずっと付き従っている。だから、久しぶりにお説教を聞き流しながらの着替えとなったのだ。



シエルは、自分の服を確認する。今日着ているのは、前にナハルが要らないといったドレスで袖がすっきりしていて動きやすくて気に入っているものだ。
手持ちの服では最も状態が良い。


「えぇ。半分も血が繋がっているとはとても思えませんわ。ナハル様の瞳の美しさがシエルには欠片もっ」

「それは、失礼ではなくて?見た目が全てではありませんからね。身嗜みと手習い、愛嬌も重要な要素でしょう。
そうそう、ナハル様は昨日ビスカリア様からダンスに誘われて華麗に踊られていましたね」


さすがこの面子の中で1番身分が高いプラリーネ様だ。しかし、その優しさに心が抉られる。


シエルは、貴族女性の嗜みである裁縫も踊りも音楽も全く出来ないのだ。


(本当は、半分ではなく全部繋がっているんだけどね。ぱっちり二重で肌も白く華奢なナハルと、奥二重に日焼けで肌が黒く手の荒れた私では誰も双子とは思わないよね。うん、私だって信じられないもの!)


ちなみに、ビスカリア様とは、ポーケッタ侯爵の嫡男で、見た目には秀でている。

真っ青で深みを感じさせる目は、何を考えているか悟らせないミステリアスな雰囲気で素敵と専ら噂になっている。


最も、何も考えていないだろうが。
考える頭があったら、今の時期は騎士の修行に励んでいてパーティどころではないからだ。


「お褒めいただき嬉しいですわ。まあ私は、公爵様、いえ、王族の方と結婚をするつもりですので、あのくらい踊れて当然ですの」


ナハルの自意識過剰な発言に、心の中で突っ込む気力も失せた私は、さっさと立ち去って図書館の入口に駆け込んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

処理中です...