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4、狙われたのは
Ⅴ
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「こんなところにいらっしゃったなんてっ」
ハイテンションな軍人たちに固められ、教会の部屋に押し込められたクロエは護身用のナイフを見つめていた。
「あの、クロエ嬢……?」
ナイフを見つめる不穏な空気に軍人たちが戸惑うが、クロエは動きださずに、ただ待ち続けていた。
「……」
護衛のために部屋に残った軍人たちが口をつぐんで目配せをして、それ以上何も言わずにクロエをそっとしておいていた。
「クロエ」
軍人たちをさばいた司祭が部屋に顔を出すと、クロエはナイフをしまってうつむいていた。
「レオンさんは……?」
これから王都へ移送されることになることを言いに来た司祭に、クロエは開口一句そう尋ねていた。
「……っ。……はあ」
ため息をついた司祭は、目配せだけで軍人を退室させて、クロエの向かいに座った。
「行方不明です」
「そんなっ、じゃあっ」
「レイス大佐が半狂乱になって捜索していると、あっちで作業している部下の方から聞きました」
今は落ち着きを取り戻して倒壊に巻き込まれないように離れたところに設置された捜索本部のテントに閉じ込められている。と言った司祭は、驚いた顔をしているクロエにため息をついた。
「……レイス大佐が?」
「ええ。……。まだ、爆発の振動で崩れそうな建物があるから、軍人以外は周辺は立ち入り禁止。広場は埋まった盗賊たちの死骸で埋め尽くされている。それでも村に入りますか?」
「……っ、はいっ!」
先ほど報告に来たレイスの部下からの提案を伝えるとクロエは顔を輝かせてうなずく。その目を見ながら司祭は静かな声で続ける。
「死骸が人の形をしていませんが大丈夫ですか?」
「……え?」
「爆発に巻き込まれてめちゃめちゃになった死体もあるようです。戦争でもここまでひどいのはいない。と、軍人ですら顔をしかめていました。貴女をあっちに向かわせないのはそんなむごいものを見せないようにするためです。それでも……」
「それでもいい。行く!」
立ち上がったクロエにうなずいた司祭は軍人についてくるように言って、とめる軍人をものともせずに村の中に入った。
「おい!」
「レイス大佐の許可はとってある。君にそれを覆す権限があるのかね?」
道行く中、咎める軍人がちらほらといたが、そのたびに、司祭が厳しい口調で、黙らせるとまっすぐと倒壊した現場の近くまで歩いていった。
「レイスくん」
静かな呼び声に、緊急対策本部とテントが張られた一角で呆然と煙草をくわえて座っていたレイスが立ち上がる。
「まだ?」
「ええ。……生存者が発見されたので、それを尋問しています」
そこで、と一つのテントを指さしたレイスは煙草を吸っては捨て、を繰り返していた。
「あの……」
「……大丈夫とは言えません。あのバカ、無茶ばかりして……」
それだけを言って口をつぐんだレイスに何を言えばいいのかわからなくなったクロエは足元につみあがっていく大して吸われていない煙草の吸殻を見つめるしかできなかった。
「大佐っ!」
「情報は?」
「屋根だって!」
報告に走ってきた男より早く、テントからひょこっと顔をのぞかせた男が声をかける。
「屋根探せ! まず浅いところでいい!」
怒鳴るレイスに、返事を返す部下が大勢。
「え……」
テントから顔をのぞかせた男はにっこりと笑ってクロエにパタパタと手を振ってまたテントへ戻っていく。
「あの緊張感のなさ、どうにかしろ。馬鹿ども」
レイスが八つ当たり気味に報告に来た男の尻を蹴り上げてテントへ返す。
「……無事に見つかればいいが」
もう、その言葉で、レイスの頭の中にどんなものが描かれているのかがわかってしまった。クロエは顔を青ざめさせながらぎゅっと手を握り合わせて震えていた。
そして、どれぐらい経ったのか。
「軍服だ! 軍服着た男がいたぞ!」
高らかな声にレイスが息を呑み、クロエを見おろす。クロエもまたレイスを見上げていた。
がやっと沸いた屋根の上の救出隊が一堂に会して掘りだしにかかる様を感じながら二人は目を見つめ合っていた。色の違う瞳には同じ感情が浮かんでいる。
「行きましょう」
「はい」
迷いなく手を差し伸べられるのに、手を置いて、二人で手を取りあって不安定な足場を登っていく。その間にも、救出は進み、掘り出された体は担架に乗せられて瓦礫の上を移動していった。
ハイテンションな軍人たちに固められ、教会の部屋に押し込められたクロエは護身用のナイフを見つめていた。
「あの、クロエ嬢……?」
ナイフを見つめる不穏な空気に軍人たちが戸惑うが、クロエは動きださずに、ただ待ち続けていた。
「……」
護衛のために部屋に残った軍人たちが口をつぐんで目配せをして、それ以上何も言わずにクロエをそっとしておいていた。
「クロエ」
軍人たちをさばいた司祭が部屋に顔を出すと、クロエはナイフをしまってうつむいていた。
「レオンさんは……?」
これから王都へ移送されることになることを言いに来た司祭に、クロエは開口一句そう尋ねていた。
「……っ。……はあ」
ため息をついた司祭は、目配せだけで軍人を退室させて、クロエの向かいに座った。
「行方不明です」
「そんなっ、じゃあっ」
「レイス大佐が半狂乱になって捜索していると、あっちで作業している部下の方から聞きました」
今は落ち着きを取り戻して倒壊に巻き込まれないように離れたところに設置された捜索本部のテントに閉じ込められている。と言った司祭は、驚いた顔をしているクロエにため息をついた。
「……レイス大佐が?」
「ええ。……。まだ、爆発の振動で崩れそうな建物があるから、軍人以外は周辺は立ち入り禁止。広場は埋まった盗賊たちの死骸で埋め尽くされている。それでも村に入りますか?」
「……っ、はいっ!」
先ほど報告に来たレイスの部下からの提案を伝えるとクロエは顔を輝かせてうなずく。その目を見ながら司祭は静かな声で続ける。
「死骸が人の形をしていませんが大丈夫ですか?」
「……え?」
「爆発に巻き込まれてめちゃめちゃになった死体もあるようです。戦争でもここまでひどいのはいない。と、軍人ですら顔をしかめていました。貴女をあっちに向かわせないのはそんなむごいものを見せないようにするためです。それでも……」
「それでもいい。行く!」
立ち上がったクロエにうなずいた司祭は軍人についてくるように言って、とめる軍人をものともせずに村の中に入った。
「おい!」
「レイス大佐の許可はとってある。君にそれを覆す権限があるのかね?」
道行く中、咎める軍人がちらほらといたが、そのたびに、司祭が厳しい口調で、黙らせるとまっすぐと倒壊した現場の近くまで歩いていった。
「レイスくん」
静かな呼び声に、緊急対策本部とテントが張られた一角で呆然と煙草をくわえて座っていたレイスが立ち上がる。
「まだ?」
「ええ。……生存者が発見されたので、それを尋問しています」
そこで、と一つのテントを指さしたレイスは煙草を吸っては捨て、を繰り返していた。
「あの……」
「……大丈夫とは言えません。あのバカ、無茶ばかりして……」
それだけを言って口をつぐんだレイスに何を言えばいいのかわからなくなったクロエは足元につみあがっていく大して吸われていない煙草の吸殻を見つめるしかできなかった。
「大佐っ!」
「情報は?」
「屋根だって!」
報告に走ってきた男より早く、テントからひょこっと顔をのぞかせた男が声をかける。
「屋根探せ! まず浅いところでいい!」
怒鳴るレイスに、返事を返す部下が大勢。
「え……」
テントから顔をのぞかせた男はにっこりと笑ってクロエにパタパタと手を振ってまたテントへ戻っていく。
「あの緊張感のなさ、どうにかしろ。馬鹿ども」
レイスが八つ当たり気味に報告に来た男の尻を蹴り上げてテントへ返す。
「……無事に見つかればいいが」
もう、その言葉で、レイスの頭の中にどんなものが描かれているのかがわかってしまった。クロエは顔を青ざめさせながらぎゅっと手を握り合わせて震えていた。
そして、どれぐらい経ったのか。
「軍服だ! 軍服着た男がいたぞ!」
高らかな声にレイスが息を呑み、クロエを見おろす。クロエもまたレイスを見上げていた。
がやっと沸いた屋根の上の救出隊が一堂に会して掘りだしにかかる様を感じながら二人は目を見つめ合っていた。色の違う瞳には同じ感情が浮かんでいる。
「行きましょう」
「はい」
迷いなく手を差し伸べられるのに、手を置いて、二人で手を取りあって不安定な足場を登っていく。その間にも、救出は進み、掘り出された体は担架に乗せられて瓦礫の上を移動していった。
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