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4、狙われたのは
Ⅵ
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「レオンさんっ!」
「レオンっ!」
そして、完全に倒壊する危険性のないと判断できる広場に運ばれた担架の上に、あおむけに寝かせられているすすけた男は、一瞬誰だかわからないほどだった。
腕は折れているらしく前腕の中ほどでいびつな曲線を描き、両腕の長さが微妙に違う。暗色だった軍服は白くすすけてしまってところどころ引っ掛けたようにほつれている部分もある。
白く汚れた髪は、頭をかばったのか。耳のあたりだけ汚れてなく、茶色い髪であることがかろうじてわかる程度。顔も、石屑の粉で白く汚れ、頬や耳にひどい擦り傷がある。
「息は?」
彼の隣で診断をしていた医者らしい軍人が状態を手早くチェックしていく。呼吸を確認して胸に耳を当てた医者は呆れたように笑って肩をすくめて見せた。
「このバカみたいな倒壊の下敷きになってたにしちゃあ無傷に等しいです。無事ですよ」
まあ、手始めに、あほほど折れているお手てどうにかしましょうかねえ。と、問答無用で、ぼきごき、と音を立てて骨の整復を始めた軍医と、痛みに飛び起きて悲鳴を上げるレオンに、クロエはふらりと体を揺らして、レイスが呼ぶ声を聞きながら、気が遠くなるのを感じて、ぶつりと意識が途絶えるのを感じていた。
「ぐあああっ、ちょっ……待、てぇぇえっ」
「あんだよ、潔く、うけろっ」
「ああぁあああああぁぁぁあっ。くぉのっぅあああっ、やぶ医者ああっ、せめて報告!」
「あ?」
倒れたクロエを抱きかかえたレイスが振り返るのと同時に盛大に脱臼していた右肩の整復した瞬間が同時だった。ごきゅっといい音が一瞬の間に響き渡る。
「ぐあああああっ」
体をよじようにもよじれず叫ぶしかできないでいるレオンに少し哀れみを感じながらも大半はざまあみろと思っているこの気分は何だろうかと、レイスは首を傾げた。
「報告あるのか?」
「……っ、はあっ、はあっ。……首」
「誰の?」
「総帥の首取れるいいの取れた」
痛みが少し薄れたのか、少しだけ体の力を抜いたレオンに、レイスがクロエを膝に抱えるようにして座り込んで、覗き込む。
「あの中に埋まってる?」
「ああ。ひしゃげたゴミ箱の中だ」
「……おまえ……」
「そこしか棺桶なかったんだよ。ゴミ箱がつぶれてたら台無しだがな」
「……ゴミ箱、外観は無事だったな」
「お客さんがたっぷりつくだろうが丁寧に運んでくれ。弟の戦利品だ」
「こんな時だけ弟言うな。というか、こうなること織り込み済みでやりやがったな、どアホ」
八つ当たりにその額にこぶしを落とすと青あざがあったらしい。ぐぅとうめいたレオンに、レイスが軍医に目配せを送ってクロエを抱き上げて踵を返した。
「それだけ元気なら大丈夫だな。終わったら今度は移送だ」
「くっつくまで待てよ!」
「まったくだ!」
軍医と息のあった突っ込みを見せる元気に、表情を隠すようにうつむいてレイスは深くため息をついた。そして、それ以上何も言わずにがれきを下って司祭とともに教会へ戻る道をたどるのだった。
「あれでも現場に入って取り押さえられるまであんた探すのに怒鳴ってがれきどかしてたんだぜ」
折れ曲がった指の位置を直しながら、静かな声で言うのを、レオンは悲鳴をかみ殺しながら聞いていた。言われずともいつも白い手袋をしているレイスの指がむき出しで、血がにじんでいたことに気付いていた。爪が折れるぐらいのことをしていたのだろうと。
「なんでこんな無茶したのか知らんが、あんまりあの人あんな姿見せさせるような真似、やめてやれよ」
「……」
レイスがいた時とうって変わって痛みが最小限になるようにうまく足を整復をする軍医に、レオンは口をへの字にしてそっぽを向いた。
「それにお前がみつけられて、呼ばれてここにたどり着いたときの顔。泣きそうな顔してたんだぜ。信じられねえだろうがよ」
ぞんざいな口調でそういう軍医にレオンは何も言わずに目を閉じた。
「あんまり自分を粗末に扱うんじゃないぞ。弟君」
静かな声にレオンは無言を貫いたのだった。
そして、適切な処置の後、レオンは鎮静作用の強い鎮痛剤を飲まされて、教会に移送された。けが人用の移送馬車は持ってきておらず、それが来るまで教会に世話になるとのことだった。クロエは、夕暮れ過ぎに飛び起きて搬送されたレオンの部屋に飛び込んでそのまま自分にあてがわれた部屋に帰ることはなかった。
「レオンっ!」
そして、完全に倒壊する危険性のないと判断できる広場に運ばれた担架の上に、あおむけに寝かせられているすすけた男は、一瞬誰だかわからないほどだった。
腕は折れているらしく前腕の中ほどでいびつな曲線を描き、両腕の長さが微妙に違う。暗色だった軍服は白くすすけてしまってところどころ引っ掛けたようにほつれている部分もある。
白く汚れた髪は、頭をかばったのか。耳のあたりだけ汚れてなく、茶色い髪であることがかろうじてわかる程度。顔も、石屑の粉で白く汚れ、頬や耳にひどい擦り傷がある。
「息は?」
彼の隣で診断をしていた医者らしい軍人が状態を手早くチェックしていく。呼吸を確認して胸に耳を当てた医者は呆れたように笑って肩をすくめて見せた。
「このバカみたいな倒壊の下敷きになってたにしちゃあ無傷に等しいです。無事ですよ」
まあ、手始めに、あほほど折れているお手てどうにかしましょうかねえ。と、問答無用で、ぼきごき、と音を立てて骨の整復を始めた軍医と、痛みに飛び起きて悲鳴を上げるレオンに、クロエはふらりと体を揺らして、レイスが呼ぶ声を聞きながら、気が遠くなるのを感じて、ぶつりと意識が途絶えるのを感じていた。
「ぐあああっ、ちょっ……待、てぇぇえっ」
「あんだよ、潔く、うけろっ」
「ああぁあああああぁぁぁあっ。くぉのっぅあああっ、やぶ医者ああっ、せめて報告!」
「あ?」
倒れたクロエを抱きかかえたレイスが振り返るのと同時に盛大に脱臼していた右肩の整復した瞬間が同時だった。ごきゅっといい音が一瞬の間に響き渡る。
「ぐあああああっ」
体をよじようにもよじれず叫ぶしかできないでいるレオンに少し哀れみを感じながらも大半はざまあみろと思っているこの気分は何だろうかと、レイスは首を傾げた。
「報告あるのか?」
「……っ、はあっ、はあっ。……首」
「誰の?」
「総帥の首取れるいいの取れた」
痛みが少し薄れたのか、少しだけ体の力を抜いたレオンに、レイスがクロエを膝に抱えるようにして座り込んで、覗き込む。
「あの中に埋まってる?」
「ああ。ひしゃげたゴミ箱の中だ」
「……おまえ……」
「そこしか棺桶なかったんだよ。ゴミ箱がつぶれてたら台無しだがな」
「……ゴミ箱、外観は無事だったな」
「お客さんがたっぷりつくだろうが丁寧に運んでくれ。弟の戦利品だ」
「こんな時だけ弟言うな。というか、こうなること織り込み済みでやりやがったな、どアホ」
八つ当たりにその額にこぶしを落とすと青あざがあったらしい。ぐぅとうめいたレオンに、レイスが軍医に目配せを送ってクロエを抱き上げて踵を返した。
「それだけ元気なら大丈夫だな。終わったら今度は移送だ」
「くっつくまで待てよ!」
「まったくだ!」
軍医と息のあった突っ込みを見せる元気に、表情を隠すようにうつむいてレイスは深くため息をついた。そして、それ以上何も言わずにがれきを下って司祭とともに教会へ戻る道をたどるのだった。
「あれでも現場に入って取り押さえられるまであんた探すのに怒鳴ってがれきどかしてたんだぜ」
折れ曲がった指の位置を直しながら、静かな声で言うのを、レオンは悲鳴をかみ殺しながら聞いていた。言われずともいつも白い手袋をしているレイスの指がむき出しで、血がにじんでいたことに気付いていた。爪が折れるぐらいのことをしていたのだろうと。
「なんでこんな無茶したのか知らんが、あんまりあの人あんな姿見せさせるような真似、やめてやれよ」
「……」
レイスがいた時とうって変わって痛みが最小限になるようにうまく足を整復をする軍医に、レオンは口をへの字にしてそっぽを向いた。
「それにお前がみつけられて、呼ばれてここにたどり着いたときの顔。泣きそうな顔してたんだぜ。信じられねえだろうがよ」
ぞんざいな口調でそういう軍医にレオンは何も言わずに目を閉じた。
「あんまり自分を粗末に扱うんじゃないぞ。弟君」
静かな声にレオンは無言を貫いたのだった。
そして、適切な処置の後、レオンは鎮静作用の強い鎮痛剤を飲まされて、教会に移送された。けが人用の移送馬車は持ってきておらず、それが来るまで教会に世話になるとのことだった。クロエは、夕暮れ過ぎに飛び起きて搬送されたレオンの部屋に飛び込んでそのまま自分にあてがわれた部屋に帰ることはなかった。
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