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続く日々
三人で
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慶がスマートフォンの電源を切っていても、所在を確認する方法はあった。彰と連絡を取り、潤を通して慶が家にいることがわかった。
何かあった時のためにと連絡先を交換した彰がこうなることを予見していたというのは買い被りだろうか。
「何できちゃうんですか」
ベッドの上で二人の姿を見るなり呆れ顔になった慶の声は刺々しい。それでも怯まずに実結は慶を見据える。隣には和真がいるからこそ心強かった。
「俺に散々脅されて逆らえなくなって正しい選択できなくなって……だから、解放してやったのに」
「違うの……!」
突き放す言葉はやはり強がりなのだろう。実結を拒絶しているわけではない。だから、言わなければならないのだ。やっとわかった本当の気持ちを。
「最初は確かにそうだった。でも、いつからか慶君のこと、怖くなくなってた。それでも、関係が終わるのが嫌で、怖くて言えなかった」
慶を受け入れられるようになれば、和真とは離れなければならなくなることをわかっていた。それが約束だった。だが、いつしかそれだけではなくなっていた。
「一番ずるいのは私なの……和真先輩を好きなまま慶君のことも好きになっちゃったの」
好きだと伝えたら喜んでくれるのではないか。どこかで期待をしていたのかもしれない。だからこそ、自分を射抜くような冷たい眼差しに実結は息が詰まる思いだった。
「だから、それはきっと錯覚です。レイプして脅して縛り付けるような男のどこを好きになれるって言うんですか。まんまと俺に刷り込まれちゃったんですね。もっと堕ちてくれたら良かったのに」
やはりもう嫌われてしまったのかもしれない。やはり手遅れだったのかもしれない。逃げ出したい気持ちになる実結の腰に和真の腕が回る。
慶のどこを好きになったのか、明確に言えるわけではない。ただ彼にも側にいてほしいと心が求めているのは事実だ。あるいは、体なのか。そうだとすれば彼がしたことだ。
「ひどい……刷り込んだら捨てるの?」
「ダメじゃないですか、そんなひどい男好きになっちゃ」
和真は慶の発言を咎めるわけでもない。今は彼に甘えてはいけない。実結自身が解決しなければならないことだ。隣にいるだけでも十分に心強く、何度も実結を苦しめた真悠子の声も今は聞こえない。
「好きになっちゃったのはしょうがないよ……慶君のせい。欲張りになっちゃったのも全部慶君のせい」
「好きになったのが俺だけなら良かったのに」
それが慶の本心なのだろう。実結は胃の辺りが重くなるのを感じる。二人ともほしいと思うのは実結の我が儘だ。双方の同意がなければ、望む関係は成立しない。
「監禁する?」
「縛られて、俺に孕まされる? そうされたいわけじゃないくせに」
「慶君だって、本当にそうしたいわけじゃないでしょ?」
以前はそんなことを平然と言う慶を実結は恐ろしく感じていたが、今は落ち着いていられた。彼のそういうところすらも受け入れると実結は決めたのだ。
「先輩はずっと俺の我が儘きいてくれてた。いや、俺が弱みにつけ込んできかせてただけだって気付いたから、最後にしようって決めたのに……ほんとどうして来ちゃうんですか」
顔を覆ってしまった慶の表情はわからない。けれども、彼は嫌いになったとは言っていない。
「じゃあ、最後に一つだけ私の我が儘きいてくれるよね?」
同意を求めれば拒絶が怖くて実結はすぐにまた続ける。
「ずっと三人一緒がいい。慶君も、和真先輩も私が独り占めしたい」
決して口にしてはいけないと思っていた願望を実結は吐き出し、慶の様子を窺うが、その視線は和真へと向けられている。
「先輩はそれでいいんですか?」
「俺はいいよ? 嫌だったらここに連れてこないで攫ってるし……一緒に慶のこと殴りに来たんだもんね?」
「わわっ……!」
急にぎゅっと抱き締められて慌てた実結は慶から視線を外してしまう。返事を待つ緊張がどこかへ飛んでいってしまった。しかし、動揺したのは実結だけではなかった。
「なっ……! 離れてください! 実結先輩、こっち来て! 俺がぎゅーしてあげますから!」
手を広げる彼は先ほどまでの虚勢とは違う実結が知る和真といる時の慶だ。こういう時の慶を実結は可愛いと感じていた。好きだと思うのはこういう時なのかもしれない。三人でいてこそ生まれる和やかさが好きなのかもしれない。
「はいはい、慶のこともちゃんとぎゅーしてやるからな」
「俺は実結先輩にぎゅーされたいんです! 先輩はお呼びじゃありません!」
「えー、俺は二人まとめてぎゅーしたいのに」
「男にぎゅーされて誰が喜ぶんですか!」
思わずなのだろうが、慶と和真が言い合う様は関係が元に戻ったようだ。抱き締められたまま実結は微笑ましい気持ちだった。
「あー、慶が三人一緒が嫌ならぎゅーできないよな」
慶の威嚇するような視線を受けながら和真は思い出したように言う。
「そうですね、ぎゅーしてあげられませんね」
続きを求められているようで慌てて口を開いた実結はちらりと慶を見る。
「あーもうっ! 三人一緒でいいです! だから、俺も混ぜてください!」
「和真先輩とも仲良くできる?」
見せつける形になってしまったから勢いで言ったのではないか、本当に彼は三人で付き合う関係を受け入れてくれるのか、実結は恐る恐る慶の表情を窺う。
「で、できます……」
「やっぱりダメかな……?」
彰の弟だからと言って受け入れてくれるとは限らない。だからこそ、実結は不安になる。兄について理解しているわけでもあるまい。三人での関係も彼が望んだことではない。二人での関係を前提に始めたものだった。
「だ、ダメじゃないです! 実結先輩が望むなら、俺も一緒でいいなら、やっぱり諦められないです!」
「じゃあ、一緒にぎゅーしてもらおう?」
実結が誘いかければ慶は困り顔になりながら、ベッドを降りておずおずと近付いてくる。
「これからもよろしくってことで、ぎゅー」
慶も加わって、二人の異なる温もりを感じたその瞬間に実結は幸せに浸れた。やはり、どちらか片方では満たされない。二人分の愛を知ってしまった今、一人では満たされないほど欲深くなってしまった。けれども、そんな自分を受け入れてもらえたのだ。この先何があっても、この温もりを思い出せば乗り越えられる気がした。
何かあった時のためにと連絡先を交換した彰がこうなることを予見していたというのは買い被りだろうか。
「何できちゃうんですか」
ベッドの上で二人の姿を見るなり呆れ顔になった慶の声は刺々しい。それでも怯まずに実結は慶を見据える。隣には和真がいるからこそ心強かった。
「俺に散々脅されて逆らえなくなって正しい選択できなくなって……だから、解放してやったのに」
「違うの……!」
突き放す言葉はやはり強がりなのだろう。実結を拒絶しているわけではない。だから、言わなければならないのだ。やっとわかった本当の気持ちを。
「最初は確かにそうだった。でも、いつからか慶君のこと、怖くなくなってた。それでも、関係が終わるのが嫌で、怖くて言えなかった」
慶を受け入れられるようになれば、和真とは離れなければならなくなることをわかっていた。それが約束だった。だが、いつしかそれだけではなくなっていた。
「一番ずるいのは私なの……和真先輩を好きなまま慶君のことも好きになっちゃったの」
好きだと伝えたら喜んでくれるのではないか。どこかで期待をしていたのかもしれない。だからこそ、自分を射抜くような冷たい眼差しに実結は息が詰まる思いだった。
「だから、それはきっと錯覚です。レイプして脅して縛り付けるような男のどこを好きになれるって言うんですか。まんまと俺に刷り込まれちゃったんですね。もっと堕ちてくれたら良かったのに」
やはりもう嫌われてしまったのかもしれない。やはり手遅れだったのかもしれない。逃げ出したい気持ちになる実結の腰に和真の腕が回る。
慶のどこを好きになったのか、明確に言えるわけではない。ただ彼にも側にいてほしいと心が求めているのは事実だ。あるいは、体なのか。そうだとすれば彼がしたことだ。
「ひどい……刷り込んだら捨てるの?」
「ダメじゃないですか、そんなひどい男好きになっちゃ」
和真は慶の発言を咎めるわけでもない。今は彼に甘えてはいけない。実結自身が解決しなければならないことだ。隣にいるだけでも十分に心強く、何度も実結を苦しめた真悠子の声も今は聞こえない。
「好きになっちゃったのはしょうがないよ……慶君のせい。欲張りになっちゃったのも全部慶君のせい」
「好きになったのが俺だけなら良かったのに」
それが慶の本心なのだろう。実結は胃の辺りが重くなるのを感じる。二人ともほしいと思うのは実結の我が儘だ。双方の同意がなければ、望む関係は成立しない。
「監禁する?」
「縛られて、俺に孕まされる? そうされたいわけじゃないくせに」
「慶君だって、本当にそうしたいわけじゃないでしょ?」
以前はそんなことを平然と言う慶を実結は恐ろしく感じていたが、今は落ち着いていられた。彼のそういうところすらも受け入れると実結は決めたのだ。
「先輩はずっと俺の我が儘きいてくれてた。いや、俺が弱みにつけ込んできかせてただけだって気付いたから、最後にしようって決めたのに……ほんとどうして来ちゃうんですか」
顔を覆ってしまった慶の表情はわからない。けれども、彼は嫌いになったとは言っていない。
「じゃあ、最後に一つだけ私の我が儘きいてくれるよね?」
同意を求めれば拒絶が怖くて実結はすぐにまた続ける。
「ずっと三人一緒がいい。慶君も、和真先輩も私が独り占めしたい」
決して口にしてはいけないと思っていた願望を実結は吐き出し、慶の様子を窺うが、その視線は和真へと向けられている。
「先輩はそれでいいんですか?」
「俺はいいよ? 嫌だったらここに連れてこないで攫ってるし……一緒に慶のこと殴りに来たんだもんね?」
「わわっ……!」
急にぎゅっと抱き締められて慌てた実結は慶から視線を外してしまう。返事を待つ緊張がどこかへ飛んでいってしまった。しかし、動揺したのは実結だけではなかった。
「なっ……! 離れてください! 実結先輩、こっち来て! 俺がぎゅーしてあげますから!」
手を広げる彼は先ほどまでの虚勢とは違う実結が知る和真といる時の慶だ。こういう時の慶を実結は可愛いと感じていた。好きだと思うのはこういう時なのかもしれない。三人でいてこそ生まれる和やかさが好きなのかもしれない。
「はいはい、慶のこともちゃんとぎゅーしてやるからな」
「俺は実結先輩にぎゅーされたいんです! 先輩はお呼びじゃありません!」
「えー、俺は二人まとめてぎゅーしたいのに」
「男にぎゅーされて誰が喜ぶんですか!」
思わずなのだろうが、慶と和真が言い合う様は関係が元に戻ったようだ。抱き締められたまま実結は微笑ましい気持ちだった。
「あー、慶が三人一緒が嫌ならぎゅーできないよな」
慶の威嚇するような視線を受けながら和真は思い出したように言う。
「そうですね、ぎゅーしてあげられませんね」
続きを求められているようで慌てて口を開いた実結はちらりと慶を見る。
「あーもうっ! 三人一緒でいいです! だから、俺も混ぜてください!」
「和真先輩とも仲良くできる?」
見せつける形になってしまったから勢いで言ったのではないか、本当に彼は三人で付き合う関係を受け入れてくれるのか、実結は恐る恐る慶の表情を窺う。
「で、できます……」
「やっぱりダメかな……?」
彰の弟だからと言って受け入れてくれるとは限らない。だからこそ、実結は不安になる。兄について理解しているわけでもあるまい。三人での関係も彼が望んだことではない。二人での関係を前提に始めたものだった。
「だ、ダメじゃないです! 実結先輩が望むなら、俺も一緒でいいなら、やっぱり諦められないです!」
「じゃあ、一緒にぎゅーしてもらおう?」
実結が誘いかければ慶は困り顔になりながら、ベッドを降りておずおずと近付いてくる。
「これからもよろしくってことで、ぎゅー」
慶も加わって、二人の異なる温もりを感じたその瞬間に実結は幸せに浸れた。やはり、どちらか片方では満たされない。二人分の愛を知ってしまった今、一人では満たされないほど欲深くなってしまった。けれども、そんな自分を受け入れてもらえたのだ。この先何があっても、この温もりを思い出せば乗り越えられる気がした。
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こんにちは、作品をお読みいただき、感想をありがとうございます!
そう言っていただけることをとても嬉しく思います。
まだ予約公開の作業中ではありますが、おそらく一ヶ月程度は毎日更新できるかと思います。
どうぞこれから『Again and Again』をよろしくお願いいたします。