【R18】Again and Again

Nuit Blanche

文字の大きさ
1 / 59
強引な後輩

十二回目の告白

しおりを挟む
 テスト最終日の金曜、半日で終わり、部長の方針で部活もない。家に帰れば、ゆっくり休めると思っていたはずだった。
 それが、どうして、こんなことになっているのだろうかと永井ながい実結みゆは目の前の少年を見上げた。
「今日で何回目かわかります?」
 遠間とおまけいは笑みを浮かべながら問いかけてくる。しかし、実結は彼から穏やかでないものを感じていた。
 百八十はあると言っていたか、長身の彼は平均よりも小さな実結からすれば威圧感を覚えるほどだ。目の前に壁でもあるような圧迫感から逃れたいのに、背中は既に壁につき、追い詰められている。
 彼は実結にとって後輩であるが、一学年下とは言っても実際はほんの数十日の差だ。
「十二回目ですよ」
 初めから実結に答えなど求めていなかったのだろう。実結は数えるようなことをしていなかった。
 尋常でないことはわかっていたが、既に両手で足りない回数に達していたとは思わなかったくらいだ。
「先輩に告って玉砕して十二回目」
 既に十一回、実結は彼から告白を受けていた。その度に断っているのに彼は何食わぬ顔でまた告白してくるのだ。強く言えない自分に問題があるのかと悩みもした。けれども、何度告白されても受け入れることなどできなかった。
「俺、こんなにフられたの初めてです」
 ショックとばかりに慶はしゅんとして見せる。
 実結にとっても初めてのことだ。今まで異性に告白されたこともなく、振ったこともなかったというのに、既に十一回も彼を振っていることになる。
 それほど彼を嫌っているわけでもない。後輩としては良い子だと思っているが、彼がなぜ、こんなにも自分にこだわるのかはわかっていなかった。
 容姿は決して悪くない。むしろ良すぎるくらいだ。綺麗な顔立ちをしている。同じ部活だというだけで実結はクラスメートから羨ましがられている。
 スポーツでもやっていれば様になるのだろう。運動神経は悪くないようだが、彼が選んだのはこの写真部だった。
 彼目当てに入りたがる者も多く、数日部室には女子達が押し掛けてきたりもしたが、結局、誰も入部することなく、寄りつきもしなくなった。唯一、入った女子と言えば、写真が好きだと言う一年生くらいだ。
「もっと間を空けるとか……」
「そうしたらOKしてくれるんですか?」
「それは……」
 実結は答えられなかった。好きな人がいるから彼の気持ちには応えることができない。そう何度も告げたはずだった。
「毎日告白したら意識してくれるかなとか、折れてくれるかなと思ったんですけど」
 毎日顔を合わせれば慶が告白してくる。休日もメールや電話で伝えられた。そうして、実結がよく飽きないなと思っている内にとうとう十二回目になってしまった。
 全く意識していないとは言えないが、出会ってからそれほど長い時間を過ごしているわけではない。彼のことをよく知らないし、告白される度にわからなくなっていった。
 慶は自分の存在を刷り込もうとしているのかもしれない。そして、実結もこのやりとりを繰り返すことに疲れ始めてもいた。冗談を軽く受け流せる性格でもなければ、彼も冗談のつもりでないことは初めに言われた。毎回、恐ろしいほど真剣なのだ。
 だからこそ、考えておくなどと迂闊なことも言えないし、性格上きつく言うこともできない。折角、部員が増えたのに、気まずくなるのも嫌だった。
「俺、持久戦って嫌いなんですよね」
 早く決着をつけたいと言いたげな慶には諦めるという考えはないのか。
 実結は慎重に答えを選び、決められない内に慶が口を開く。軽率なことを言えない危うさがある。

「実結先輩は和真かずま先輩のことが好きなんですよね?」
 ドキリとして実結は慶を見ることができなかった。動揺を悟られたくはなかったのだ。
 好きな人がいるとは言ったが、それが誰かは聞かれても教えることはなかった。慶はしつこく聞いてくることはしなかったが、初めから気付いていたのかもしれない。
 大川おおかわ和真は写真部の部長である。いつも穏やかで人当たりが良く、実結は彼と話すのが好きだった。彼目当てに入ったわけではないが、初めて彼に声をかけられた時から惹かれていた。
 彼と付き合いたいというよりは部活で一緒にいられるだけで良かった。振られて部活にいるのが気まずくくらいなら思いを告げずに片想いのままでいたかった。それで十分だった。
「この前、それとなく和真先輩に聞いてみたんですけどね……妹みたいで可愛いって言ってましたよ」
 和真がそう言う様が実結には容易に想像できた。妹ができたみたいだとは何度も本人から言われている。実結の気持ちには気付いていないのだろう。
「でも、付き合うのはさすがに子供っぽすぎて無理って。ロリコンだと思われたくないみたいですよ」
 本当に和真がそう言ったのか。疑問には思ったが、信じたくない気持ちが強かったのかもしれない。
 そう言われることも想像できてしまうのだ。実結自身、子供っぽいのは自覚している。中学生と間違われるなら良い方だ。小学生の方が大人っぽいのではないかと感じることさえある。
 時折、和真に頭を撫でられると実結はドキドキするのだ。ついやってしまうのだと和真は笑い、やはり妹のように、子供扱いしているからそうするのだと合点が行く部分もある。
 彼が仲の良い同級生の女子と喋っているのを見ると辛くなるのは彼と釣り合っていると思ってしまうからだ。
「ってことで、失恋した先輩は俺の胸に飛び込んでいいんですよ?」
「失、恋……」
 実結は呆然と呟く。
 そういうことになってしまうのだろうか。
 告白しなければ、彼が他の誰かと付き合わなければ失恋することもないと思っていた。
 それなのに、あっさりと他人から告げられて受け入れることができない。
「直接当たって砕けなきゃ諦められないですか? 俺が嘘吐いてると思います?」
 じっと目線を合わされて、実結は戸惑う。真っ直ぐな目は疑ったことに対して罪悪感を抱かせる。
 嘘だと思いたいのは実結の勝手だ。そのために後輩を嘘吐き呼ばわりすることなど実結にはできない。本人に確かめる勇気もない。
「近々、河西かさいが先輩に告白するとかで、あの二人、きっと付き合い出すと思いますよ」
 慶が上げた名前に実結の胸はズキズキと痛み出す。河西真悠子まゆここそ慶目当てとは関係なく入った写真好きの一年生である。
 彼女は明るく積極的で、よく熱心に和真とカメラの話をしていた。自分とは全く違うタイプの彼女と話している時の和真は好きな話ができて生き生きしているようにも見えて実結は辛かった。
 先日、彼女にも和真のことを好きになってしまったから協力してほしいと言われていた。彼女は実結が和真に想いを寄せているなどとは考えもしない様子であり、実結も半ば強引に頼まれてしまっては断ることができなかった。
 慶が何かと話しかけてくることもあって、和真と接する機会は彼らが入ってくる前に比べれば減っていた。新入生など入ってこなければ良かったのに、と思ってしまったことさえある。彼らがいない頃に戻りたいと願って自分の浅ましさに嫌気がさしたくらいだ。
 告白する勇気がないのだから、仕方のないことなのだと堪えるしかなかった。心のどこかでは真悠子と和真が上手くいかなければ良いと思ってまた自己嫌悪を繰り返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...