【R18】Again and Again

Nuit Blanche

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強引な後輩

強引な慰め

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「先輩、泣かないで。俺がいます。俺が先輩を慰めてあげますから」
 ひたりと冷たい手が頬に触れ、実結の体は竦む。実際、泣きたい気分ではあるが、まだ泣いてはいない。
 それなのに慶の顔が近付いてきて、思わず実結は後退ろうとするが、最初から退路は封じられていた。慶が流行の壁ドンというものをしてみたいなどと言ったせいだだ。
「ねぇ、先輩。何で、そんなに怯えてるんですか?」
 言われて実結は自分が震えていることに気付く。
「これで、もう諦めるって……付き纏わないって……」
 呼び出された時、実結は応じないつもりだった。また告白なのだろうかと思えば怖かった。
 けれども、彼は最後にすると言った。だから、思い出作りにと言われて、この体勢も受け入れてしまったのだ。
「ええ、言葉で振り向かせるのは諦めました。だから、こうしたらドキドキしてくれるかな、って」
 すぐ近くで慶は笑んでいるが、細められた目の奥が笑っていないように感じられた。
 言葉でなければ何だと言うのか。実結が得られたのは不安感ばかりで、ときめきなどなかった。
「それに、彼氏なら付き纏ってることになりませんよね?」
「かれ、し……?」
「はい、今日こそ実力行使しようと思って」
 実結の中で警鐘が鳴り響く。もう遅すぎたのかもしれない。初めから彼の言葉など信じるべきではなかったのかもしれない。慶の言葉の意味は実結には理解できない。
「慶君とは付き合えな……」
 どうであっても、自分の気持ちを明確にしなければならないと実結は思った。たとえ、和真に振られても慶と付き合おうとは思えない。
 それなのに、人差し指が遮るように実結の唇に触れる。
「体から始まる恋もありますよね」
「からだ……?」
「セックスですよ」
 実結は言葉を失った。性的なことに免疫がない実結には刺激的で口にするのが憚られる言葉だと言うのに、慶はさも当然のように言う。聞き間違いかと思ったほどだ。
「俺、上手いと思うので安心してください。痛いだけにするつもりないので」
 安心などできない。話が飛躍しすぎている。しかし、唇を撫でた指は後ろへと回り、また慶の顔が近付いてくる。
「やっ!」
 実結は本能的に恐怖を感じて、両手を伸ばし、慶を突き飛ばす。その瞬間に脇目も振らず逃げてしまえば良かったのかもしれない。
「実結先輩」
 呼ばれて反射的に見てしまって、実結は後悔した。
 慶の顔からは笑みが消え、恐ろしいほど冷たい目で自分を見ている。まるで蛇に睨まれた蛙、恐怖で石になったように実結は動けなくなる。
「拒まれると我慢できなくなるんですよ」
 強く背中を壁に押し付けられ、痛みに顔を顰めた瞬間、慶の顔が近付いてきて逸らす間もなかった。まるで噛み付かれたかのようだった。
「っふ、あ……は、ぁっ……」
 唇が触れたなどという可愛らしいものではない。後頭部を固定され、口内を蹂躙するように入り込んできた舌に実結はたまらず慶のシャツを掴む。そうでなければ、また別の意味で足が震えるせいで立っていられなかった。
「先輩、可愛い……」
 唇が離れ、呼吸もままならず、へたり込みそうになる体を慶が支える。離れなければ危険だとわかっているのに、優しく髪を撫でられると抗えなくなってしまうのはなぜなのか。
「今すぐこの場で犯したくなる」
 耳元で囁かれて離れようとすれば抱き締められてしまう。その力は強く、そうすることで実結から抵抗する気力と体力を奪おうとしているかのようだ。
「でも、先輩に痛い思いさせたくないし、俺の気が変わらない内に行きましょう。ね?」
 解放されたかと思えば、手を取られ、軽く引かれる。しかし、慶はまた笑っているが、手を握る力は強い。
「手、痛い……」
「だって、先輩、逃げそう。まあ、逃げたら捕まえて絶対に逃げられないように縛り付けてから犯しますけどね」
「逃げない、から……」
 逃げられるものなら逃げたいが、逃げれば何をされるかわからないという恐怖が実結に刻まれている。
「俺の家と先輩の家、どっちがいいです?」
「そんな……」
「俺の家でと思って準備してたけど、先輩に決めさせてあげます。シチュエーションって大事ですよね」
 実結に決められるはずなどなかった。シチュエーションが大事だと言うのなら実結はどちらも望まない。理想のヴィジョンにいるのは慶ではなく和真だ。それはひどく漠然としたものであったが。
「今ここで、和真先輩の席で犯されたいっていうなら話は別ですけど」
 慶が見る見る方向にはいつも和真が座っている席がある。決まっているわけではないが、大体いつも一緒だった。
「……どうして、そんな酷いこと言うの……?」
 泣きたい気持ちで実結は問う。泣いてしまえたら良かっただろうか。
「酷い? 俺は先輩が傷付かないようにしているだけですよ」
 悪びれず慶は言う。優しさだと言いたいのか。あまりに押し付けがましい優しさだ。しかし、実結は反論もできない。
「あ、生理だからダメなんていうのは通用しませんからね」
「え……?」
「まだだってわかってますから」
 実結はぞっとした。まだ生理の予定日まで日があるのは事実だ。慶の口振りでは把握されているようだが、彼に話すはずもない。
「今日は安全日ですよね。でも、ちゃんと避妊はするんで安心してください」
 彼は異常だ。自身すら把握していないことを言う慶に初めて実結はそう認識した。けれど、もう遅すぎたのかもしれない。
「わかったから……」
 意を決し、絞り出すように実結は口にする。
「何をわかってくれたんです?」
「付き合うから、だから……」
 震える声で告げて実結は様子を窺う。
「だから?」
「もうちょっとお互いのことを知ってから、その……」
 実結の中では付き合っても、その日にすることではない。あまりに性急に思える。キスも初めてだったのに、わけもわからない内に奪われてしまった。そのショックも受け入れられているわけではない。
 それでも、まだ時間をかければ彼のことを知れば好きになれるかもしれない。
 自分のことを妹としか思っていない相手を想い続け、他の誰かと付き合うのを見て一人で苦しむよりは自分を好きだと言ってくれる誰かがいてくれた方が良いだろう。
 慶に逃げるわけではない、利用するわけではないのだと実結は自分に言い聞かせる。
「俺は先輩のこと、いっぱい知ってるし、俺の事なんて抱かれてくれたらわかりますよ」
 実結はふるふると首を横に振る。気持ちが通じ合っていないのに、できることではない。
 どうして、こんなことになってしまったのか。こうなる前に、もっと早く彼の気持ちに応えていたら良かったのか。
「初めてだから……怖くて……心の準備が……」
 実結は必死に訴える。逃れたいだけではない。
 処女なのだ。キスだって初めてだった。好きな人に捧げるものと思っていたのだから、大事にしたいと思うのも当然である。
「良かった……」
 ふわりと抱き締められて実結は混乱する。その腕は優しいのに、なぜ、こんなにも恐ろしいのか。
「先輩の初めての男になれるんですね。まあ、わかってましたけど。他の男に奪われてたら優しくできませんからね」
 背筋がぞわぞわするのは単に彼の声が耳を掠めていくからだけではあるまい。その言葉に込められた意味が恐ろしい。
「大丈夫。怖いのなんて忘れさせてあげます。安心してください」
 慶は笑うが、実結の心には穴が開く。それは、きっと絶望だった。
 結局、彼は何もわかっていないのだ。
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