影街〜①真契約編〜

和にんじん

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第4話 ファージについて

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「さあ!融くん!!

この部屋の人から職員について

聞くのよ!!!!!」



「いやいやいやいやいやいや!?!?!?

何言ってるんですか!?!?!?」



折西は小声で大パニックになりながら

お姉さんを阻止しようと必死だった。



メインコンピュータ室に入るだけでも

ヒヤヒヤしたというのに。



次入ろうとしている部屋が組長室なんて。



「だって!この人イジワルじゃない!!」



お姉さんは催眠ガスで眠らせた

昴を指さしムスッとした。



コンピュータ室に入れたがらない

&折西の話すら聞いてくれない

昴に即しびれを切らしたお姉さんが

昴に霊感がないのをいい事に

急に催眠ガススプレーを吹きかけたのだ。



何故お姉さんが催眠ガスを

持っていたのかは定かでは無い。恐怖だ。



「それに!絶対トップの人の方が

情報知ってるじゃない!

さあさあ怖気付かずに行こう!!」



お姉さんは半ば強引に

折西の背中を押した。




・・・





ガチャン!折西が入室した直後、

背後の扉が勢いよく閉まる。



「…」



「あっ…あっ…」



目の前にいる片目の隠れた紫髪の男、

垓組長から発せられるオーラに

折西は吃る。



「なになに?緊張~??」



お姉さんはそう言うと組長の隣に

スっと移動し、ほっぺたを

ムニムニし始める。



「ちょっ、や、やめてください!!!」



「…折西 融」



地を這うような低い声に空気が重くなる。



「…アッ」



組長がパイプ椅子を手に取り

ゆっくりと歩み寄る。



全身麻酔が欲しい、出来れば効くやつ。

折西は痛みを覚悟し歯を食いしばる。



「丁度良かった。話がしたくてな。」



鈍器になると思っていたパイプ椅子は

折西のそばに置かれたのだった。




・・・




「…なるほど。よく昴の目を欺いたな。」



「すみませんすみませんッ!!!」



折西は頭を何度も下げた。



「いや、大したものだ。昴は職員の

中でもかなり警戒心が強い奴だからな。」



「いや、僕の実力ではないというか…」



「そこにいる幽霊が、か?」



「見えるんですか!?」



「いや、見えない。

気配だけ感じるだけだ。」



「す、すみません!!!幽霊さんが

何故か持っていた催涙ガスで

眠らせちゃって…」



「気にするな。それに昴は

最近寝てないから丁度いい休息に

なるだろうしな。」



そう言うと組長は白湯を入れた

コップを折西に差し出した。









「…本題は?」



「あっ、あ、あの!職員さんに

ついてのデータが欲しくて…!」





「データ?」

組長の顔が険しくなる。





「あ、ああ…あっ…」



「落ち着け折西。

何故データが欲しいんだ?」



「…すみません…えっと、

僕が無能だからせめて職員さんの

お悩みを解決したくて…」



組長の後ろでお姉さんがカンペを

出していたのでそのまま読んだ。





「ほう。まるで読まされている文章だな。

幽霊の仕業か?」





「ヒエ…」



全てを見透かされ萎縮した折西は死を

覚悟し強く目を閉じた。





「…問い詰めるつもりは無いんだが。」



ふぅ、と息を吐きだし、話を続ける。



「心鍵師の役目を果たすために

データが欲しい、という解釈で

合っているか?」



「!!何故それを!?」



折西は慌てて立ち上がり、

ガタン!と大きな音を立てた。



「それなりに知識は得てる

つもりだからな。」



そう言うと組長はゆっくりと立ち上がり

本棚から一冊厚い本を取り出した。





表紙には「白い木の災厄」と

書かれている。



組長は栞の挟んであるページを開き、

折西に見せた。



そこには赤い空に白い木、黒い雨、

そして折西と同じようにチョーカーが

付けられていた人間の絵が描かれていた。











「前に取引していた会社で

本に出てきた人間そっくりな折西を

見つけてな。その日は他の仕事が

あったから引き止められなかった。

だから折西を探して連れてくるよう

紅釈に頼んだんだ。」



「なるほど…!だから生け捕りに…」



「会社に連絡した時アイツは

もう辞めたから行く末は分からないと

言っていた…だから結局強引に

連れてきてしまった。すまないな。」



「僕のせいで気苦労を…すみません…」



「いや、大丈夫だ。折西は悪くない。」



「でも僕はどん臭くて忘れっ」



「部下が思うように動けないのは

1番上の責任だ。」



組長は折西の言葉を遮るように

淡々と言った。




「…!」



「今度は俺が折西の責任を負うから

安心しなさい。何とかする。」



「…いやいや!いくら仕事のできる人でも

僕の世話役の上司は全員鬱になっ、」



刹那、組長は距離を一気に詰め、

折西の額に手を強く押し当て、耳元で





『絶対命令、心鍵師の役目を果たせ』





と呟いた。



どくん



心臓が跳ね上がり全身に血流が回る。



途端にこの人の命令に従わなければ

ならない、という使命感とこの人に

命令されたことを

絶対遂行できるという自信が

押し寄せてくる。





「こ、これは…?」



「ちょっとした魔法みたいなものだ。」



「…魔法?どういう理屈で…?」



「実際見てもらった方が早いな。

おい、『エフォート』。

こっちに来てくれないか?」



組長がそう言うと紫色の水晶クラスターの

ようなものが組長の左肩辺りに現れた。







「こいつがお前の言ってた折西か!?」



「ああ。予想通り心鍵師のようだ。」





「す、水晶が喋ってる…!?」



折西が目を丸くしていると

面白がった『エフォート』と

呼ばれる水晶は大声で笑った。



「フハハハ!!!!!!!!

そりゃあ契約生物の『ファージ』

だからな!人間と意思疎通できねば

生きていけぬ!!!!!!!」



昴を起こしたくない折西は大声で笑う

水晶の無い口を塞ごうと必死に口を探す。



「エフォート、静かにしろ。深夜だぞ。」



組長が少し困ったように水晶に言った。



「…先程の絶対命令はここにいる

エフォートファージ。

通称エフォートと契約して得た

『絶対命令』という能力だ。」



自分のことを紹介していると

判断した水晶、エフォートは

スッ…と静かになった。



「絶対命令された側は言うことを絶対に

遂行する力を持つことが出来る。」



「ということは僕が心鍵師の役目が

果たせそうな気がするのは役目を

遂行する力を持つことが

出来たからですか…?」



「頭が弱そうだと思っていたが

ちゃんと理解できてるな!!!!!!」



フハハハと大声で笑い、

折西の背中を叩いてるつもりなのか

水晶の尖ったところで突く。とても痛い。



「いたたた…それなら僕じゃなくても

組長さんの能力で皆さんのトラウマを

克服できるのでは…?」



「甘いッ!!!!!!!!」



エフォートが折西の背中めがけて

先端を勢いよく突き刺してきた。



「オアッ!!!」



「言ったであろう?我と垓は

契約関係であると。

何の代償も貰わず易々と契約する

馬鹿ではない!!!」



「いたた…代償…?」



「垓は『努力』を代償に絶対命令の

能力を得ておる。

だから能力を使えば代償に

使った努力が全部水の泡になる。」



「てことは僕に力を与えた代償で

組長の今まで積み重ねてきた何かの

努力が全部パーってことに…!?」



「ようやく分かったか小僧!!!

天才じゃないか!!!!!!」



そう言うとエフォートは折西を

どついた時の傷口を突き始めた。



「アッ!!アッ!!!ヤメテ!!!!!

…バンバン能力使えないって

ことですね…」



「能力の使いすぎで最終的には

呼吸する努力も出来なくなることも

あるだろうな!」



エフォートはそう言うと折西から離れ、

組長の左肩辺りに移動した。



「えっ、それって生死に関わるやつ

じゃないですか!!」





「…そうだな。それなりのリスクを

覚悟で契約してる。」



組長がようやく口を開く。





「俺だけじゃない。ファージと

契約しているここの職員もそうだ。」



「皆さんも契約してるんですか?」



「ああ、『そういう奴ら』をうちでは

雇ってるからな。」



ということは…お姉さんが話していたように

みんなにトラウマがあるということ

なのだろうか?



「ファージと契約する者の心の鍵が開く時、

本当の力を得ることが出来る…と

この書物に書いてあった。」



本をぱたり、と閉じて組長は話を続けた。



「実際心の鍵が開いた事例を見たことが

ないからなんとも言えないがな。

だが今はこの情報だけが頼りだ。

よろしく頼む、折西。」



そう言うと組長は折西の前に手を

差し出した。



「こちらこそ、

よろしくお願いします…!」



折西は差し出された組長の手を

握り返した。



「長々と話して悪かった、

今日は部屋に戻ってゆっくり休んでくれ。

心鍵師としての活躍、期待している。」



折西は

「夜分遅くにすみませんでした、

失礼します…」と

一礼し、自分の部屋へと

戻って行ったのだった…
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