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第5話 影街には危険がいっぱい!
しおりを挟む折西は目を覚ます。
四方コンクリートに囲まれた部屋を見て
夢では無いことを再確認した。
時計を見る限り朝の7時らしい。
「なんだか、時間感覚が
分からなくなりますね…」
窓から差し込む赤い光は時間なんて
到底教えてくれ無さそうだ。
ベッドから出てグッと背伸びをした。
少し眠気が冷めた折西はふと
大事なことに気がついた。
「もしかして…皆さんのデータ
貰い忘れてる…!?」
貰いに行かなきゃ、
けれどまた昴とご対面だけはしたくない。
「…職員さんに直接会って情報を
引き出すしか無さそうですね。」
折西は水場へ向かい、顔を洗う。
するとふと横目にインスタントの
味噌汁が目に入る。
特にメモがある訳でもなく誰が
持ってきてくれたのかは不明である。
「そういえばご飯食べないとですね…!」
ありがたく頂こうとインスタントの
蓋を取ろうとしたその時、
勢いよく扉が開く。
「よぉ折西!!!!!!」
威勢のいい声の主、紅釈(ぐしゃ)が
にっこにこでドア前に立っていた。
紅釈はずけずけと洗い場まで
上がり込み折西の肩をバシバシと叩く。
「キャァ!?!?!?なんですか!?」
「おっと、悪ぃな!
今日何も食ってねぇだろ?
影街案内がてら甘味処に行こうぜ!!!」
「甘味処って…まだ朝なんですが…」
「バーカ!甘味処は
いつ行ってもいいだろ!
インスタントなんて健康に悪いもん
食ってねぇでほら、行くぞ!!!」
紅釈は折西の腕を半ば強引に
掴んで外に出た。
2人は街中に入った。
街中と言えど光街の華やかな
賑やかさは無く、罵声や物が
破損する音、悲鳴のような声が聞こえる。
「ヒエ…」
「そんな怖がるなよ~!
別に俺らには何も起こってない
じゃんか!」
「怖がる怖がらないの
基準そこなんですね…」
確かに影街に長居している紅釈にとって
これが日常なのだろう。
「…それにしてもお店多いですね。」
「街中だけでもホスト、キャバクラ、
風俗、肉屋、八百屋、魚屋、酒屋、服屋、
陶器屋カジノ、薬屋、病院、旅館…
なんかがあるな!」
紅釈は指折りしながら教えた。
「そんなにあるんですね…!
影街は小さい街だと聞いてたので
意外です…」
「確かに小さい街だけど光街との交流は
原則禁止されてっからなぁ~
ある程度のものはこっちで揃うぞ!」
「…?それなら業者さんは
どうやって仕入れて…」
「あ~、考えたこと無かったな!
裏ルートで手に入れてんだろ!」
無邪気な赤子スマイルで
とんでもないことを言い始める
紅釈に折西は開いた口が塞がらなかった。
「あ、けど折西!…ここだけの話だけど
八百屋には行かない方がいいぞ。」
「!?それは危ない何かを売ってる
ってことです…!?」
「…いや、物じゃなくて者っつーか…
そこの店長…老若男女関わらず
襲うからよ…」
「…えっ!?命の危険って
ことです…!?」
「命っつーか…身の危険っつーか…
とりあえず近づかないことだな!」
言葉を曇らせる紅釈に疑問符を
思い浮かべながら折西は
紅釈と街中を出た。
・・・
街中を出て一本道を通り、森の中に入り
しばらくすると古い建物が見つかる。
「ここだぜ!俺の好きな甘味処!」
「おお…!素敵なお店ですね…!」
古い建物ではあったが落ち着いた
雰囲気で影街の治安の悪さを
一切感じさせない佇まいであった。
カランカラン…
音を立てて店内に入るとおばあさんが
「あら、紅釈ちゃん!」
とニコニコしながらこちらにどうぞ、
と2人を席に案内してくれた。
紅釈はテーブルに着くとメニュー表を
折西の前に広げる。
「今日は俺の奢りだから
好きなもん頼みな!」
メニュー表には昔ながらの
スイーツが沢山載っていた。
折西は懐かしさからみたらし団子を
注文し、紅釈はあんみつを頼んだ。
「みたらし団子安くね?
もっと高いやつ選んで良かったのに…」
後輩に高いのを振る舞いたがって
いたのか紅釈は少しムスッとしていた。
「すみません…昔おばあちゃんが
みたらし団子を作ってくれていたのを
思い出してつい…」
「へぇ~!じいちゃんばあちゃんが
世話してくれてたってことか?」
「そうなんです…!
父と母は僕が幼い頃に
亡くなったらしくて…
おじいちゃんとおばあちゃんが僕を
育ててくれたんです。」
「…てことはじいちゃんばあちゃんは
今実家にいるってことか?」
「あっ、えっと。おばあちゃんは
いますけど…おじいちゃんは数年前に
亡くなって今はいないです。」
「…悪ぃ、失礼な事聞いたな。」
紅釈はバツが悪そうに下を向く。
「いえいえ!大丈夫ですよ!」
折西は落ち込んだ紅釈をなだめる。
「ぐ、紅釈さんの御家族は…?」
暗い話も何だしと話題を紅釈に振った。
「…俺の親は…今どうなんだろうな?
連絡取れねぇからわからねぇ…」
「そ、そうなんですね…」
聞いちゃいけない質問だったかな?
と折西が考えていると紅釈はいきなり、
自身の左足に手をかけ、外す。
「!?」
折西は何が起こったのか理解出来ず
数秒固まった。
口をあんぐりと開けた折西に気が付き、
紅釈は慌てた様子で
「悪ぃ。俺、左だけ義足なんだよ!」
と伝えた。
もぎ取られた左足から黒い何かが蠢いている。
「『ペイ』!ちょっとこっちに
出てきてくれねぇか?」
そう言うともぎ取られた左足から
黒いクジラのような生きものが出てきた。
「アッ…エット…コ、コンニチハ?」
「く、鯨さん…?こ、こんにちは…」
お互いはてなマークを頭上に浮かべ、
双方何も理解しないまま挨拶だけが
行われた。
「紹介するぜ!この子はペインファージ。
俺は『ペイ』って呼んでる。
家族みたいなもんだな!」
ペイは
「ヨロシクネ!」
と言いお辞儀をした。
「ファージってこんなに可愛い子
いるんですね…!」
「だろ!?お目目くりくりで
可愛いよな!」
紅釈は膝上に座ってきたペイを撫でた。
「なんだか、契約関係に
見えないですね…!」
「まあ契約はしてるしそれなりの
代償も渡しちゃいるけど、
家族とか相棒に近いかもな!」
紅釈は戻っていいぞ!
とペイに伝え、
ペイは義足の中へともぞもぞと移動した。
紅釈は何を代償にペイと
契約しているのだろう?
気になりはしたがそれを聞く勇気は
折西に無かった。
他にも色々談笑しているとテーブルの上に
あんみつとみたらし団子が
そっと置かれた。
「おっ、きたきた!俺ここのあんみつ
すげぇ好きなんだよ~!!」
紅釈の顔がプレゼントを渡した
子供のようにキラキラと輝いていた。
「あんみつも美味しそうですね…!」
「おっ、これ半分こするか?
折西の団子も半分こしようぜ!!!」
紅釈は鼻歌を歌いながらあんみつを
小皿に分ける。
3等分出来るわけないと思っていた
みたらし団子の1個を紅釈は
無理やり半分にして気合いで1個半に
していた。
「いただきます!」
2人の声が揃うとお互いあんみつを
口にした。
「…!!美味しい!」
「だろ!?!?!?蜜江(みつえ)さんの
作るあんみつすげー自慢なんだよ!」
蜜江さん、ここの店主さんだろうか?
と思っていると先程のおばあさんが
やってきた。
「あら、そんなこと言って~!
嬉しいわぁ~!」
「毎回ここのあんみつを目当てに
来るくらいには最高ですよ!」
失礼かもしれないが、折西は紅釈が
敬語をしっかり使えると
思っていなかった。
「紅釈さんって…敬語使えるんですね…!
アッ!い、嫌味とかじゃなくて
偉いなって!」
「バカ!!!俺がレディにタメ口
言うわけないだろ!!!!!!!!」
まったくもう、
と少し眉間に皺を寄せた紅釈の傍では
蜜江さんがほんのり頬を赤らめ
乙女の顔をしていた。
「す、すみません…
み、みたらし団子も食べましょう!!!
凄く美味しそうです!」
紅釈さん、意外としっかりされてる方
なのかもしれないな…と思いながら
折西はみたらし団子を口にした。
口溶けの滑らかなみたらし団子は
ここ数日で疲れきった心を癒すには
十分すぎるくらい美味で、そして後から
ほんのり苦味が来たのだった…
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