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夏カボチャ

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19章 月界の長と凍結の支配者

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 かぐやは拓武に和羽を含む全ての人間界の復活を望むならば叶うだろうと口にしたのだ。

 しかし、それはあくまでも、矢武拓武と言う存在が別に存在する世界、つまりは似て非なる別世界を意味していた。

「それでも……和羽は生き返るんだな、かぐや……」

 拓武の表情は重たいままに声も若干弱々しい。

「生き返るのではなく、誕生する世界になる、しかし、そこには拓武自身はいない、居るのは拓武は両親から産まれた別の矢武拓武と言う存在になるだろう、そして拓武よ……そうなれば人間界にソナタは立ち入れなくなる」

 かぐやは同じ次元に同じ存在が重なりあえば時空の崩壊に繋がると拓武に伝えた。何故ならば、今居るのはあくまでも、矢武拓武に転生したフェンリルであり、時滑りの力を食らい今の姿になったに過ぎないからである。

 拓武は苦悩した。自分自身が何なのかがわからなくなっていたのだ。そんな時だった。

「主様……私如きが口を開くべきではないのでしょうが……どうかお聞きください」

 それはモシュネであった。

 モシュネは今までの拓武の行動を随時、隣で見てきた。だからこそ口にしたのは再度、矢武拓武として転生する事であった。
 そうなれば、和羽と共に生きていける未来もあるだろうと辛い表情を必死に笑いで誤魔化しながら口にした。

「俺は、転生はしない……和羽が笑える世界が在れば、それでいいんだ」

「御意……主様は愚かです……最後まで……本当に」

 涙を流すモシュネ、そしてそれは皆も同様であった。その場に居る全ての者が元の時代を生きることが出来なくなった事実だけが残ったのだ。

「皆、ごめん……俺のせいで皆を……」

 拓武の謝罪に皆が顔をあげた。そして口々に「後悔はない」「我らは王と生きると決めたのです」と声を上げだした。

 かぐやはそれを優しく見守りながら微笑むと「凍結の世界に国を創るがい   い」と語った。

 この時間軸の全てに関わる存在がいる以上、それが最善であると皆が受け入れると、拓武達はアースが使っていた絶対凍結空間へと進んで行く。
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