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5章アスラステアの王ナビカ

マナカの叫び、勝利への執念

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アンジロックの敗北は、まさに予想外の出来事だったのだろう。

ナビカをはじめとする、敵陣の表情を見れば一目瞭然だ。

そして、勝利したドドメルも、疲労困憊のようで、此方に戻ってくるなり倒れ込んだ
のだった。
何とか勝利したが、此処からが問題だった。
アンジロックのスキルを知っていたからこそ、勝てたが次に誰を出すかを先に決めねば成らなかった。

『ガルダ、私が行く』

マナカの言葉に、ガルダは驚いた。

さっきまで、恐怖していたマナカの顔は既に冷静さを取り戻していた。

『いいのか?マナカ、何ならギブアップしてもいいんだ』

『ガルダ、私は勝つわ、ドドメルは、頑張ったんだもの、私も全力で頑張るわ!』

マナカはそう言うと、リングに足を運んだ。

そして、マナカがリングに上がると、青色
の女がリングに上がってきたのだ。

『はじめまして、私は、黒雨のアルア・ミネルビーよ、よろしくね』

アルアは、全身をまとうようにしていた、青い布を脱ぎ始めたのだ。

『な、何してるのよ!』

マナカはいきなり肌を露にしたアルアに驚きを隠せずにいた。

『私の戦闘スタイルよ?』

そう言うと、アルアは、水着姿になるとマナカに微笑みを浮かべた。

その手首には、リングのような形の刃物が装備され、同じ物が手足合わせて四つ装備されていた。

『さあ、はじめて、ナビカ様、私は準備万端よ』

マナカも頷き、両者が準備を整えたのを確認したナビカは、試合開始を告げたのだった。

『マナカって言ったわね?貴女は強いのかしら?行くわよ!』

アルア・ミネルビーは、まるでダンスでも踊るかのように、マナカに近づいてくる。

『そんなに踊りたいなら!踊りなさいよ!行けぇぇぇ〔ゴーレム作成〕』

マナカは、それに対して複数のゴーレムを作成したのだった。

『ゴーレムクリエイターなのね?珍しいわね?実際に見るのは、初めてだわ!』

攻撃を仕掛けたゴーレムをアルアは、軽く受け流すと!その長い足と手に装備された、リング状の刃物で打ち砕きながら、マナカにゆっくりと近づいてきたのだ!

余りに華麗なその舞いは、確実にゴーレムを粉砕しながらマナカに向かって行く。

『この程度で終わりなの?ゴーレムクリエイターって、大したことないのね?』

残念そうにするアルアは、まるで貰った玩具が期待外れだった子供のような表情を浮かべていた。

『さっきから、アンタが言ってる、ゴーレムクリエイターって何なの。』

マナカの聞き慣れない言葉であり、知りたいとそう感じたマナカは、戦いの最中、敵であるアルアに訪ねたのだ。

『アンタ?自分がどれだけ珍しいか知らないの!アハハハ、そう言う事か、いいわ!教えてあげる』

ゴーレムクリエイター、世界で過去に確認されているのは、数十名のみで、
此処、数十年は、その存在事態が確認すらされていない稀少スキルを保有する者を指す言葉だ。

その存在は大陸戦争すら、終わらせるであろう、強大な存在である。

マナカのように複数体を一斉に操るゴーレムクリエイターの存在は更に稀少になる。

だが、マナカは自信のスキルを戦いに使うようになったのが最近の話であり、その全てを理解するには、時間が足りていなかったのだ。

『さあ?理解したかしら!でも今の貴女では、私には勝てないわ!大人しくやられなさい!』

アルアは、更に激しくリングの上を舞い踊り体から雨雲を出していく、その華麗な舞いは、やがて黒い渦になり空を黒い雨雲が覆っていった。

『さあ!いけわよ〔ダークレイン〕〔死の大雨デスコール〕ちゃんと死なないようにしてね!』

雨雲から凄まじい雨が降り始めると!その雨の中に黒い粒が徐々に増えていったのだ

草木がその雨に触れたとたん枯れだしたのだ!

『この雨に、あんまり長く当たるとアンタも危ないわよ!さあ、早く勝負をつけましょう!ゴーレムクリエイターァァ!』

アルアの言葉に、マナカは焦っていた、間違いなく状況は、マナカにとって分が悪かった。

『く……まだだぁぁ!〔ゴーレムアーツ〕風車!〔ゴーレム作成〕!行けぇぇぇ!』

マナカが作ったのは、巨大な手動式の風車であった。

その風車をゴーレム達が一斉に回し始めたのだ!

その風車から作られる膨大な風は一瞬にして、アルアの雨雲を吹き飛ばさんとしていた。

『あはは、有り得ないわ!面白すぎるわよ、でもね!格が違うのよ!格が!』

アルアは、全ての雨雲が無くなる前に残っていた雨雲を体内に戻したのだ。

更に自身の装備していたリングを外したのだ。

アルアが装備を外した後にステップを踏みリズムを整え終わると、ゆっくりと止まったのだ。

二人の戦いを見ていた他の者達が静かに見守るなか、アルアが再度舞い始めたのだった。

遥かに早く更に繊細に、見るものを魅了する舞いは、優雅にして可憐の一言だった。

『さあ!決めましょう、私達は黒船の誇りと共に!戦いに白黒つけましょう!』

アルアは更にステップを激しくしていく!

『私には、そんな大層なものは無いわ!でもね!家族を暮れたのよ、暖かい場所を暮れたの!そんな大好きな旦那が困ってたら、やるしかないじゃない!』

マナカは素早く動くアルアに対して海水を使い巨大なゴーレムを作成したのだ!

ザルバトランで見せたそれよりも遥かに巨大なゴーレムが凄まじい勢いで腕を降り下ろしたのだ!

『そんな攻撃当たるわけないでしょうが!』

避けようとしたが、アルアの回りには、空気の壁が作られていたのだ!

『エアーゴーレムを使った〔ゴーレムアーツ〕よ、何層にも束ねてあるから先ず壊せないわ。終わりよ』

マナカの言葉にアルアは恐怖した。

アルアは元々、防御はあまり適していない、更に言うならば、防御スキルがあったとしても、巨大戦艦並の拳が上から落ちてくるのだ、絶望しかなかった。

『一か八か!〔アクアショット〕〕

アルアの放った〔アクアショット〕はマナカに炸裂した、だが、大したダメージには成らなかったのだ。

アルアの狙いは下に出来た、巨大な水溜まりであった。

『まだまだ!食らえぇぇぇ!』

アルアの掛け声と共に巨大な水溜まりがマナカを包み込み、回転を始めた。

マナカを包み激しく回転する球体の中でマナカは必死に耐えようとしたが、まるで激流の中に、投げ込まれたかの如く凄まじい回転が意識を奪おうとして行く。

そして、ゴーレムの拳はアルアの頭上で停止したのだ。

『あはは、危ない、ゴーレムクリエイターを嘗めた私が悪いんだけどね、悪いわね勝ちは貰うわよ?』

次の瞬間!頭上で停止していた拳が下に降り下ろされたのだ!

『ぎゃああああ!』

アルアの悲鳴と共にアルアは拳の下敷きになったのだ。
マナカの最後の意志がゴーレムを動かした結果であった。


だが、海水で作られたその拳は、崩壊し始めていたため、アルアは九死に一生を得たのだった。

それを見たナビカは、拍手をした。

『両者引き分けとする!』

対戦は2戦1勝1引き分けとなった。
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