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6章クーデルトルン奪還・その先にある景色

キマイラの鬼姫

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クーデルトルンとバルドリア連合軍は、着々と、その戦力を膨らませていた。

バルドリアは、クーデルトルンに対して海上支援の為の軍艦を317隻向かわせたのだ。
バルドリアの海上戦力の実に2/3がこの戦いに参戦する事となったのだ。

クーデルトルンは、未だに海軍の復活は叶っておらず、バルドリアに海上の全てを託す他無かったのだ。

それに対して、セルドレアの部下達は危機感を募らせていた。

事実クーデルトルンの海は、バルドリアの国旗で埋め尽くされていた。

「閣下?宜しいのですか!あれ程の戦力を自国の領海に招き入れるなど、危険です」

「話は?其だけか?なら、下がれ!」

セルドレアは、笑っていた。

セルドレアと言う男は、只戦が好きだった。
敵兵を切り刻み蹂躙する。

セルドレアにとって、それは快楽であり、生きる歓びであった。

だが、クーデルトルン国王は、戦争を嫌い、平和を語る人物であり、セルドレアは面白くなかったのだ。

そんな中でセルドレアが見つけた存在こそ、ガルダだったのだ。

セルドレアは興奮した、初めて城の食堂で兵士を、食い散らかさんばかりに襲うガルダを偶然見かけていた。

それは退屈していた、セルドレアは久々に興奮した。
これ程の殺気を漂わせる存在が要るなど思いもしていなかったからだ。

だが、今となれば、面白かった筈の玩具が自分に刃を向けてきている現状、玩具と言うよりは、まるで飼い犬に手を噛まれたような、何とも言えない気持ちであった。

「まさか、此処までの存在とはな、予想以上だ、あははは!」

セルドレアは、今の状況を楽しんでいたのだ。

セルドレアと違い、バルドリアの飛行戦艦艦長マゼル・パンキッシュは、本国からの予期せぬ、連絡に頭を悩ませていた。

「直ぐに、セルドレア殿に伝えねばならんな、参ったものだ」

「マゼル艦長?顔色が優れませんな?本国は何といってきたのですか?」

マゼルは、表情を暗くし、口を開いた。

「バルドリアの戦闘鬼が、一緒に向かってるらしい。全く持って頭が痛くなる連絡だ、あの鬼姫が一人来たなら、全てが崩壊するぞ、本国は、ザルバトラン事全てを終らせる気か?」

マゼルの言葉に辺りが静まり返った。

「ほ、本当に来るんですか?もしそうなら、本艦は離陸できませんよ!」

「わかっている!だから、俺も困ってるんだよ」

マゼル達を此処まで困らせる存在。

バルドリアの最終兵器、戦闘鬼、鬼姫、数多くの呼び名を持つ存在。

バルドリアのウルフィード・メルカロスであった。

ウルフィードは、軍人の者では無かった。

正式には、特別戦闘独立部隊【キマイラ】と言うバルドリアの軍とは、異なる組織に所属していた。

今回の連合において、先行部隊が討たれた事実を重く受け止めたバルドリア軍部の要請で、ウルフィードの参戦が決まったのだ。

特別戦闘独立部隊は全部で5名、その下に部下となる戦闘員と作戦サポートチーム、補給部隊など、ピラミッド型の組織図が出来上がっている。

ウルフィードが受けた命令は、簡単な物だった。

むしろ、ウルフィードだからそう感じるのだろう。

命令は、「戦闘が始まり次第、眼に見える全てを破壊しろ。」

ただ、其だけであった。

勿論この命令は軍部は知らない。

そして、ウルフィードと共に、もう一人サポート役として一人の男が同行していた。

二人を乗せた船が、バルドリア艦隊全317隻とは、異なる経路でクーデルトルンの領海に向かっていく。

「少し摘まみ食いしていかないか?」

「ダメですよ?ウルフィード、そんなことをしたら私まで怒られます!」

「ちぇ、早く思いっきり暴れたいな!体が鈍っちまうよ」

「もうすぐですから、それに、きっと楽しめますよ?なんせ?ガルダさんが居ますからね」

「ソイツは強いのか?」

「ええ、強いですよ。ウルフィードと同じくらい強いかも知れないですね?」

「マジか!早く戦いたいぞ!」

ウルフィードは、ワクワクしていた。

そんな二人は、今まさにクーデルトルンの領海に到着したのであった。

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