転生したので前世の記憶を消したい

みっきー・るー

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第一章

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 満月の夜。
 フレーゼは手持ち服の中で、最も動きやすい服を選び着替えを済ませた。ズボンは伸縮性があり動きやすく丈夫な物を選び、ブラウスの上からは上着を羽織った。腰まである長い髪は一つに縛る。
 あとは何が必要だろう。

(飲み水と……袋とか?)

 フレーゼは床に腰を下ろし、この城にやって来た時に持参していた鞄を棚から引っ張り出す。斜め掛けの質素な物だ。
 
 不意に衣裳部屋の扉がノックされた。
 リージが閉め忘れていた扉に背を預け、後ろ手でノックしている。彼の橙色の瞳は不信感でいっぱいだ。

「義姉さん、こんな夜中に何してるんだ? 家出準備か?」
「ひっ! 驚かさないで! 何で起きてるの!?」
「誰かさんがゴソゴソしてたから、目が覚めたんだよ!」
「そ、そう。それはごめんね」

 同室のリージにバレると面倒だから、疲れてぐっすり寝てくれるよう、昼は剣術の稽古をみっちり予定に組み込んでもらったのに。
 疲れすぎて逆に目が冴えてしまったのだろうか。

「で、何をしてる?」
「お城探検準備……かな」
「警備兵に見つかって切られるぞ」
「怖いこと言わないでよ!」

 リージは真っ直ぐにこちらを見つめている。
 見透かされそうで、フレーゼは視線をよけるように鞄で顔を隠す。

「何か企んでるだろ?」

 リージはつかつかと歩き、座り込むフレーゼに視線を合わせようと膝をつく。

「め、迷惑はかけないわ。気にしないで寝てて」
「そう言われて、気にしない奴はいないだろ」
「私のことに干渉しないで! はい、この話終わり!」

 フレーゼは勢いよく立ち上がり、鞄を肩にかけた。

「待て! 勝手に話を終わらせるな!」

 リージに腕を掴まれ、歩みだそうとしていた足がつんのめる。
 むっとして少し背が高くなったリージを睨み上げた。

「ねえ、リージ。私のこと嫌いでしょう? 関わらない方がいいわ。また私に嫌がらせされるわよ?」

「慣れてるから大丈夫。それよりも今が義姉さんへの嫌がらせになってるみたいで、俺は楽しいよ」

 リージに憎たらしい笑みを向けられて、フレーゼは歯軋りしてしまう。

「で、何処に行くんだ? まさかフレム先生のところか?」
「フレム先生?」

 何故ここで先生の名前が出るのか。不思議そうにしていると、リージは眉を寄せた。

「違うのか?」

 義弟は本気でそう思っていたようだ。フレーゼの想像と違う反応に狼狽え、目が泳いでいる。

「やだ、もしかして変な誤解したの?」
「なっ……!」

 フレーゼが笑うとリージは頬を赤く染めた。その反応すら、おかしくて笑いが止まらない。

「先生はこんな子供に手を出す変態じゃないわよ」
「貴族では婚約も決まる年齢だろ。変態はいるさ」
「まあ、変態はいるだろうけど。でもそれはない」
「じゃあ、何処に……」

 そこまで言ってリージは前のめりに倒れた。突然の動きに慌てて彼の身体を支える。
 すうすうと寝息が聞こえてきて、フレーゼは目を瞬く。

「ね、寝てるの? このタイミングで?」

「君たちは早く部屋を分けた方がいいよ」

 第三者の声に驚きリージの背の向こうを見やると、いつの間にかロアが立っていた。彼の手に僅かな光の粒が見える。

「ま、魔法ですか?」
「うん。リージがまだ魔法に不慣れでよかったよ」

 ロアはリージの体を支えベッドに横たえさせる。フレーゼは掛布団をリージにかけながらロアを見た。彼も質素な服に身を包んでいる。
 ロアは気配を探るように視線を彷徨わせ、ふっと息を吐いた。

「転移魔法は僕のレベルでは難しいんだ。失敗はしないけれど、現地に着いたら封印の解除と城に戻る位しか、魔力が残らないと思う」

 それは暗に何か危険があっても庇えないと言っているのだろう。

「大丈夫です。覚悟は出来ています」
「うん」

 ロアは困ったように笑んでいる。

「殿下、飲み水を用意致しました」

 フレーゼ付きの侍女がロアに小声で話しかけた。フレーゼは驚き目を丸くする。
 そういえば、そうだ。
 場所を移動する魔法は現地への行き来でしか使えないと言っていたのに、突然この部屋に姿を現すなんて誰かの手引きがないと無理だ。
 予定では部屋を出て、ロアの侍従に連れられてサロンで落ち合う計画だった。
 ロアは微笑んで渡された瓶を受け取る。

「ハンナ。ありがとう」

 名を呼ばれた侍女は何かを言いかけて、言葉を詰まらせた。

「心配かけてごめんね。わがままを聞いてくれてありがとう」

 ロアはハンナの手をとり礼を告げると、彼女の表情はくしゃりと崩れる。
 心配で堪らないといった様子だ。

「殿下、危険を感じたらすぐにお戻り下さい。お嬢様もお気をつけて」

 侍女はフレーゼを見つめる。
 まさか言葉をかけられるとは思ってもいなかったので、フレーゼはこくこくと頷き返した。

「じゃあ、行こうか。フレーゼ嬢」

 ロアはまるでエスコートするように手を差し出した。

「はい!」
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