【R18】初夜を迎えたら、夫のことを嫌いになりました

みっきー・るー

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 あれから三週間が過ぎ、私は中庭の東屋で頭を抱えていた。
 掃除の行き届いた東屋は、周りを枯れ木や枯れ草が囲んでいるにもかかわらず雑然とはしていない。
 一見、殺風景な景色にも見えるが、過ごしやすいように整えてくれているのが分かる。
 ここに来るまでの小道を覆う落ち葉も、端に集められていて歩きやすかった。
 読書を楽しもうと持参した本はほとんど読めておらず、侍女が淹れてくれた紅茶は冷えていた。

「アーファ様のこと、あんなに嫌だと思っていたのに……。私ったら、どうしたのかしら」

 自分で自分の思考が分からない。過去の言動と行動が一致していないのだ。
 結婚前に抱いていた感情と今の感情は異なっている。
 アーファ様を目で追っていた時期も、こんなふうにそわそわして落ち着かなかっただろうか。

(あの頃とは何かが違う気がするわ……)

 それに、あの夜以来、頭がおかしくなるくらい幾度も身体を重ねている。
 回数が増えるたびに行為に夢中になっていく。
 触れられるたびに身体が熱くなり期待して、もっと欲しいとねだってしまう。

(最初の頃は気持ちよくなんてなかったわ! 気持ち悪くさえ思っていたのに!)

 私の身体が作り替えられているのだろうか。
 もしそうだとしたら、あんな人の良さそうな顔をした夫は、なんて巧みな男なのだろう。
 実は経験豊富だったりするのかもしれない。

「ペレーネ、なにを百面相して遊んでいるんだ?」
「えっ!?」

 声に驚き振り返ると、侍女に先導されながら、おにいさまが不思議そうに手を振っていた。

「ど、どこから見て!?」

 中庭の入り口あたりから、挙動不審な動きを見られていたとしたら恥ずかしい。
 私は慌てて立ち上がり、おにいさまを東屋に迎え入れる。
 案内してきた侍女と入れ替わりに別の侍女が、温かい紅茶を二人分持ってきてくれた。
 冷えた紅茶を下げる様子を見つめながら、おにいさまは首を傾げた。

「何をしていたんだ?」
「お、おにいさまこそ、どうしてここに?」
「頼まれていた物を持ってきた。人を使わせようかと思ったが、おまえの反応が見たかったんだ」

 そう言って、おにいさまは悪戯っぽく笑う。

「もしかして!」

 以前、祭りの日に頼んだ件を思い出す。
 おにいさまは侍女が去るのを見届けてから、手にしていた紙袋を机に置いた。

「ほら。思った通りの品か確認してみろ」

 私は頷き、袋の中から豪奢な化粧箱を取り出す。
 箱を開けると、白みがかった青いサファイアが輝く、シンプルなペンダントが収められていた。

「うわぁ……、す、素敵です!」
「デザインは任せると丸投げするものだから、俺の好みで決めたぞ」
「おにいさまはセンスがいいので信じておりました!」
「都合のいいことを言う奴だな……」

 おにいさまは呆れた顔をして、白い手袋を取り出して嵌めた。

「それは、ペンダントトップを外してブローチとしても使えるんだ」

 彼はそう言いながら、青い宝石の裏の金具を外す。
 そして、同じ箱に入っていたブローチの台座に宝石をセットし、台座の裏の金具を動かして固定した。

「素晴らしい細工ですね……! 初めて見ましたわ!」
「だろう? 俺も気になって、自分の分も注文したくらいだ。どちらでも好きな形で使えばいい」

 おにいさまは再び宝石をブローチの台座から外し、ペンダントの台座に戻した。

「もう一つの箱はペレーネ用だ。ドレスにも合うように、少しだけ飾りの宝石を増やしておいた」
「まあ! そ、そこまでしてくださったのですね……」

 もう一方の化粧箱を開けると、同じようなデザインだが少しだけ細工が凝らされていた。
 無色の小さな宝石が、大きめのサファイアを引き立てるように散りばめられている。

「私費から内々に支払いますので、請求書はこっそり頂けますか?」
「それらは俺からの贈り物だ」
「え!? それはいけません! 私がお願いした物ですし……」
「気の強い従妹が珍しく可愛いお願いをしてきたんだ。気にするな」

 おにいさまは青い瞳を細めて笑う。
 こんな奇麗な顔をした青年に微笑まれたら、すべての女は虜になってしまうのでは?
 かくいう私も、不覚にもどきりとしてしまった。

「結婚指輪以外のお揃いの品が欲しいだなんて、おまえもそんな感覚になるんだな」

 おにいさまは意外そうに言った。

「理由をお話ししたではありませんか」
「その結婚指輪の石は、『別の女性に渡されるはずの物だった』?」

 私はぎゅっと下唇を噛んで頷く。おにいさまは短く嘆息し、紅茶のカップに口をつけた。

「考えすぎだと思うが、女性にとっては大事なことなんだろうな」
「女は精神的なことを重視します」
「男が何も考えていないような言い方をするな」
「そんなつもりはありませんが……」

 私との婚姻が決まる前に発掘された鉱石。
 当初からこの鉱石を結婚指輪に使うつもりだったのだろう。だから、そのとき頭の中にいた相手は、前の婚約者だったはずだ。
 そして私との婚姻が決まり、鉱石は予定を変えることなく、私の指に合う結婚指輪が作られた。

「なんとなく、気分が悪いのです」

 私は左薬指の指輪に触れて弄ぶ。

「で、新たに彼がくれた鉱石で、別の品を作りたかった……か。ペレーネは繊細なところがあるんだな」

 おにいさまは面白そうに笑って、私の頭を撫でる。

「からかうのはやめてください。おにいさまだって、女性の微妙な気持ちに気づけるようになったほうがいいですよ」
「俺は存外そういうのは得意だ」

 あっさりと答えられて、妙に納得してしまったのが悔しい。
 ふくれっ面をしていると、おにいさまはますます楽しそうに笑う。

「男の機微に鈍感なのは、ペレーネ、おまえだよ」
「えっ!?」

 どういう意味かと問い詰めようとして、おにいさまの背の向こう側からアーファ様が歩いてくるのが見えた。
 彼は私と目が合うと、なぜか眉をひそめる。

「ア、アーファ様!」

 私は慌てて机の上に広げていた宝石類を片付け、椅子に積み上がる本の陰に隠した。
 おにいさまは立ち上がり、アーファ様と形式通りの挨拶を交わす。

「ルイ殿、突然の訪問ですね。どうされましたか?」

 アーファ様はちらりと私を一瞥して、おにいさまへ視線を戻した。
 別に悪いことをしているわけではないのに、隠し事をしているせいで、なんとなく後ろめたく感じる。
 私とお揃いの品を作ったことが知られたら、嫌な気持ちにさせてしまうかもしれない。

「ペレーネに用があったんだ。ああ、アーファ殿に頼まれていた下書きも持参した。確認をしてくれ」

 おにいさまは上着の内ポケットから一通の封書を取り出す。アーファ様はそれを受け取って小さく頭を下げた。

(この二人、いつの間に名前を呼ぶ仲になったのかしら……?)

 男性は知らないうちに親しくなっているから謎だ。

「じゃあ、俺はそろそろ帰るとするよ。ペレーネ、ここは冷えるから部屋へ戻りなさい」
「だ、だから、子供ではないのですから……!」

 すぐに私を子供扱いするおにいさまに眉をつり上げると、彼は笑って東屋から出て行った。

「ルイ殿は何のご用だったのですか?」
「あー……、ええと、アーファ様はこちらに何のご用だったのですか?」

 質問を質問で返したことが不愉快だったようだ。アーファ様はまなじりをぴくりと震わせる。

「ルイ殿がこちらにいらしていると聞いたので……」
「ああ、なるほど」

 何の用だろうと思い現れたというところだろう。私は椅子の上に置いた荷物を手に取る。

「それは何ですか?」
「アーファ様には関係ございません」

 息を吸うように、すぐ突き返す言葉が出た。
 口にしてから『しまった』と思っても、もう遅い。

「…………そうですか」

 アーファ様の声が固い。目も合わせたくないようで、彼は私から顔を背けてしまった。

「あ、あのですね」
「僕は執務に戻ります。邪魔をして申し訳ありません」

 珍しく嫌味な言い方をしてアーファ様は踵を返す。
 一瞬、追いかけようかと迷ったが、彼の長い脚に追いつけるような脚力はない。

(私から突き放したくせに、手を伸ばしたくなるなんて……)

 初夜以来、頑なに毛嫌いしてきたくせに、アーファ様の言うとおり情でも湧いたのだろうか。
 そうだとしたら、彼がずっと誠実に接してくれるからだ。

(無理な努力ばかりさせて、私は最低ね……)

 こんな女と未来を共にしないといけないアーファ様に同情して、さらに落ち込んだ。
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