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8 これは嫉妬② ※
しおりを挟む寝室は大きな窓が設えられ、陽光が差し込み明るい。
天蓋付きの豪奢なベッドは何人も横になれるほど広く大きい。
綺麗に片付けられた部屋からは、ダリアが好む香水の匂いがほのかに漂っていた。
ダリアは誘う様にバレリアンをベッドに腰かけさせる。
弾力のあるベッドからもダリアの芳香が漂ってきて、バレリアンは意識しないように頭を振った。
「じゃあ、これを付けてくれるかしら」
にっこり笑んだ令嬢は、輪になった黒ベルトのチョーカーを手にしていた。
嫌な予感しかしない。
バレリアンは顔を引き攣らせる。
「首輪…………ではなくて、チョーカーを作ったの」
「今、首輪って言いましたよね!? い、嫌ですよ! 絶対につけない!」
バレリアンはベッドに腰をおろしたまま、ずるずると後方へ逃げる。ダリアはそれを追うようにベッドに膝をついて、彼と向かい合う姿勢になった。
「魔法具って、もうあまり手に入らないじゃない?」
「? そうですね……」
「だから自分で作れないか試してみたの」
ダリアはさらりと告げたが、バレリアンは目を剥いた。
失われつつある魔法という能力と同じく、古代の遺物と呼ばれるそれぞれの道具は、貴族であってもおいそれと購入できない程に高価な物だ。
魔法を道具に封じて使用できるそれは、現存する数も少なく、研究する国直轄機関が存在するくらいに貴重品だ。
それをダリアは作ってみたと言った。
「何個か試作して、これが成功品。まだ人間では試したことないけれど……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 閨の練習台かと思ったら、次は実験台ですか!」
ダリアはバレリアンの悲鳴を無視して彼の首に手を伸ばす。
バレリアンは、さっと避けたがダリアは楽しそうだ。
「この間みたいな顔、たくさん見せてちょうだい」
ダリアの甘く囁いた言葉が彼の耳朶を刺激する。
バレリアンはごくりと喉を鳴らしてしまう。そして両腕が意思に反して持ち上がった。
「なっ……!?」
バレリアンは狼狽えるが、身体の自由はきかず両手は頭の上で固定されてしまう。焦る彼の肩をダリアは軽く押す。
面白いほどあっけなく、バレリアンはベッドに押し倒されてしまう。
それがダリアの能力による拘束だと気づくのに、時間はかからなかった。
バレリアンの睨みつける視線をものともせずに、ダリアはチョーカーを彼の首につける。
ちりちりとした痛みがチョーカーに触れている部分から伝わるが、すぐにその感覚は消えてしまった。
「わたくしが使える能力は、相手に苦痛を与えるものなの。その種類は相手が苦痛さえ感じられれば、内容は多岐に渡るわ。今拘束されているのも、見えない負荷を感じて少し呼吸が苦しいでしょ? でも教本には痛みを快感として感じる者もいるって書いてあったじゃない?」
「お、俺は痛いのは嫌です!」
「わたくしが与える痛みは、やりすぎると死んでしまうかもしれないわ。だから、このチョーカーが痛みを癒し、快感に変えてくれる働きをする。魔法で怪我や病気などの痛みを癒やす時、心が落ち着くような心地よさを同時に与えるらしいの。つまり快感ね」
「は……?」
「わたくし癒しの力は持っていないから、王太子殿下にお願いして、チョーカーに力を込めてもらったわ」
ダリアは満面の笑みを浮かべる反面、バレリアンの顔は真っ青になっていく。
「そ、そんなもの俺に使ってどうするんですか!? 王太子殿下はきっと勘違いなさってますよ!」
バレリアンの慌てる姿を見つめ、ダリアは表情を消した。
何故だろう。
婚約者の存在をバレリアンが認知し、その関係を彼は心配している。そんな態度が腹立たしい。
ダリアは押し倒されているバレリアンに跨った。そのまま下腹部に腰を下ろす。
「重くない?」
「なっ……!」
頬を真っ赤に染めるバレリアンの反応は見ていて楽しい。
抵抗も出来ず女に跨られているのだ。
ダリアは彼を刺激する為、股を擦りつけるように動かした。
「そ、それは駄目です!」
「ねえ……バレリアン? 貴方、いつも恥ずかしそうにしているけれど、よく外で情事なんて出来たわね」
「あ、あれは初めてだったから、つい興奮して……うぅ」
バレリアンは苦悶の表情を浮かべた。
ダリアがシャツの下から手を入れて、さわさわと肌を撫でたからだ。そのまま彼の胸の尖りをつまむ。
「んんっ……!」
「へえ、初めてだったの」
ダリアは自分でも驚くくらいの冷たい声が出た。彼は緑の瞳に恐怖の色を浮かべる。
「リナリーが羨ましいわ」
いつもはあの女と口に出していたのに、ダリアはあえて名を告げた。
その意図が伝わったのかバレリアンは体を強張らせる。
ダリアは指でつまんでいた胸の先端を強くつねった。
「いったぁ! ……ぁっ!」
バレリアンは痛みに目を見開くが、痛みを癒す力が発動し、全身を痺れるような快感が貫く。
下半身に熱が集まり、ダリアの股下にあったそれは、ずくんと固さを持ち始めた。
「あら、効果は抜群のようね」
バレリアンは短く息を吐きながら自らを組み敷く令嬢を見た。栗色の長い髪がぱさりと落ちて、バレリアンの顔に影を落とす。
ダリアの顔が彼の鼻先まで寄った。
「お嬢様……なに、を……」
ダリアの唇が頬に落ちた。ちゅっと、わざとらしい音がバレリアンの耳に響く。
唇は熱い呼気を漏らしながら移動し首筋を吸った。小さな鬱血痕をつけてから、次は耳たぶをはむ。
「うっ……」
バレリアンは硬く瞼を閉じた。眉間に皺が寄っている。
小さな刺激だけれど、彼の興奮を煽ることに成功したようだ。股間の下にある彼の欲望は固くなり、その熱さが伝わってくる。
ダリアはバレリアンの耳を執拗に舐めて攻めた。
「あっ、も、やめ……」
バレリアンが声を殺せば殺すほど、ダリアの胸奥はうずく。
他者を虐げる趣味などなかったけれど、彼が相手ならば話は別だ。こんな劣情を持っていたなんて自分自身に驚く。
ダリアは耳たぶに歯を立て噛んだ。
あまりの痛みにバレリアンは悲鳴を上げそうになるが、直後、傷は癒やされ同時に強い快楽が襲う。
その刺激にバレリアンの腰が跳ねた。
「ひあっ! ぐ……うぅっ!」
触れ合っている股間の下から、じんわりとした熱が広がっていく。
「あら……?」
バレリアンの顔を見やると、潤んだ瞳でダリアを睨みつけている。唇を固く噛み、震えが止まらないようだ。
ダリアは緩く腰を動かす。布越しにぬるりとした感触が伝わり、動く度に、くちゅくちゅと音がなる。
「ああ、達してしまったのね」
バレリアンは青ざめていく。濃茶色の髪は汗で額に張りつき、息も荒い。
「も、もう、やめてくださいっ! こんなの無理です!」
ダリアはバレリアンを無視して、苦しそうに膨らんだ下衣をくつろげた。
果てたばかりなのに固く反り返ったままの昂りがバネのように飛び出し、むわっと精の匂いが広がる。
先程出した白濁が絡みつき、びくんびくんと痙攣している。
「きちんと首輪……チョーカーの効果が出ているようね」
ダリアはバレリアンの昂りを、力を込めて握ってみた。
強い痛みと快感がバレリアンを襲う。
「あぁっ……!」
バレリアンは甘い嬌声を上げてしまった。
新緑の瞳は露を浮かべたように潤み、大きな雫が溢れ始める。
「はぁ、はぁ……も、もう……おかしくなる……やめ……」
「あらあら。泣いてしまったのね」
ボロボロと涙をこぼす姿を見て、ダリアは胸が高鳴った。
(そんな姿を見せるから、わたくしの加虐性を刺激してしまうのよ……)
ダリアは苦笑しながら、バレリアンの口に己の手の平を乗せた。
「声が大きいわ」
バレリアンは口を塞がれ、熱い吐息がダリアの手の平にあたる。
彼はくぐもった声で抗議を繰り返すが、音にならない。
ダリアはそれを無視して跨っていた身体を離し、反り勃つ昂りを一瞥した。
「じゃあ次は、直接ここに試してみるわね。大丈夫。針で突くくらいの痛みが続くだけよ」
ダリアの栗色の瞳が熱を帯びたように欲を宿らせた直後、バレリアンの下半身がびくりと震えた。
陰茎に突き刺す痛みが襲い、同時にそれを癒やそうと快感が広がる。
「むぅ、む、は……んん! んんん!」
バレリアンはずっと腰を浮かせて痙攣していた。
固く反り勃つそれに、絶え間なく続く刺激。一人でする時や、女性の中に入れた時とも違う。
痛みの中に快楽が混ざり、頭の中が白くなる。
二度目の絶頂は早かった。
遮るものもなく自由に飛ぶ精液は、ダリアのベッドを汚していった。
「こんなに出るものなのね……」
さすがのダリアも驚きで目を丸くするが、痛みの能力が行使されたままのせいで陰茎への刺激は止まらず、バレリアンの昂りは高く反ったままだ。
ダリアはちらりと彼の顔を見た。
興奮なのか息苦しさなのか汗だくで赤い。塞がれた口から漏れる吐息は弱々しく、そして瞳は虚ろだ。
さすがにやり過ぎたかもしれない。
ダリアは局部にかけた能力を解こうと、白濁にまみれたそれに触れた。
「あ……ぁぅ!」
触れた瞬間、またしても彼は達し、量は少なくなっていたが透明の精液を垂らした。
と同時にダリアは能力を解き、彼を解放した。
突然消え失せた感覚に一気に力が抜けたのか、バレリアンの脈打っていた肉棒は精とは違う液体を流し始める。
「あ、あら……大変」
ダリアは全く予期していなかった所為で反応に困った。まさか失禁するとは思わなかったのだ。
閨の教本に、こういう事態は書いてあったかしらと悠長なことを考えていると、小さな泣き声が耳に届く。
「も、もう嫌だ……こんなこと……も…う」
バレリアンは羞恥に顔を赤く染め、腕で目元を隠してしまう。
既に体にかけている拘束の能力も解いてある。しかし逃げる気も起きないようだ。
バレリアンのすすり泣きだけが室内に響く。
そのうち彼は静かになった。
「バレリアン?」
ダリアは訝しく思い、バレリアンの側に寄り、顔を隠す腕を持ち上げた。
彼は瞼を閉じ小さな呼吸を繰り返している。
「バレリアン?」
もう一度名を呼ぶが反応がない。
どうやら気絶してしまったようだ。
好きな人に意地悪なんて可愛いものではない。
ダリアはバレリアンの首につけていたチョーカーを外した。
箱に仕舞いベッドの上を再確認すると、散々吐き出させた彼の精液で悲惨な状態である。尿は誤算だったが、ダリアの自業自得だ。
キーラに片付けさせるわけにはいかない。ある程度は自分でやらなくては。
てきぱきと拭きながら、ダリアはベッドに横たわるバレリアンを見やる。
泣きながら意識を手放したせいで、眉間に皺を寄せたままだ。
指の背で深い皺を撫でると、彼は小さく身じろいだ。
「バレリアン。わたくしを沢山憎んで、貴方の長い人生の中で、忘れられない女の一人にしてね」
ダリアはバレリアンの涙の跡に唇を寄せた。
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