55 / 142
第55話 誘拐、快諾について
しおりを挟む
大きなトンネル形状の迷宮に、気持ちいい風が吹いていた。
天井の岩地が迷宮内を昼間のように明るく照らし、臭気のような類はしない。
岩場の壁際には、体の半分程度を欠損してしまった精霊がぐったりとした姿となり横たわっていた。
この状態では、しばらくはミスリル鉱石を生み出す事は出来ないだろう。
精霊には『私の加護』を刻んでおきましょう。
異変があればすぐに知らせが私に届くはずだ。
しばらく体を休めていてください。
最強種と言われる黒龍の処刑を完了した。
月の加護が届かない迷宮内で黒滝と戦闘する流れとなり、死を覚悟したものの、態度が悪いただのクソ雑魚のであった。
どの種族にも駄目な者がいるものだ。
◇
幻影通りへ戻ると、住人であるドワーフ達が黒龍討伐の宴会を昼間から開始していた。
既に12時間を経過しており、日付がちょうど変わったところである。
空からは星明かりが落ち、気持ちいい風が吹いている。
宴会の主役である私は、酒場の端っこにあるデーブル席に1人で座っていた。
石畳の道路では、深夜にもかかわらず酔っ払い達が騒いでいる姿が見える。
酒場の中では、この店の大将もみんなと一緒になって酒をがぶがぶ飲んでおり、眼鏡女子の月姫が1人で調理を行い、お客さんに料理を出していた。
迷宮最奥まで最短距離となる地獄ルートを何事もなく選択し、躊躇なく進んでいたのだが、何気に凄い少女なのかもしれない。
その酒場の一角では、四十九が同年代の少年・少女達に囲まれており、私の武勇伝を話している姿がある。
その四十九の話を聞いていた少年・少女達は、目をキラキラさせていたのであるが、徐々に濁ったものに変化していた。
どうせ四十九のことだ。またろくでもないことを話しているのだろう。
空が明るくなり始める時間が近づいている頃、酒場にいた少年少女達は家に帰り、親父達は泥酔し、床や路上で寝ていた。
騒がしかった声も既に静かになっている。
四十九へアイコンタクトを送りながら席を立ちあがり、酒場の外へ出ると、泥酔した男達が野垂れ死にをしているかのように道路に転がっていた。
この幻影通りに留まる理由もなくなってしまったことですし、そろそろここから退出することにしましょう。
路面に転がっている親父達を踏まないように、街の外に待たしている機械人形の元へ足を進めていくと、四十九の後ろに眼鏡女子が続いてきていた。
四十九にはまだ空が暗いうちに『幻影通り』から出発する話しを事前にしていたが、月姫が付いてきているのは、見送りでもしてくれるのだろうか。
風が吹き枝葉が揺れる音が聞こえてくる中、歩みを進めていくと、砂漠の都市から幻影通りまで移動手段として使用していた馬車の姿があった。
馬車を引いてくれる機械人形へ簡単に挨拶をすると、当然のような感じで四十九と月姫が客室へ乗り込もうとする姿が見える。
何故、眼鏡女子も馬車へ乗ろうとしているのかしら。
そこでようやく四十九が、客室へ乗り込みながら月姫と一緒にいる理由を話し始めた。
「三華月様。報告、ある。月姫、家出。」
「家出だと!」
「最後まで、話し聞く。月姫、家出、違う。」
完全に私をからかっておるな。
四十九は、私の疑問を察したような感じでポンと両手を叩いた。
また、ろくでもないことを言うつもりだろうと用意に予想できる。
案の定、わけのわからない事を口にしてきた。
「アタシ。月姫、誘拐した。」
「誘拐は犯罪ですよ。早く本当の理由を教えてください。」
「三華月様。乗りツッコミ、大事。」
もう、いいって。
早く眼鏡女子がここにいる理由を言ってくれよ。
そこでようやく、四十九の背後にいた月姫が黙っていることに辛抱が出来なくなった様子で、一緒にいる理由を説明し始めてきた。
「三華月様。私からお話しさせてもらいます。四十九から一緒に旅をしようと誘われたんです。」
「泥酔状態で、安眠中の、酒場のマスター。月姫の旅、快く快諾。」
「もう、四十九。三華月様をからかったら駄目じゃない。ちゃんと手紙を残してきました。私は元々、この幻影通りの住民ではなかったのです。旅に出ても問題ありません。」
そもそも安眠中である者に、快諾できるような判断能力はないだろ。
とにかく、合意の上の行動ということで安心しました。
それにしても、月姫と四十九がじゃれ合っているように見えるのだが、いつの間に仲良くなったのだろうか。
それから、勇者候補の少年・少女達が私の旅に同行したいと殺到していたと記憶しているが、彼等はどうしたのでしょうか。
四十九が、呪いの言葉でも吐いたのかしら。
気がつくと月姫が何か言いたげな様子で小さく手を上げていた。
「三華月様。四十九から誘われて付いて来たのですが、私などが旅に同行したら、足でまといになってしまいませんか。」
「足でまといにはなるでしょう。ですが同行してもらっても構いませんよ。」
「月姫。アタシと一緒に、魔界、行く。」
四十九を故郷へ帰すべく要塞都市から魔界へ入る予定ではあるが、月姫は一緒に魔界まで行くつもりなのか。
自己再生スキルを獲得している私は問題ないが、地上世界の者は魔神の加護が無ければ魔界では生きていけない。
つまり眼鏡女子が魔界にいくためには、魔神の加護を受ける必要がある。
夜空を見上げて輝く星達の位置を確認しながら、世界の記憶『アーカイブ』を開いた。
近くに魔神の教会の廃墟がある。
せっかくなので、ここに立ち寄ってみようかしら。
天井の岩地が迷宮内を昼間のように明るく照らし、臭気のような類はしない。
岩場の壁際には、体の半分程度を欠損してしまった精霊がぐったりとした姿となり横たわっていた。
この状態では、しばらくはミスリル鉱石を生み出す事は出来ないだろう。
精霊には『私の加護』を刻んでおきましょう。
異変があればすぐに知らせが私に届くはずだ。
しばらく体を休めていてください。
最強種と言われる黒龍の処刑を完了した。
月の加護が届かない迷宮内で黒滝と戦闘する流れとなり、死を覚悟したものの、態度が悪いただのクソ雑魚のであった。
どの種族にも駄目な者がいるものだ。
◇
幻影通りへ戻ると、住人であるドワーフ達が黒龍討伐の宴会を昼間から開始していた。
既に12時間を経過しており、日付がちょうど変わったところである。
空からは星明かりが落ち、気持ちいい風が吹いている。
宴会の主役である私は、酒場の端っこにあるデーブル席に1人で座っていた。
石畳の道路では、深夜にもかかわらず酔っ払い達が騒いでいる姿が見える。
酒場の中では、この店の大将もみんなと一緒になって酒をがぶがぶ飲んでおり、眼鏡女子の月姫が1人で調理を行い、お客さんに料理を出していた。
迷宮最奥まで最短距離となる地獄ルートを何事もなく選択し、躊躇なく進んでいたのだが、何気に凄い少女なのかもしれない。
その酒場の一角では、四十九が同年代の少年・少女達に囲まれており、私の武勇伝を話している姿がある。
その四十九の話を聞いていた少年・少女達は、目をキラキラさせていたのであるが、徐々に濁ったものに変化していた。
どうせ四十九のことだ。またろくでもないことを話しているのだろう。
空が明るくなり始める時間が近づいている頃、酒場にいた少年少女達は家に帰り、親父達は泥酔し、床や路上で寝ていた。
騒がしかった声も既に静かになっている。
四十九へアイコンタクトを送りながら席を立ちあがり、酒場の外へ出ると、泥酔した男達が野垂れ死にをしているかのように道路に転がっていた。
この幻影通りに留まる理由もなくなってしまったことですし、そろそろここから退出することにしましょう。
路面に転がっている親父達を踏まないように、街の外に待たしている機械人形の元へ足を進めていくと、四十九の後ろに眼鏡女子が続いてきていた。
四十九にはまだ空が暗いうちに『幻影通り』から出発する話しを事前にしていたが、月姫が付いてきているのは、見送りでもしてくれるのだろうか。
風が吹き枝葉が揺れる音が聞こえてくる中、歩みを進めていくと、砂漠の都市から幻影通りまで移動手段として使用していた馬車の姿があった。
馬車を引いてくれる機械人形へ簡単に挨拶をすると、当然のような感じで四十九と月姫が客室へ乗り込もうとする姿が見える。
何故、眼鏡女子も馬車へ乗ろうとしているのかしら。
そこでようやく四十九が、客室へ乗り込みながら月姫と一緒にいる理由を話し始めた。
「三華月様。報告、ある。月姫、家出。」
「家出だと!」
「最後まで、話し聞く。月姫、家出、違う。」
完全に私をからかっておるな。
四十九は、私の疑問を察したような感じでポンと両手を叩いた。
また、ろくでもないことを言うつもりだろうと用意に予想できる。
案の定、わけのわからない事を口にしてきた。
「アタシ。月姫、誘拐した。」
「誘拐は犯罪ですよ。早く本当の理由を教えてください。」
「三華月様。乗りツッコミ、大事。」
もう、いいって。
早く眼鏡女子がここにいる理由を言ってくれよ。
そこでようやく、四十九の背後にいた月姫が黙っていることに辛抱が出来なくなった様子で、一緒にいる理由を説明し始めてきた。
「三華月様。私からお話しさせてもらいます。四十九から一緒に旅をしようと誘われたんです。」
「泥酔状態で、安眠中の、酒場のマスター。月姫の旅、快く快諾。」
「もう、四十九。三華月様をからかったら駄目じゃない。ちゃんと手紙を残してきました。私は元々、この幻影通りの住民ではなかったのです。旅に出ても問題ありません。」
そもそも安眠中である者に、快諾できるような判断能力はないだろ。
とにかく、合意の上の行動ということで安心しました。
それにしても、月姫と四十九がじゃれ合っているように見えるのだが、いつの間に仲良くなったのだろうか。
それから、勇者候補の少年・少女達が私の旅に同行したいと殺到していたと記憶しているが、彼等はどうしたのでしょうか。
四十九が、呪いの言葉でも吐いたのかしら。
気がつくと月姫が何か言いたげな様子で小さく手を上げていた。
「三華月様。四十九から誘われて付いて来たのですが、私などが旅に同行したら、足でまといになってしまいませんか。」
「足でまといにはなるでしょう。ですが同行してもらっても構いませんよ。」
「月姫。アタシと一緒に、魔界、行く。」
四十九を故郷へ帰すべく要塞都市から魔界へ入る予定ではあるが、月姫は一緒に魔界まで行くつもりなのか。
自己再生スキルを獲得している私は問題ないが、地上世界の者は魔神の加護が無ければ魔界では生きていけない。
つまり眼鏡女子が魔界にいくためには、魔神の加護を受ける必要がある。
夜空を見上げて輝く星達の位置を確認しながら、世界の記憶『アーカイブ』を開いた。
近くに魔神の教会の廃墟がある。
せっかくなので、ここに立ち寄ってみようかしら。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる