ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第64話 女を奴隷にしたがる男の習性

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40mの高さがある天井を構成している岩石が光を放ち、迷宮内を昼間のように明るく照らしていた。
湖から澄んだ香りが流れ、風が吹く度に湖畔に広がる草原から揺れる音が聞こえてくる。
向こうには、ボロボロの着物を着た小柄な男、飛燕が立っていた。
その男は、空間を歪めて攻撃してきた敵へその攻撃を反転させる効果を持つスキル『ミラー』の使い手だ。
城塞都市で最大規模を誇る白翼のギルドマスターと幹部達は、挑発してきた飛燕を攻撃してしまい、『ミラー』の効果により自身を攻撃していることに気がつかないまま、死んでしまったのだろう。
飛燕の行動は、正当防衛と判定され、その男を処罰するような神託が降りてくる気配がない。
飛燕に向かって私に投げ飛ばされ、脳震盪を起こしていたはずの勇者が、いつの間にか私の背後に戻っており、頭をおさえて唸っていた。


「頭がズキズキする。直前の記憶が全く無いんだが、俺は一体何がどうしていたんだ?」


意識が無い状態にも関わらず、本能だけで私の背後に戻ってきたのか。
外海から本能だけで生まれた川へ戻ってくるシャケみたいな奴だ。
勇者のJOBには、無限の可能性があるというが、逃走力と生き残る本能についてだけは、この勇者にもその一端があるということなのかしら。
駄目な方向を向いているが、末恐ろしい者になるのかもしれない。
強斥候から飛燕の空間を歪めるパッシブスキル『ミラー』について説明を聞いた勇者の驚く声が聞こえてくる。


「攻撃が反転されるスキル『ミラー』だと!あんなダサい奴が、伝説級のスキルを持っているだなんて、マジで信じられねぇぜ!」


飛燕と対峙していて、抱いていた違和感の正体が分かった気がする。
わざと粗末な装備品をつけ、弱いふりをして、そして上から目線の言葉を並べながら相手を挑発し、攻撃をさせるように仕向けていたのだろう。
飛燕に攻撃をしてしまったら最後。
自身を攻撃していることに気がつかないままパニックに陥り、自己防衛のために更に攻撃をしてしまう。
そして訳が分からないうちに、死んでしまうのだろう。
飛燕が刀を抜いて一歩二歩と近づいてきた。


「聖女。俺が無敵であると理解したならば、自由は保証してやるから、俺と奴隷契約をしろ。」


おもいっきり凄んできている。
女を奴隷にさせ、マウントをとりたがるのは童貞小僧の習性なのでしょうか。
そもそも私には戦う意思はないので、煽ってくるその行動は無駄というものですよ。
すると、背後にいる勇者が何か迷っているような唸り声を上げながら飛燕の提案を飲むように促しきた。


「三華月。|飛燕もああ言っている事だし、ここは話しにのって御奉仕活動をするのも有りなんじゃないか。」
「僕も賛成っす。最強同士の三華月様と飛燕が手を組むって、WIN-WINじゃないですか。」


勇者へ便乗するように強斥候が同調してきた。
奴隷契約を結んでも、私はWINになるはずがないだろ。
勇者こいつ等、飛燕が伝説級のスキルを獲得していることを知った途端に態度を180度反転させ、媚び始めやがった。
この雑魚二人は、美人賢者の存在がなかったら、物語的には絶対にザマァ対象のキャラなのだろうな。
そもそもだが、私が奴隷契約を結んだら、2人は助けてもらえるとでも思っているのかしら。


勇者あなた達に質問させてもらいます。」
「なんだ。今更。」
「何を言われたとしても、僕は飛燕様の提案に賛成なのは変わりないっすよ。」
「もし私が飛燕と奴隷契約をしたならば、まず飛燕は私に何を命令すると思いますか。」
「それはやっぱりあれだろ。ハーレム嬢なら、まずは御奉仕するしかないだろ。」
「気が強く高貴で可愛い女の子にご奉仕してもらうって、男の夢と言うか、野望なんすよ。」


私の質問にウンコ2人はニヤニヤとし始めながら答えてきた。
お馬鹿なことを想像しているようだ。
少し殺意が芽生えましたよ。
この会話は、美人賢者へ報告させてもらうことにしよう。


「後ほど、あなた達には罵倒という地獄を味合わせてあげますね。」
「俺を罵倒してくれるの。むしろ歓迎だぜ。出会った頃と比べて俺は精神的にも肉体的にも一皮むけたからな。」
「僕はツルッツルっすよ。『このツルツルめっ!』と罵倒してほしいっす。」


勇者と強斥候が下品な顔でゲラゲラと笑っている。
馬鹿同士が触発されると、10倍くらいの馬鹿になってしまうようだな。
2人を罵倒するのは私ではなく美人賢者だ。
今の言葉も合わせて報告させてもらうことにしよう。


「話しは戻りますが、飛燕が私と奴隷契約をしたとして、最初に命令してくる事は勇者あなた達の始末になると思います。」
「俺達の始末だと。」
「三華月様を差し出したのに、なんで僕達が始末されないといけないんすか。」
「おい聖女。お前が助かるには俺の奴隷になるしかないんだぜ。俺に殺されたくないだろ!」


勇者達とのやりとりを聞いていた飛燕が、目一杯に凄みながら、慌てた様子で話しに割り込んできた。
何故慌てているかと言えば、空間を歪めるスキル『ミラー』が無敵でないことを悟られる前にことを終わらせたいからなのだろう。
だが、既にそのメッキは剥がれてしまっている。


「ガクガクと震えている飛燕あなたに凄まれても、全然怖くありません。」
「え、飛燕が震えているってどういう事なんだ。」
「無敵の飛燕がガクガクしているわけないっすよ。」


勇者と強斥候は気が付いていないようだが、飛燕は相当な小心者だ。
小柄であまり鍛えられていない体付きを見ても、スキル『ミラー』を攻略されてしまうと、C級、もしくはその辺りにいるD級冒険者とかわりない。
飛燕はこの難局を乗り切るために自分が無敵であると虚勢を張っているが、無敵でない事をよく自覚している。
もし飛燕のスキルが無敵であるなら、城塞都市のダンジョン内に逃げ込む理由がないし、堂々と敵対する者を殺しまくるだろう。


飛燕あなたがダンジョン内に逃げ込んだ理由は、スキル『ミラー』の効果が無敵でないことを、他の者へ知られたくなかったからですよね。」
「ポンコツの2人。その聖女を今すぐ殺せ。そうしたら助けてやってもいいぞ!」


飛燕が私の声をかき消すように絶叫してきた。
ポンコツと呼んだ2人とは、もちろん勇者と強斥候のことだ。
だが、さすがにそのポンコツでも、もう飛燕の薄っぺらな脅しは効かない。
案の定、実際に後ろに下がっていた2人が拳をボキボキ鳴らしながら、自信満々な様子で前に出始めている。
なんせこいつ等は、有利な状況になったとたんに急に強くなる駄目な奴等だからな。


「おいおい、誰に命令をしているんだよ。もうお前を付けする時間は終わってんだよ。」
「僕の付けも有効期限切れっす。」
「俺等の大事な仲間である三華月に奴隷契約をしろとぬかしたクソガキ。ボコボコにしてやんよ。」
「何が無敵だ。調子に乗りやがって。お礼参りをしてやるっす。三華月様、攻略法を教えてほしいっす。」
「例えばですが、飛燕をグルグル巻きにして毒を飲ましてみてはいかがでしょう。」
「マジかよ。毒を飲ませても空間を歪めるスキルは発動しないのかよ!」
「超余裕っすね。飛燕が超雑魚に見えてきたっす。」


毒を飲ましても飛燕のスキルが発動するのかしないのかは知りません。
もし『ミラー』効果が発揮されたら、あなた達は死ぬかもしれませんね。
私の大切な仲間であるあなた達が死んでしまったら、その死骸は犬の餌にでもしてあげますよ。
飛燕を見ると、あからさまに顔色が青く変わり、体の震えが大きくなっている。
その飛燕の様子を見た勇者と強斥候は「よしよし、そうか、そうか」と声を張り上げながら飛燕との距離を詰め始めていた。
その時、ダンジョン内の壁に通路が開いた。


―――――――――――ダンジョンウォークだ。


このダンジョンウォークにおいて使用できるのはダンジョンマスターの十戒だけである。
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