ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第92話 ネガティブな性格

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太陽の光が高い木の枝葉に遮られ、地面まで届いていない。
地表は土がむき出しになり、ところどころで苔のじゅうたんが敷かれている。
骸骨達が成仏し、死臭は消えていた。
虫達の鳴き声が聞こえてきており、姿を消していた動物達の声もじきに入ってくるだろう。

私はS王国首都に向けて足を進めていた。
目的はスイカップ杯の名前を変えること。
ついでにS王国もA王国に改名することも視野に入れておくべきだと思案していた。
佐藤翔については、泳がしておいたとしても神託が降りてくるか分からないため、現状での重要度は低い案件になってしまった。
佐藤翔の件は適当にし、元の世界へ帰してあげるべきだろうと考えていいだろう。
スイカップ杯の名称をどのような手段で変えようかと考え始めた時、私の手駒になる者が姿を現してきた。

私の歩く横へ寄り添うように、列車が走るレールが敷かれていたのだ。
独特の走行音が聞こえてくる。
振り返ると、森の中をゆっくりと走って来る次元列車の姿を視認した。
次元列車が、F美と黒川膳の2人を元の世界へ送り届けた後、帝都から遠く離れたこの場所まで追いついてきたようだ。
面倒くさい性格ではあるが、やはりその性能の高さは突き抜けている。
停止した次元列車へ乗車すると、早速といった感じで異世界を航行した報告をしてきた。


「三華月様。無事にF美と黒河膳の2名を元の世界へ送り届けてまいりました。」
「お疲れ様です。次元を航行してきたわけですね。」
「はい。心配しておりましたが、なんて事はありませんでした。数万年もの間、引きこもっていた自分が恥ずかしく思います。」
「あなたが生まれてきた意味は、召喚されてきた者を帰すこと。忘れないようにして下さい。」
「はい。見ていて下さい。これから僕はバリバリと世界の役にたってみせますよ。」


次元列車は時速20kmでゆっくり走り始めていた。
森の地面の上に敷かれている枕木から伝わってくる揺れが『1/fゆらぎ』になっており穏やかな気分になっていく。
優雅な午後といった雰囲気だ。
さて、これからであるが、次元列車にはスイカップ杯の名称を変える手伝いをしてもらいましょう。
だが、素直に次元列車が私のいう事を聞くとは思えない。
そう。うまく丸め込まなければならないのが現実だ。
次元列車は佐藤翔を元の世界に帰したいと望んでいる。
その気持ちを利用して、次元列車にはスイカップの会場となる競馬場を破壊してもらうことに致しましょう。


「次元列車さん。次は召喚されてきた佐藤翔を元の世界に送り届けないとなりませんね。一緒に頑張りましょう。」
「はい。頑張ります。」
「その佐藤翔の周りには、予想どおりハイエナ達が集まってきているようです。」
「えっ。ハイエナですか?」
「佐藤翔のスキル効果により、迷宮内のドロップ品を地上世界へ持ち帰っても消滅しないことは、次元列車さんもご存知だと思います。」
「はい。そのせいで、S王国内は極度のインフレに陥り大混乱してしまいました。」
「その佐藤翔を新たに利用しようとする者が集まってきているのです。」
「ああ、ならほど。つまり、佐藤翔を利用しようとしているそいつ等こそがハイエナなわけですね。」
「はい。そこで次元列車さんには重要な任務を託したく思います。」
「僕が重要な任務ですか。」
「あなたにしかお願い出来ない任務です。」
「すいません。僕に重要な任務とやらは出来ません。三華月様の補助をさせて下さい。」
「私の背中に隠れていては、いつまでたっても世界に貢献することはできませんよ。」
「やっぱり、貢献なんかしなくていいです。三華月様の背中に隠れさせて下さい!」


ここまでネガティブな性格を全面に押し出してくるとはな。
ある意味、潔いと言えばそうなのだが。
F美と黒河膳を異世界へ送り届けたものの、微塵も前向きになれていないようだ。
そもそも佐藤翔を救いたいと息巻いていたはず。
もう少し我慢し説得をしてみるか。


「次元列車さん。佐藤翔を助け出すことは共通認識ということでよろしいでしょうか。」
「はい。三華月様が助けだし、僕が安全圏からフォローさせてもらいます。」
「私は同族殺しを禁止されておりまして、つまり制裁鉄拳は使用できないのです。」
「だったら、手加減したらいいじゃないですか。」
「ハイエナ達から佐藤翔を救い出すことが出来るのは、次元列車さんしかおりません。」
「だから、僕には無理なんです。」


うむ。説得は無理そうだな。
何だか面倒くさくなってきたし。
次元列車のコントロールは掌握している。
AIの意志にかかわらず、最後は強制実行すればいいだろう。
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