ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

文字の大きさ
93 / 142

第93話 ブレていないな

しおりを挟む
澄んだ新緑の香が流れていた。
虫や鳥達の声が聞こえてくる。
20m程度ありそうな立ち並ぶ森の中を次元列車が時速20kmの速度で走っていた。
薄暗い地面にレールが蛇行するように伸びている。
窓から外を眺めていると、僅かの落ちている陽ざしのその場所に、綺麗な花が咲いている姿がクリアに見えていた。
スイカップ杯の名称変更が現在の第一優先事項であり、これから画策していかなければならない。
忙しくなることを考えると、佐藤翔にばかりかまうわけにはいかない状況になってしまった。
本当の意味で放置してしまうと、被害者でもある佐藤翔の身に何かあるかもしれないし、残念ではありますが、彼にはこの世界から退場願いましょう。


「次元列車さん。佐藤翔を元の世界に帰して差しあげる前に、彼が持っているチートスキルを破壊しようと思います。」
「つまり『SKILL_VIRUS』を撃ち込むつもりなのでしょうか。」
「はい。この森から佐藤翔を狙い撃たせてもらいます。」
「承知しました。列車内の天井を解放させて頂きます。」


次元列車の声に、車内の天井が開き始めていくと、枝葉の隙間に青空が広がっていた。
列車内にはS王国首都を上空から見た立体フォログラム映像が浮かんでいる。
ターゲットとなる佐藤翔を探している時である。
気になる者の姿を見つけてしまった。
そこは商店街。
多くの者が行き交うその中に、焼き鳥を片手に持って商店街を楽しそうに歩いている真っ白な聖衣を着たやや肥満体型の聖女がいた。
世界の未来を担っている藍倫が、そこにいたのだ。
以前見た姿より体型が丸くなっているようだ。
あいも変わらず、堕落した生活を過ごしているものと推測できる。
その時である。

―――――――『未来視』が発動した。

藍倫がビールを注文し、一気飲みをする未来が見えたのだ。
未成年である藍倫は、アルコールを飲むのは駄目な年齢のはず。
聖女としては超一流の働きをする藍倫であるが、モラルの方は相変わらず破綻しているようだ。
肥満体型も、性格も全くぶれていない。
佐藤翔に『SKILL_VIRUS』を撃ち込む前に、藍倫がこれから注文するビールジョッキを、試し撃ちしてみようかしら。


「次元列車さん。車体を安定させてください。」
「横Gを出来るだけかけないルートを選択します。」
「佐藤翔へ運命の矢を撃ち込む前に試し撃ちさせてもらいます。」
「何を試し撃ちされるつもりなのですか?」
「知り合いの聖女藍倫がこれから注文するビールジョッキを狙撃いたします。」


投射角45度、上空から入射角85度の放物線を描くように飛ばした場合の飛行距離は約8000m。
着弾速度を出来るだけ遅くするために無回転で発射させた場合の空気抵抗係数を0.25。
着弾時間は30秒。
運命の矢をリロードする。
スナイパーモードで召喚した運命の弓を、解放されている天井へ向けた。


「次元列車さん。立体フォログラム映像を私の視線の先へ移動させてください。」


リアルタイムで動く藍倫の後頭部の立体フォログラム映像が視界の中に入ってきた。
藍倫は食べ歩きを満喫しているようだ。
あんなに楽しそうにされていたら、ビールが注がれるジョッキを射抜く事が出来ないではないか。
発動している『未来視』で着弾点を確認しているが、なかんかロックオンが出来ない。
ここは辛抱強く合わせていくしかない。
そして、その瞬間が来た。
ROCK完了。
藍倫が購入したビールが注がれたジョッキを撃ち抜く『未来』が見える。
—————————————SHOOT

無回転で打ち放った矢が不規則に揺れながら空に消えていく。
貫通力と推進力を下げる事により空気抵抗を強く受け、減速させるようにしたのである。
立体フォログラム映像に映っている藍倫はと言うと、出店の店員に声をかけ、ビールが出てくるのを待っている状態だ。
未来視で見ていた映像と全く同様の映像である。
そして、店員から差し出されたビールを受け取るタイミングで、天空から撃ち放った運命の矢が落下していく。


その矢は藍倫が持つビールカップの脇をすり抜けて、地面に突き刺さった。


私は、人が自滅していく姿を見るのが大好物である。
だが、悪戯みたいな行為は嫌いなのだ。
そう。寸前で、標的を藍倫が持っているジョッキからずらしたのだ。
藍倫は『ほよよ』みたいな声を上げている表情をして、地面に突き刺さった矢を凝視していた。
その様子をフォログラム映像で一緒に見ていた次元列車は、予告した標的を外した事について質問をしてきた。


「三華月様。ジョッキを狙い撃つと言われておりましたが、寸前で外されたのでしょうか。」
「はい。外しました。その代わりに聖女・藍倫へは手紙を送りました。」


その藍倫が地面に刺さった矢に結ばれていた手紙に気が付き、ほどき始めていた。
送った手紙の内容は次のとおりである。
『藍倫殿。だいぶんお腹が出てきているようですが、そのまま不摂生を続けていると早くに痛風になりますよ。なので、ビールは控えなさい。タバコも百害あって一利なしですよ。by三華月』
立体フォログラム映像に映しだされている藍倫は一通り手紙を読み終えると、置いていたビールを手に持ち、ガブガブと一気飲みを開始した。
片手を腰に当て、上半身を気持ちよくそらして喉の気道を広げ、幸せそうな表情をしている。
ゴクゴクゴクという喉の音が聞こえてきそうだ。
そしてビールを飲み終わったら、ジョッキを店に戻し緩んだ表情で大きく息を吐き、ごそごそとタバコをくわえ始めている。
全然、書いた手紙の効果が無かったようだ。
もしかして、もう読んだ手紙の事は忘れているのではなかろうか。
藍倫にどんな手紙を書いても、ああなってしまうのかもしれないか。
やれやれです。
藍倫のことはおいおい考えることにして、試し撃ちも完了したことだし、佐藤翔のスキルを破壊させて頂きます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...