ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第139話 結果オーライ

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空から落ちる月の光が、風が止まった暗黒色の海面へ反射している。
海賊船は、2本のマストは下げられ、ゆっくりとした潮に流されていた。
波の音も聞こえない静寂の夜だ。
日中に暖められた海水は冷たくなっており、過ごしやすい空気が流れている。

甲板の上では、少年神官と土竜がグータッチを繰り返していた。
そのコンボーに巻き込まれている伐折羅提督は、戸惑いながらもその雰囲気に馴染もうとしているようだ。
何がそんなに楽しいのやら。
そもそもであるが、私がここに来た目的は、伐折羅提督の海賊船で摩凛の元まで連れていってもらうため。
バカ騒ぎをするためではない。
ノリノリの少年神官と土竜へ、静かにするようにお願いをした。


「二人共。私からも伐折羅提督へ挨拶したいと思います。少しばかり後ろで、静かにしていてもらえないでしょうか。」


私の言葉を聞いた2人が真顔に戻り銅像のように静止した。
こちらへ振り向くと、口を閉ざし直立不動の構えで敬礼をしている。
そして、姿勢を伸ばしリズムよく後ろへ下がり始めた。
今度は一体、何のパフォーマンスをしているのかしら。
先程まで楽しそうにしていた伐折羅が、夢から覚めたように顔を強張らせ身構え始めた。
あら。もしかさして、私は警戒されているのかしら。
鬼可愛い聖女の存在を用心し、ノリノリの少年神官と土竜の方が受け入れられていたのはどういう理屈なのだろうか。
でもまぁ私なら大丈夫だ。
男という生き物は可愛い女に騙されてしまうお馬鹿な存在だからな。
そう。ちょっと笑顔をすればチョロい奴等なのだ。
警戒心を解いてもらうため、笑顔を浮かべながら姿勢よくお辞儀をし、挨拶を開始した。


「私は聖女の三華月です。伐折羅提督へお願いがあり、こちらへお邪魔しました。」
「俺にお願いだと。」
「私は神託に従い、七武列島近海が不漁となってしまった問題を解決するために行動しております。」
「そうか。それは大変だな。」
「伐折羅提督にはその問題を解決するための協力を願えないでしょうか。」
「なんだと。それは摩凛に喧嘩を売るということか。断る!そもそもお前は俺の仲間である九毘羅と戦っていたじゃないか。敵に協力なんかできるはずがないだろ!」



初対面の相手と良好な人間関係を築くためには、第一印象が重要だ。
清楚系の美少女である聖女が、礼儀正しくしていれば男なんてイチコロであるはすが、伐折羅提督のその反応は予測外を超えていた。
隕石が頭に上に落ちてきたくらいのありえない事態が起きている。
伐折羅提督は、私を警戒しながら、甲板へ置かれていたサーベルの方に向かいゆっくりと移動し始めていた。
その状況を見ていた土竜がそのサーベルを拾い上げ、伐折羅提督へ差し出している。


「伐折羅提督。どうぞ受け取って下さい。」
「おう。有難うよ。」
「気にしないで下さい。もう私達はアミーゴではありませんか。」
「そうだぜ。困ったことがあれば僕達に言ってくれ。」
「おう。有難うよ。」


少年神官が伐折羅へ近づき手を上げると、呼応するように伐折羅提督も手を上げていた。
もう一度いうが、私だけが警戒されているのは何故なのかしら。
それに、私の味方である2人がこちらへ鋭い視線を送っている男に武器を渡す行為はいかがなものかと思ってしまう。
少年神官と土竜が、フレンドリーな雰囲気を演出しながら、伐折羅提督の背中をポンポンと叩きアドバイスを告げ始めた。


「ブラザーの健闘を祈りたいところだが、今回ばかりは相手が悪い。」
「アミーゴにアドバイスをさせてもらいます。聖女様から振り下ろされる鉄拳制裁を喰らってしまったら、木端微塵になってしまいますよ。」
「ブラザー。命が欲しかったら、聖女様に全面降伏をするんだ。」
「私はお気に入りのS級ヘルメットを、鉄拳制裁で粉砕されてしまったんですよ。」


おいおい、君たち。私の清純なイメージを崩さないでもらえないだろうか。
ここは、世界の平和を願う聖女に頼られた男は、奮い立たつのが定番な流れのはず。
とはいうものの、私の想定と裏腹に伐折羅提督は恐怖に身を震わせていた。
一般人を恐喝している不良みたいな扱いをされているな。
伐折羅提督は、少年神官から受け取ったサーベルを甲板へ戻した。


「聖女さん。俺に何の協力をさせるつもりなのですか。」


何となくだが、脅しに屈してしまった一般人のように見える。
少年神官と土竜は、伐折羅提督へ「大丈夫。僕達ブラザーが付いているぜ。」と勇気づけていた。
まぁ結果的にはであるが、私に協力してくれる流れになっているからよしとしておこうかしら。
結果オーライというやつだ。
今は何よりも神託の遂行が優先される。
細かいことは、気にするべきところではない。


「伐折羅提督。先程もお話したとおり、私は神託に従い行動しております。」
「それで、摩凛と対決されるのですか。」
「はい。月が出ている今夜のうちに、決着を付けたいと考えております。」
「聖女さん。摩凛はすごい数の魔物を使役しています。」
「それはイルカ擬きの魔物達のことですね。」
「摩凛に勝てる見込みはあるのでしょうか。」


伐折羅提督が心配するのも当然だ。
S級冒険者パーティでも、高い作戦行動をとってくるイルカ擬き達を討伐することは不可能だろう。
死霊王クラスでなければ、相手にもならないのが現実だ。
伐折羅からの問いを聞いていた少年神官は腕組みをしながらドヤ顔をしている。
土竜はやれやれのポーズをしていた。


「伐折羅君。その魔物達なら、つい先ほど三華月様に命乞いをしに来ていたんだぜ。」
「そうそう。三華月様の下僕となり、私達のアミーゴになっちゃいました。」
「マジですか!あの魔物達が聖女様の配下になったのですか。」


予期しなかった言葉を聞いた伐折羅の表情が強張った。
現実が受け入れ慣れない感じに見える。
世の男を虜にしてしまう可憐な姿をした乙女が、何か得体の知れない物体を見るような目で眺められていた。
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