ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

文字の大きさ
139 / 142

第139話 結果オーライ

しおりを挟む
空から落ちる月の光が、風が止まった暗黒色の海面へ反射している。
海賊船は、2本のマストは下げられ、ゆっくりとした潮に流されていた。
波の音も聞こえない静寂の夜だ。
日中に暖められた海水は冷たくなっており、過ごしやすい空気が流れている。

甲板の上では、少年神官と土竜がグータッチを繰り返していた。
そのコンボーに巻き込まれている伐折羅提督は、戸惑いながらもその雰囲気に馴染もうとしているようだ。
何がそんなに楽しいのやら。
そもそもであるが、私がここに来た目的は、伐折羅提督の海賊船で摩凛の元まで連れていってもらうため。
バカ騒ぎをするためではない。
ノリノリの少年神官と土竜へ、静かにするようにお願いをした。


「二人共。私からも伐折羅提督へ挨拶したいと思います。少しばかり後ろで、静かにしていてもらえないでしょうか。」


私の言葉を聞いた2人が真顔に戻り銅像のように静止した。
こちらへ振り向くと、口を閉ざし直立不動の構えで敬礼をしている。
そして、姿勢を伸ばしリズムよく後ろへ下がり始めた。
今度は一体、何のパフォーマンスをしているのかしら。
先程まで楽しそうにしていた伐折羅が、夢から覚めたように顔を強張らせ身構え始めた。
あら。もしかさして、私は警戒されているのかしら。
鬼可愛い聖女の存在を用心し、ノリノリの少年神官と土竜の方が受け入れられていたのはどういう理屈なのだろうか。
でもまぁ私なら大丈夫だ。
男という生き物は可愛い女に騙されてしまうお馬鹿な存在だからな。
そう。ちょっと笑顔をすればチョロい奴等なのだ。
警戒心を解いてもらうため、笑顔を浮かべながら姿勢よくお辞儀をし、挨拶を開始した。


「私は聖女の三華月です。伐折羅提督へお願いがあり、こちらへお邪魔しました。」
「俺にお願いだと。」
「私は神託に従い、七武列島近海が不漁となってしまった問題を解決するために行動しております。」
「そうか。それは大変だな。」
「伐折羅提督にはその問題を解決するための協力を願えないでしょうか。」
「なんだと。それは摩凛に喧嘩を売るということか。断る!そもそもお前は俺の仲間である九毘羅と戦っていたじゃないか。敵に協力なんかできるはずがないだろ!」



初対面の相手と良好な人間関係を築くためには、第一印象が重要だ。
清楚系の美少女である聖女が、礼儀正しくしていれば男なんてイチコロであるはすが、伐折羅提督のその反応は予測外を超えていた。
隕石が頭に上に落ちてきたくらいのありえない事態が起きている。
伐折羅提督は、私を警戒しながら、甲板へ置かれていたサーベルの方に向かいゆっくりと移動し始めていた。
その状況を見ていた土竜がそのサーベルを拾い上げ、伐折羅提督へ差し出している。


「伐折羅提督。どうぞ受け取って下さい。」
「おう。有難うよ。」
「気にしないで下さい。もう私達はアミーゴではありませんか。」
「そうだぜ。困ったことがあれば僕達に言ってくれ。」
「おう。有難うよ。」


少年神官が伐折羅へ近づき手を上げると、呼応するように伐折羅提督も手を上げていた。
もう一度いうが、私だけが警戒されているのは何故なのかしら。
それに、私の味方である2人がこちらへ鋭い視線を送っている男に武器を渡す行為はいかがなものかと思ってしまう。
少年神官と土竜が、フレンドリーな雰囲気を演出しながら、伐折羅提督の背中をポンポンと叩きアドバイスを告げ始めた。


「ブラザーの健闘を祈りたいところだが、今回ばかりは相手が悪い。」
「アミーゴにアドバイスをさせてもらいます。聖女様から振り下ろされる鉄拳制裁を喰らってしまったら、木端微塵になってしまいますよ。」
「ブラザー。命が欲しかったら、聖女様に全面降伏をするんだ。」
「私はお気に入りのS級ヘルメットを、鉄拳制裁で粉砕されてしまったんですよ。」


おいおい、君たち。私の清純なイメージを崩さないでもらえないだろうか。
ここは、世界の平和を願う聖女に頼られた男は、奮い立たつのが定番な流れのはず。
とはいうものの、私の想定と裏腹に伐折羅提督は恐怖に身を震わせていた。
一般人を恐喝している不良みたいな扱いをされているな。
伐折羅提督は、少年神官から受け取ったサーベルを甲板へ戻した。


「聖女さん。俺に何の協力をさせるつもりなのですか。」


何となくだが、脅しに屈してしまった一般人のように見える。
少年神官と土竜は、伐折羅提督へ「大丈夫。僕達ブラザーが付いているぜ。」と勇気づけていた。
まぁ結果的にはであるが、私に協力してくれる流れになっているからよしとしておこうかしら。
結果オーライというやつだ。
今は何よりも神託の遂行が優先される。
細かいことは、気にするべきところではない。


「伐折羅提督。先程もお話したとおり、私は神託に従い行動しております。」
「それで、摩凛と対決されるのですか。」
「はい。月が出ている今夜のうちに、決着を付けたいと考えております。」
「聖女さん。摩凛はすごい数の魔物を使役しています。」
「それはイルカ擬きの魔物達のことですね。」
「摩凛に勝てる見込みはあるのでしょうか。」


伐折羅提督が心配するのも当然だ。
S級冒険者パーティでも、高い作戦行動をとってくるイルカ擬き達を討伐することは不可能だろう。
死霊王クラスでなければ、相手にもならないのが現実だ。
伐折羅からの問いを聞いていた少年神官は腕組みをしながらドヤ顔をしている。
土竜はやれやれのポーズをしていた。


「伐折羅君。その魔物達なら、つい先ほど三華月様に命乞いをしに来ていたんだぜ。」
「そうそう。三華月様の下僕となり、私達のアミーゴになっちゃいました。」
「マジですか!あの魔物達が聖女様の配下になったのですか。」


予期しなかった言葉を聞いた伐折羅の表情が強張った。
現実が受け入れ慣れない感じに見える。
世の男を虜にしてしまう可憐な姿をした乙女が、何か得体の知れない物体を見るような目で眺められていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...