2 / 3
巻之壱
- 壱 -
しおりを挟む
「で?」
とホルターネックで背中を大きく開き、胸元も谷間を見せつけるようダイヤ形に開いた青紫色のマーメイドラインロングドレスに身を包み、全体は明るい栗色だが中間から毛先までピンク色に染まるロングヘアーを肩まで降ろした女性がジト目で聞くも、
「いや、俺に怒られても分からんよ。
聞いた所で皆が皆、口を開けばYOMOYAMAに流れてた怪談話ばかりだ。
第3回アップデート 【 新天地 】が始まる少し前のベータ版で幾人かが部屋の中から忽然と姿を消したのを隠蔽し、ゲーム会社は強引に 【 新天地 】を決行した。
結果、蓮と親友さんーー
アップデートを行ったプレイヤーが片っ端から消息を途絶えたって話さ。
今では第2回更新までのエリアサーバーを除いた新エリアやアイテムは全て文字化け処理の仕様外に指定されている始末で、メディアでも今回の件は連日取り沙汰されてるみたいだしね。」
と黒いスラックスに灰色のネクタイを締めた白ワイシャツの上から黒いベストを着る男性が苦笑いを浮かべる表情を暫く見た後、
「ハァ…まぁセバスの集めた情報が、巷で集められる情報としては限界、か。」
と青紫色のマーメイドラインロングドレスを着たロングヘアの女性が溜息混じりに言うのを聞きつつ、セバスと呼ばれた男は項目画面を開き、
「後、分かっている事はーー
現実内時間で3ヶ月の間ログイン状態が続いてるのにダイレクトメールもショートメールも届かず、更には項目画面を呼び出そうとしてもエラー表示でゲームマスターコールへの誘導表示のみ。
すーちゃん、こりゃあガチで詰んだぞ。」
と頭を抱えるセバスと呼ばれた男へ、
「詰んではいないよ。
…正しくは、ね。」
とすーちゃんと呼ばれた女性も項目画面を開き、そのままダイレクトメールの保管画面を出しながら、
「最後の手段が残ってる。」
と呟くように言うのを聞き、
「…これ、来てるのは俺らだけか?」
と苦笑いで聞く執事風の男は自分の項目画面からも同じ画面を出すと、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
譁ー縺励″荳也阜 譁ー縺励″蝨ー
豎昴�蠖シ縺ョ蝨ー縺ォ縺ヲ 逵溘�逕溘r遏・繧�
鬲斐′逕溘∪繧後@蝨ー縺ォ蝨ィ繧矩サ偵″闍ヲ縺励∩縺ョ髢
貂。繧後� 莠悟コヲ縺ィ縺ッ蟶ー繧後〓
辟カ縺励※ 蜈カ縺ョ蝨ー縺ョ蜈�
譁ー縺励″ 譌�キッ縺碁幕縺代h縺�
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱ文字化けして読めねぇ…」
と頭を抱えるが、
「そう思ってーー
ネットにある文字化け解析ツールに落としたら何とか読めたわ。」
と自分の画面を執事風の男にも見せるように拡大すると、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新しきセ界 新シき地
汝ハ彼のチにテ 真ノ生をシる
魔がゥまれシクロき荒ヤ そノ先にテ在りシ門
渡レば 二度トは帰レぬ
然シテ 其ノ地のサき
新シき 旅ジが開ケよウ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と言う文面を見ながら腕を組み、
「…“魔が生まれし黒き荒野”
…“その先にて在りし門”
………あ。」
と翻訳された言葉の意味に気付く執事風の男へ向けてニッと笑い、
「そう。
まっさか…あの場所とは思わないよねぇ✧︎」
と、すーちゃんと呼ばれた女性が言いつつ頷き、
「【Another Tale ONLINE】内の悪神であり、メインストーリーの最後を飾るプレイヤー泣かせのラストボスーー
魔皇アルゴドゥスとの決戦場である地下大迷宮の最下層 混沌の宮殿の破壊不能オブジェクトが鍵を握っていたとはね。」
と開いたマップを見ながら続けるが、
「ただ…すーちゃんよ?
行くのは良いんだけどさぁ…」
と遠い目をする執事風の男に続き、
「…そう。
大きな問題が1つあるのよ。」
と頭を抱える、すーちゃんと呼ばれたロングヘアの女性も続けて溜息を吐くと、
「「 レベルがなぁ…。 」」
と2人で声を揃えて呟いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なぁ…昼飯にしねぇ?」
と文机に筆を放り投げる坊主頭の蓮は聞くも、
「お前、さっき休憩したばかりだろ。
ってか昼飯って、まだ11時半だし。」
と返しながらも手を止めず筆を動かし続けるセミロングを1つに結んだ独歩だが、
「あー、無理。
飽きた。」
と蓮は両手を着いて天井を仰ぐと、
「はい、手を止めな~い。
お前が矮人に急ピッチな外壁改修を命じなけりゃぁ、こうはならなかったんだからな。」
と蓮を見ずに言う独歩へ、
「なァ~?
猫妖精って来るの早められんの~?」
と聞くも、
「だから無理だっての。
この間のゴタゴタで負傷者が多数出て、こっちから森人を派遣してるくらいだ。
引越し作業は大幅に早めているが、頑張っても明日だよ。
…ったく、だから次の会議で各族長が集まってから計画を動かせって言ったのに。」
とブツブツ返す独歩に溜息を吐き、
「あ~…悪かった悪かった。
お前の小言はァ長いからいけねェ。」
と手を振った後で文机へ戻る蓮だが独歩はムッとした顔をすると、
「蓮、お前はなぁーー」
と言おうとした瞬間2人は感じ慣れない気配にピクリッと反応し、
「…︎ん?
外側からか?」
と首を傾げる蓮の横で静かに筆を置くと、
「御頭領。」
と呼ぶ独歩に続き、
「ハァ…女神の野郎がよォ…
面倒くせェ」
と蓮が立ち上がるのに続き、独歩も立ち上がるや襖を開けて2人は静かに部屋を出た。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「…すーちゃん?」
と革製の装備に身を包み、身の丈はある木剣を構えつつ苦笑いで聞く短髪の男に、
「キー坊…何も聞きたくない。」
と冷たく返すも、
「MPも空っ穴で、回復アイテムも無し……
何故か項目画面は開けれず、身につけているのは初期装備。
…オワコンじゃね?」
と革装備の男は無視して続けるも、
「そんなん言わんでも分かってるわ!!!
ってか…いきなり訳わかんない所に飛ばされて、何で目の前に色だけ綺麗なサソリが現れてんのよぉ!!!」
と叫ぶ青紫色のマーメイドラインロングドレスに身を包む、栗色とピンク色に染まったロングヘアーの女性が叫ぶも、
「すーちゃん、危ない!」
と灰色のフードマントに簡素な長い杖を持つ女性の叫びで頭上から銀白色の巨大なサソリがハサミを振り下ろすのに気付き咄嗟に目を瞑るも、ゴンッ!と鈍い音がした事で静かに目を開けると、
「痛ったァ…
たんこぶ出来たらァどォしてくれんだよォ。」
と言いながら頭でハサミを押し返す紺色の作務衣服の上から黒い長羽織へ袖を通さずに肩掛けし、下駄をカランッと鳴らして立つ蓮の姿を見て、
「「 蓮ちゃん!!! 」」
と叫ぶロングヘアの女性をと灰色のフードマントに簡素な長い杖を持つ女性を他所に、
「お前の石頭ならぬ鋼鉄頭じゃあ、タンコブよりも魔物側のハサミが壊れるだろ。」
と聞きなれない声に蓮の後ろへ視線を移すと、黒灰色の馬乗り袴に黒い着物を紺色の帯で締め、上から黒い長羽織を着る男がニヤッと笑みを浮かべつつ歩いてくるのが見え、
「「 どなた!? 」」
と更に叫ぶ2人へ手を挙げ、
「やほ、えりんこちゃん…ですよね?
そしてーー
我が御頭領の想い人✧︎
スフィカ・リーベル様♫
ようこそ、異世界へ。
〚 兇一家 〛 参謀を努めます、凪凛 独歩と申します。」
と優しく笑いかける独歩に、
「どうも…って、異世界って言いました?!」
と、えりんこと呼ばれた灰色のフードマントに簡素な長い杖を持つ女性が首を傾げるのを笑い、
「まァそうなるよなァ~。
“門の先は不思議な世界でした”って、どこのジブリ作品だってのよなァ。」
とケラケラ笑いながら言う蓮へ、
「いや、あれは“トンネルの先”、な?」
と独歩が直ぐさまツッコむと、
「そだっけ?
ってかァ何で大所帯でこン所に居んのよ?
さてはァーー」
と首を傾げる蓮の後ろで、ダイヤモンドスコーピオンが再びハサミを振り上げるのを見て、
「蓮ちゃん!」
と青紫色のマーメイドラインロングドレスに身を包むスフィカは叫ぶも、
「おめェはさっきからーー
久々の家族との団欒くれェゆっくりさせろやァ、クソザリガニ!!!」
と言うやダイヤモンドスコーピオンのハサミを右手で殴り左側に吹き飛ばしたかと思うと、直ぐさま高々と跳び上がり眉間を殴り付けた瞬間に叩きつけられた圧力で地面へクモの巣状のヒビが入って割れると共に砂埃を巻き上げ、晴れた後で見えたダイヤモンドスコーピオンが事故した車のような凹み跡を残しピクリとも動かずに潰れる姿へ、
「はい、害虫駆除。」
と蓮は言うも、
「「 え~… 」」
とドン引くスフィカとえりんこ含め一同を他所に、
「ザリガニ呼びかサソリ呼びかハッキリしなさい。
…と言うか、そもそもザリガニじゃないから。」
とツッコむ独歩だが、
「「 いや、ツッコむ所そこ?! 」」
と返すスフィカとえりんこに、
「「 え? 」」
と蓮と独歩の2人は真顔で首を傾げた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「女神にィ呼び出されたか?」
と青々しく茂る草原の中で潰れたダイヤモンドスコーピオンの死体を背に聞く蓮だが、
「ん?
女神?」
と首を傾げて聞き返すスフィカに、
「いや…女神ルナミスだがァ…見てねェか?
ほれーー
あの~…ノーブラ・ノーパンでスッケスケの童貞を殺すセーターみてェなドレス着てェ、ソファに寝そべりながら話ィするド痴女のイケメン狂いクソ女神。
会わンかったかァ?」
と身振り手振りで説明する蓮だが、
「なによ、そのハレンチの塊…って、それより!!!
さっき独歩さん、異世界って言った?!
ここってゲームの中じゃないの!?」
と驚くスフィカだが、
「あぁ~…俺も30年前、おんなじ反応してたよ。」
とケラケラ笑う独歩に、
「ン?
…今、30年前って言った?」
と苦笑いで聞き返すえりんこへ、
「まぁそれも話すとしてーー
とりあえずァ…腹減らね?
王国は目と鼻の先だろ?
ペペロンチーノ食いてェ✧︎」
と笑う蓮に頭を抱え、
「お前…もうちょい危機感ってものをーー
あ、無理か。」
と直ぐさま呆れる独歩にスフィカ一同は大笑いした後、
「改めてーー
スフィカ・リーベルです。
こっちは妹のエリシア・リーベル。
後は…」
と後ろの仲間を紹介しようとするスフィカだが、
「待て待て。
全員紹介してたら日が暮れちまうか、魔物が来ちまうわィ。」
と笑う蓮に続き、
「ああ。
ゆっくりと異世界の説明もしたいからな。
とりあえずは移動しよう。」
と背後の遠くを指さす独歩に合わせて視線を向けると白い城壁が囲むファンタジー世界らしい西洋風の街があるのが見え、
「お~♡
いかにもだねぇ✧︎」
と喜ぶスフィカに、
「今いる場所はアムルディア王国領の前でね。
目の前に見えるーー
あの城がアムルディアの首都であるレクトルムなんだが、普通に皆を連れて歩くと着くのは夜になるんだ。
そこでーー」
と言いながら袖の下をゴソゴソと探ると、
「皆には待合室を用意しました✧︎」
と掌大の四角い結晶を取り出す独歩に、
「何これ?」
と聞くエリシアへ、
「魔結晶と呼ばれるシロモノでね。
ファンタジー世界によくある魔石なんだがーー
こいつに時間停止と収容結界の術式紋を彫りこんである。」
と説明する独歩に続き、
「こいつにィ全員を突っこんで、軽くひとっ走りした後に門の前で出してやるのがァ1番イイってェ儂の案だ✧︎」
と笑う蓮だがスフィカ達は苦々しい表情をする独歩に目線が行き、
「…蓮ちゃんの大丈夫✧︎って笑顔を浮かべる横で、物凄い不安そうな独歩さんの顔が引っ掛かり倒してるんだけど…ホントに大丈夫?」
とジト目で見るスフィカへ、
「え~っと…いちお大丈夫は大丈夫なんだけど、ね。」
と目を逸らす独歩に、
「うん、それ絶対に大丈夫じゃないよね!?」
とツッコむスフィカだが、
「へェ~い♫
フィーナ大森林前特急 レクトルム行き✧︎
間もなく発車しまァす✧︎」
と指を鳴らした瞬間、
「ちょ、まーー!!!」
と言いかけたスフィカ一同が光の粒となって消えるや四角い結晶へと吸い込まれるのを見て、
「ハァ…後で恨み言を言われても俺のせいじゃねぇぞ?」
と溜息混じりに言う独歩へケラケラ笑い返し、
「そもそも言われるワケねェだろ✧︎
アイツらン魔力回路ォ開いてねェんだからな。」
と言う蓮に、
「あ、そっか。
確かに、それは酔わねぇわ。」
と納得する独歩を更にケラケラ笑い、
「まァーー
レクトルム着いたら直ぐに開いてやりゃァ良い。
それよか…なァ~んでアイツらがァ来れたか、の方が問題だァ。
あのビッチ…何を企んでやがる。」
と据わった目で吐き捨てる蓮の頬をツンッと突っつくや、
「ほれ、ヤバい目してるぞ。
家族が絡むと直ぐそうなるのは、お前の悪いクセだ。」
と鼻で笑う独歩に気付き、
「ハァ…悪ィ。
出来るならァ昔の蓮ちゃんで居たいンだがァーー
歳は取りたくねェな。」
と頭を抱える蓮へ、
「大丈夫さ✧︎
お前の歌姫や、その家族たちもキッチリ守ってやるがーー
お前は独りじゃないんだ。」
と拳を突き出す独歩を鼻で笑い、
「ああ。
分かってるよ。」
と蓮も拳をコツンッと当てると、遠くに見える白く美しい町並みを見ながら2人は準備運動を始めた。
とホルターネックで背中を大きく開き、胸元も谷間を見せつけるようダイヤ形に開いた青紫色のマーメイドラインロングドレスに身を包み、全体は明るい栗色だが中間から毛先までピンク色に染まるロングヘアーを肩まで降ろした女性がジト目で聞くも、
「いや、俺に怒られても分からんよ。
聞いた所で皆が皆、口を開けばYOMOYAMAに流れてた怪談話ばかりだ。
第3回アップデート 【 新天地 】が始まる少し前のベータ版で幾人かが部屋の中から忽然と姿を消したのを隠蔽し、ゲーム会社は強引に 【 新天地 】を決行した。
結果、蓮と親友さんーー
アップデートを行ったプレイヤーが片っ端から消息を途絶えたって話さ。
今では第2回更新までのエリアサーバーを除いた新エリアやアイテムは全て文字化け処理の仕様外に指定されている始末で、メディアでも今回の件は連日取り沙汰されてるみたいだしね。」
と黒いスラックスに灰色のネクタイを締めた白ワイシャツの上から黒いベストを着る男性が苦笑いを浮かべる表情を暫く見た後、
「ハァ…まぁセバスの集めた情報が、巷で集められる情報としては限界、か。」
と青紫色のマーメイドラインロングドレスを着たロングヘアの女性が溜息混じりに言うのを聞きつつ、セバスと呼ばれた男は項目画面を開き、
「後、分かっている事はーー
現実内時間で3ヶ月の間ログイン状態が続いてるのにダイレクトメールもショートメールも届かず、更には項目画面を呼び出そうとしてもエラー表示でゲームマスターコールへの誘導表示のみ。
すーちゃん、こりゃあガチで詰んだぞ。」
と頭を抱えるセバスと呼ばれた男へ、
「詰んではいないよ。
…正しくは、ね。」
とすーちゃんと呼ばれた女性も項目画面を開き、そのままダイレクトメールの保管画面を出しながら、
「最後の手段が残ってる。」
と呟くように言うのを聞き、
「…これ、来てるのは俺らだけか?」
と苦笑いで聞く執事風の男は自分の項目画面からも同じ画面を出すと、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
譁ー縺励″荳也阜 譁ー縺励″蝨ー
豎昴�蠖シ縺ョ蝨ー縺ォ縺ヲ 逵溘�逕溘r遏・繧�
鬲斐′逕溘∪繧後@蝨ー縺ォ蝨ィ繧矩サ偵″闍ヲ縺励∩縺ョ髢
貂。繧後� 莠悟コヲ縺ィ縺ッ蟶ー繧後〓
辟カ縺励※ 蜈カ縺ョ蝨ー縺ョ蜈�
譁ー縺励″ 譌�キッ縺碁幕縺代h縺�
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱ文字化けして読めねぇ…」
と頭を抱えるが、
「そう思ってーー
ネットにある文字化け解析ツールに落としたら何とか読めたわ。」
と自分の画面を執事風の男にも見せるように拡大すると、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
新しきセ界 新シき地
汝ハ彼のチにテ 真ノ生をシる
魔がゥまれシクロき荒ヤ そノ先にテ在りシ門
渡レば 二度トは帰レぬ
然シテ 其ノ地のサき
新シき 旅ジが開ケよウ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と言う文面を見ながら腕を組み、
「…“魔が生まれし黒き荒野”
…“その先にて在りし門”
………あ。」
と翻訳された言葉の意味に気付く執事風の男へ向けてニッと笑い、
「そう。
まっさか…あの場所とは思わないよねぇ✧︎」
と、すーちゃんと呼ばれた女性が言いつつ頷き、
「【Another Tale ONLINE】内の悪神であり、メインストーリーの最後を飾るプレイヤー泣かせのラストボスーー
魔皇アルゴドゥスとの決戦場である地下大迷宮の最下層 混沌の宮殿の破壊不能オブジェクトが鍵を握っていたとはね。」
と開いたマップを見ながら続けるが、
「ただ…すーちゃんよ?
行くのは良いんだけどさぁ…」
と遠い目をする執事風の男に続き、
「…そう。
大きな問題が1つあるのよ。」
と頭を抱える、すーちゃんと呼ばれたロングヘアの女性も続けて溜息を吐くと、
「「 レベルがなぁ…。 」」
と2人で声を揃えて呟いた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「なぁ…昼飯にしねぇ?」
と文机に筆を放り投げる坊主頭の蓮は聞くも、
「お前、さっき休憩したばかりだろ。
ってか昼飯って、まだ11時半だし。」
と返しながらも手を止めず筆を動かし続けるセミロングを1つに結んだ独歩だが、
「あー、無理。
飽きた。」
と蓮は両手を着いて天井を仰ぐと、
「はい、手を止めな~い。
お前が矮人に急ピッチな外壁改修を命じなけりゃぁ、こうはならなかったんだからな。」
と蓮を見ずに言う独歩へ、
「なァ~?
猫妖精って来るの早められんの~?」
と聞くも、
「だから無理だっての。
この間のゴタゴタで負傷者が多数出て、こっちから森人を派遣してるくらいだ。
引越し作業は大幅に早めているが、頑張っても明日だよ。
…ったく、だから次の会議で各族長が集まってから計画を動かせって言ったのに。」
とブツブツ返す独歩に溜息を吐き、
「あ~…悪かった悪かった。
お前の小言はァ長いからいけねェ。」
と手を振った後で文机へ戻る蓮だが独歩はムッとした顔をすると、
「蓮、お前はなぁーー」
と言おうとした瞬間2人は感じ慣れない気配にピクリッと反応し、
「…︎ん?
外側からか?」
と首を傾げる蓮の横で静かに筆を置くと、
「御頭領。」
と呼ぶ独歩に続き、
「ハァ…女神の野郎がよォ…
面倒くせェ」
と蓮が立ち上がるのに続き、独歩も立ち上がるや襖を開けて2人は静かに部屋を出た。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「…すーちゃん?」
と革製の装備に身を包み、身の丈はある木剣を構えつつ苦笑いで聞く短髪の男に、
「キー坊…何も聞きたくない。」
と冷たく返すも、
「MPも空っ穴で、回復アイテムも無し……
何故か項目画面は開けれず、身につけているのは初期装備。
…オワコンじゃね?」
と革装備の男は無視して続けるも、
「そんなん言わんでも分かってるわ!!!
ってか…いきなり訳わかんない所に飛ばされて、何で目の前に色だけ綺麗なサソリが現れてんのよぉ!!!」
と叫ぶ青紫色のマーメイドラインロングドレスに身を包む、栗色とピンク色に染まったロングヘアーの女性が叫ぶも、
「すーちゃん、危ない!」
と灰色のフードマントに簡素な長い杖を持つ女性の叫びで頭上から銀白色の巨大なサソリがハサミを振り下ろすのに気付き咄嗟に目を瞑るも、ゴンッ!と鈍い音がした事で静かに目を開けると、
「痛ったァ…
たんこぶ出来たらァどォしてくれんだよォ。」
と言いながら頭でハサミを押し返す紺色の作務衣服の上から黒い長羽織へ袖を通さずに肩掛けし、下駄をカランッと鳴らして立つ蓮の姿を見て、
「「 蓮ちゃん!!! 」」
と叫ぶロングヘアの女性をと灰色のフードマントに簡素な長い杖を持つ女性を他所に、
「お前の石頭ならぬ鋼鉄頭じゃあ、タンコブよりも魔物側のハサミが壊れるだろ。」
と聞きなれない声に蓮の後ろへ視線を移すと、黒灰色の馬乗り袴に黒い着物を紺色の帯で締め、上から黒い長羽織を着る男がニヤッと笑みを浮かべつつ歩いてくるのが見え、
「「 どなた!? 」」
と更に叫ぶ2人へ手を挙げ、
「やほ、えりんこちゃん…ですよね?
そしてーー
我が御頭領の想い人✧︎
スフィカ・リーベル様♫
ようこそ、異世界へ。
〚 兇一家 〛 参謀を努めます、凪凛 独歩と申します。」
と優しく笑いかける独歩に、
「どうも…って、異世界って言いました?!」
と、えりんこと呼ばれた灰色のフードマントに簡素な長い杖を持つ女性が首を傾げるのを笑い、
「まァそうなるよなァ~。
“門の先は不思議な世界でした”って、どこのジブリ作品だってのよなァ。」
とケラケラ笑いながら言う蓮へ、
「いや、あれは“トンネルの先”、な?」
と独歩が直ぐさまツッコむと、
「そだっけ?
ってかァ何で大所帯でこン所に居んのよ?
さてはァーー」
と首を傾げる蓮の後ろで、ダイヤモンドスコーピオンが再びハサミを振り上げるのを見て、
「蓮ちゃん!」
と青紫色のマーメイドラインロングドレスに身を包むスフィカは叫ぶも、
「おめェはさっきからーー
久々の家族との団欒くれェゆっくりさせろやァ、クソザリガニ!!!」
と言うやダイヤモンドスコーピオンのハサミを右手で殴り左側に吹き飛ばしたかと思うと、直ぐさま高々と跳び上がり眉間を殴り付けた瞬間に叩きつけられた圧力で地面へクモの巣状のヒビが入って割れると共に砂埃を巻き上げ、晴れた後で見えたダイヤモンドスコーピオンが事故した車のような凹み跡を残しピクリとも動かずに潰れる姿へ、
「はい、害虫駆除。」
と蓮は言うも、
「「 え~… 」」
とドン引くスフィカとえりんこ含め一同を他所に、
「ザリガニ呼びかサソリ呼びかハッキリしなさい。
…と言うか、そもそもザリガニじゃないから。」
とツッコむ独歩だが、
「「 いや、ツッコむ所そこ?! 」」
と返すスフィカとえりんこに、
「「 え? 」」
と蓮と独歩の2人は真顔で首を傾げた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「女神にィ呼び出されたか?」
と青々しく茂る草原の中で潰れたダイヤモンドスコーピオンの死体を背に聞く蓮だが、
「ん?
女神?」
と首を傾げて聞き返すスフィカに、
「いや…女神ルナミスだがァ…見てねェか?
ほれーー
あの~…ノーブラ・ノーパンでスッケスケの童貞を殺すセーターみてェなドレス着てェ、ソファに寝そべりながら話ィするド痴女のイケメン狂いクソ女神。
会わンかったかァ?」
と身振り手振りで説明する蓮だが、
「なによ、そのハレンチの塊…って、それより!!!
さっき独歩さん、異世界って言った?!
ここってゲームの中じゃないの!?」
と驚くスフィカだが、
「あぁ~…俺も30年前、おんなじ反応してたよ。」
とケラケラ笑う独歩に、
「ン?
…今、30年前って言った?」
と苦笑いで聞き返すえりんこへ、
「まぁそれも話すとしてーー
とりあえずァ…腹減らね?
王国は目と鼻の先だろ?
ペペロンチーノ食いてェ✧︎」
と笑う蓮に頭を抱え、
「お前…もうちょい危機感ってものをーー
あ、無理か。」
と直ぐさま呆れる独歩にスフィカ一同は大笑いした後、
「改めてーー
スフィカ・リーベルです。
こっちは妹のエリシア・リーベル。
後は…」
と後ろの仲間を紹介しようとするスフィカだが、
「待て待て。
全員紹介してたら日が暮れちまうか、魔物が来ちまうわィ。」
と笑う蓮に続き、
「ああ。
ゆっくりと異世界の説明もしたいからな。
とりあえずは移動しよう。」
と背後の遠くを指さす独歩に合わせて視線を向けると白い城壁が囲むファンタジー世界らしい西洋風の街があるのが見え、
「お~♡
いかにもだねぇ✧︎」
と喜ぶスフィカに、
「今いる場所はアムルディア王国領の前でね。
目の前に見えるーー
あの城がアムルディアの首都であるレクトルムなんだが、普通に皆を連れて歩くと着くのは夜になるんだ。
そこでーー」
と言いながら袖の下をゴソゴソと探ると、
「皆には待合室を用意しました✧︎」
と掌大の四角い結晶を取り出す独歩に、
「何これ?」
と聞くエリシアへ、
「魔結晶と呼ばれるシロモノでね。
ファンタジー世界によくある魔石なんだがーー
こいつに時間停止と収容結界の術式紋を彫りこんである。」
と説明する独歩に続き、
「こいつにィ全員を突っこんで、軽くひとっ走りした後に門の前で出してやるのがァ1番イイってェ儂の案だ✧︎」
と笑う蓮だがスフィカ達は苦々しい表情をする独歩に目線が行き、
「…蓮ちゃんの大丈夫✧︎って笑顔を浮かべる横で、物凄い不安そうな独歩さんの顔が引っ掛かり倒してるんだけど…ホントに大丈夫?」
とジト目で見るスフィカへ、
「え~っと…いちお大丈夫は大丈夫なんだけど、ね。」
と目を逸らす独歩に、
「うん、それ絶対に大丈夫じゃないよね!?」
とツッコむスフィカだが、
「へェ~い♫
フィーナ大森林前特急 レクトルム行き✧︎
間もなく発車しまァす✧︎」
と指を鳴らした瞬間、
「ちょ、まーー!!!」
と言いかけたスフィカ一同が光の粒となって消えるや四角い結晶へと吸い込まれるのを見て、
「ハァ…後で恨み言を言われても俺のせいじゃねぇぞ?」
と溜息混じりに言う独歩へケラケラ笑い返し、
「そもそも言われるワケねェだろ✧︎
アイツらン魔力回路ォ開いてねェんだからな。」
と言う蓮に、
「あ、そっか。
確かに、それは酔わねぇわ。」
と納得する独歩を更にケラケラ笑い、
「まァーー
レクトルム着いたら直ぐに開いてやりゃァ良い。
それよか…なァ~んでアイツらがァ来れたか、の方が問題だァ。
あのビッチ…何を企んでやがる。」
と据わった目で吐き捨てる蓮の頬をツンッと突っつくや、
「ほれ、ヤバい目してるぞ。
家族が絡むと直ぐそうなるのは、お前の悪いクセだ。」
と鼻で笑う独歩に気付き、
「ハァ…悪ィ。
出来るならァ昔の蓮ちゃんで居たいンだがァーー
歳は取りたくねェな。」
と頭を抱える蓮へ、
「大丈夫さ✧︎
お前の歌姫や、その家族たちもキッチリ守ってやるがーー
お前は独りじゃないんだ。」
と拳を突き出す独歩を鼻で笑い、
「ああ。
分かってるよ。」
と蓮も拳をコツンッと当てると、遠くに見える白く美しい町並みを見ながら2人は準備運動を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる