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九空間目
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しおりを挟む……ああ。会いたい、早く会いたい。
人目がないところで二人きりで会って、恥も外聞もなく彼に抱き着けることができたらどれだけ幸せだろうか。きっととんでもない幸福感で満たされることだろう。大勢の人が居るところで握手をするだけではなく、あの逞しくて分厚い胸板に顔を埋めて、潰れそうなほど強く抱き締めてもらいたい。
「……か、んだ、さん」
「……ん?」
「あ、会いたいです、っ」
泣きたくなんかないのに涙が止まってくれない。必死に声を出して頑張って紡いだ言葉は、嗚咽混じりの汚い声だったのだが、きちんと神田さんに届いてくれただろうか。そう不安に思っていると、電話先で神田さんが小さく笑ったのが分かった。
「ああ、俺もだ」
どうやらその気持ちも同じだったようで、神田さんはすぐに俺の言葉に同意をしてくれた。それがとてつもなく嬉しくて、俺は聞こえるか聞こえないかの声量で「ありがとうございます」とお礼を告げる。
そして俺は少し電話を離して鼻をかみ、溢れて来る涙を拭うようにテッシュで瞼を乱暴に擦った。
「有希、今日の用事は?」
「……今日?特にないと思います」
今日だけでなくても友達も禄に居ない俺には用事という用事などない。
「それなら今日会おうぜ。すぐに迎えに行く」
「……え?きょ、今日?」
「そうじゃねえと、お前のことだから期間が開くと怖気付いてしまいそうだしな」
「……そ、そんなことないし」
「まあ、本音は早く有希に早く会いたいだけだ」
「……っ、」
直球過ぎるその言葉がどれほど俺の心をときめかせて揺さぶっているのか、神田さんはちゃんと理解しているのだろうか。そんな嬉しいことを言われてしまうと、たとえどんな用事があろうとも俺は神田さんと会うことを優先してしまうと思う。
「有希だって早く俺と会いたいんだよな?」
電話越しの言葉だから勿論表情は見えないはずなのに、それでも神田さんのその言葉と言い方だけで、今の神田さんがどんな表情をしているのかは安易に想像がついてしまう。……そして悔しいことに、それは一ミリたりとも間違ってはいない。
「……う、うん」
「ふっ、可愛いな」
だから素直に頷けば、神田さんはそんなことを言ってくれた。
昨日までなら電話で話せているだけでもとても嬉しいはずなのに、欲張りな俺はもう電話だけでは物足りないと感じてしまっている。早く神田さんの顔を見ながら、直接お話をしたい。
そう思った俺は、迎えに来てくれると言ってくれた神田さんに、待ち合わせ場所を告げたのだった……
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