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ぬるあまい

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薫にもそしてワンコ会計の宮田白雨さんにも迷惑を掛け続けたこと三日間。つまり俺はそれまでずっと熱を出して寝込んでいたということだ。
初日俺がワンコ会計さんに迷惑を掛けて以来、薫は俺が何を言おうとも「自分も学校を休んで柳の看病をする」と言って聞かなかった。薫が俺のことを心配してくれているのはとても嬉しいけれど、迷惑を掛けて申し訳ないという気持ちもある。
戸惑いながらも薫の申し出に甘えていると、会計さんも俺の部屋に来てくれてお見舞いに来てくれたのだった。
……まあ、薫がすぐに追い返していたから直接会計さんには会ってないのだけれども。後でちゃんとお礼言っておかないといけないな、と思いながら俺は久々に制服に袖を通した。

「柳、本当にもう大丈夫なのか?」
「ああ、うん。お陰さまでもう熱も引いた」
「…無理そうならすぐに言えよ」
「ありがとう、薫」
「はっ、この礼は高くつくからな」

ニヤリと笑う薫もまた一段と格好いいと思うけれども、いつ見てもこの薫の笑い方は悪どい。というか薫は全然ツンデレ要素とかないよなあ。「べ、別に心配して言ったわけじゃねえんだからなっ。俺に迷惑が掛かるのが嫌なだけだからな!」という台詞を少しだけ期待していたのに。

「…柳?」
「ああ、いや、薫は全然ツンデレキャラじゃないなぁと思っただけ」
「…ツンデレ?」
「あ、ごめん。こっちの話」

昨日ずっと寝ているのがあまりにも暇だったから、薫が寝ていたときにこっそりと薫のBL本を拝借して読んでいたなんて言えない(腐男子ツンデレ攻めの話だった)。…本なんて読まずに熱出してるときは寝てろって怒られるに決まっているからな。

「…よく分からねえが、俺がツンデレたら気持ち悪いだろうが」
「そうかな?意外と似合うと思うけど」
「ふーん、そんなもんか?」
「うん」
「まあ、いい。早く行くぞ」
「ああ、分かった。」

鞄を手に取り、部屋から最後に出た俺が鍵を閉める。
食堂で朝飯を食べて、いつも通りにそのまま学校に向かうつもりで寮の廊下を歩き出せば、隣に居る薫が手を握ってきた。

「…薫?」
「手」
「…?」
「手を繋いで行くのが決まりだったろ?」

再びニヤリと笑った薫を見ながら俺は、「ああ、そうだった」と思い出した。

「三日やそこらで忘れるな、馬鹿」
「悪い悪い」

謝りながら薫と同じように俺も薫の手を握る。
同じ男なはずなのに、何故だか薫の手の方がゴツゴツと骨ばっていて大きいような気がする。それが少しだけ癪に障るけれど、前に薫が「柳の手って綺麗だな」って褒めてくれたのを思い出しながら俺は笑った。
いきなり一人で笑い出した俺を、薫は不思議そうに見てくる。

「どうした?」
「いや、…腐男子攻め、流行るといいな」
「柳が協力してくれれば楽勝だ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」

隠さず堂々と手を繋いで寮の廊下を歩く俺たちを、傍から見た人達はどう思っているのだろうか。すれ違いざまにキャーと歓喜の声を上げながら通っていく人達を見ながら、薫はくくくっと喉の奥で笑っているし。なんか変な感じだ。
俺はまだこの学校に編入してきて日が浅いからなあ。まだまだこの学校のことは知らないことでいっぱいだ。

これからも薫に教えてもらえば大丈夫か。
そう思いながら俺は更に強く薫の手を握った。

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