甘えたがりなニート異世界に行く

ぬるあまい

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「早く帰らないと母さんも父さんも心配するだろうね」
「ああ。連絡のしようがねえし、どうにかして帰るしかねえな」
「ナビアプリも使えないしさぁ、スマホが使えないってこんなに不便なんだ……」

あてもなく兄ちゃんと歩いて行くのだが、一向に人に会える気配がない。というよりも見慣れた光景が広がり続けるだけなのだ。……なんで階段から落ちただけで、こんな状態になっているんだろう。
―――これって、なんか…………。

「まるで異世界に飛んできたみたいな状況だよね」
「…………あ?」
「ほら、最近よく流行ってるじゃん。ラノベとかアニメとかでさ。……あー、まあ兄ちゃんはあんまりそういうの見ないから知らないかぁ」
「見たことはねえけど、知識くらいはある。ただ何をふざけたこと言ってるんだと思っただけだ」
「で、でもさぁ、なんか似てるじゃん?」
「……そんなもん有り得ねえよ」
「まーったくもう。夢がないなぁ。想像するくらいは別にいいじゃんか」

もし異世界に迷い込んでしまったというなら、俺は是非とも豪華な魔法を使ってみたい。それで異世界から来た最強の勇者様のようにチヤホヤされてみたい。強いモンスターをバシバシと大量討伐して皆を救ってあげるのだ。…………と、まあ。現実世界では何も充実していないから、これくらいの妄想くらいは許して欲しい。

「兄ちゃんはさぁ、なんでも願いが叶うとしたら何を望む?」
「……なんだよいきなり」
「べつに。ただの興味本位だよ」
「…………俺は、お前が誘拐された日に戻ることだな」
「え?」
「あの日に戻って全てをやり直す」

ただの軽い気持ちで訊ねたことだというのに、思った以上に真剣で重たい内容が返ってきて少し戸惑ってしまった。

「……うーん、別にそんなことで貴重な願い事を使う必要ないじゃん。俺のことじゃなくて、もっと自分のために使いなよ」
「別に何に使おうがそれも俺の勝手だろ」
「……まあ、そうだけどさぁ。その頃のことは俺は何も覚えてないけどさ、俺は今のままで何も不便も感じてないよ。こうして無事に兄ちゃんの傍に居られてるわけだし」

こうして自分が誘拐された時のことを話すのは初めてかもしれない。どうやら夏祭りの途中で攫われたらしいのだが、兄ちゃんがそんな苦しそうな表情をする必要なんてないのに……。

「……えへへ、だけど兄ちゃんが俺のこと大好きだということがよく分かったよ!」
「…………なんとでも言ってろ」
「いつもありがとうね」
「……お礼を言われることはなにもしてねえよ」

それでも俺はいつも気遣ってもらえて感謝してる。普通の兄弟関係とはかけ離れた関係かもしれないけど、兄ちゃんが俺の兄ちゃんで良かった。
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