真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

文字の大きさ
17 / 41
能力発現

梅雨入り Ⅷ

しおりを挟む
 私は、友人の服に袖を通すと風呂場をあとにした。ほんの少し、私の身体には大きめの直子の服は、ちゃんと直子のにおいがする。京香いわく、ダウナーな香り、らしい。直子は、私は危険ドラックじゃないです! なんて怒ってたけど、京香の表現はあながち間違ってはいないかもしれない。確かに、荒んでいた心が静められるような気がする香りだ。

 そんなことを、ぼんやりと考えながら歩いていても、直子のいる居間まで、まだ後半分くらい木造の廊下は続いていた。勿論、こんなに広い邸宅に、直子は一人で住んでいるわけではない。両親と祖父母、兄二人と住んでいる。しかし、両親と祖父母は、今日は夜遅くまで、県のお偉いさんとの付き合いがあり、兄二人は、地元の国立大の医学部に通っていて、図書館で勉強してから帰ってくるそうだ。本当は、もっと上の大学を目指すことも可能だったらしいが、大学の学長とも城ケ崎家は縁があったため、愛姫に残ったという。もっとも、京香はそれが嫌で、文系へ進んだ。流石に親も医学部でなければ、偏差値的に他の都道府県への進学を許してくれるから、と。どうせ卒業後は、愛姫に帰らされるのだから、大学くらいは都市圏へ行って、社会を知りたいそうだ。由緒ある家柄というのもなかなか大変なのだろう。

 そうこう考えているうちに、やっと、居間まで着いた。軽くノックしてから、襖をスライドさせる。

 教室二つ分くらいの広さを持つ畳張りの長い長方形をした部屋で、直子は一人、何をするでもなく座っていた。前に何度か、京香と二人で泊まりにきたときもここを使わしてもらった。

「どう? 温まりました?」
「ええ。良いお湯加減で」

 私が、お堅い言葉を返すと、直子は、それはよかった、とほほ笑む。

「直子、そこのドライヤーかしてくれない? 一応、タオルでふきはしたけど、髪が濡れたままで」

「ああ、すみません。私も、髪くらいは、乾かそうとドライヤーを使っていたのでした」
「悪いね、私だけシャワー借りちゃって」
「いえいえ。私は、どこかの誰かさんと違って、ちゃんと傘を差していたので、濡れたのは、髪と制服くらいですから」「さ、ここにお座りください」

 直子は、正座している自分の前を、手でさす。

「え、へ?」
 私は、気の抜けた返事をしてしまった。
「だ・か・ら、私が髪を乾かしてさしあげます!」
「ん、や。自分で出来るって」
「いいから、私に任せてください」

 直子は、さ、と自分の太腿をパンパン叩いている。こうなると、直子は、テコでも動かない。変なところで強情だから。ここは、私が折れるしかなさそうだ。気恥ずかしいったらありゃしないけど、別に嫌なわけじゃないし。

「もう……。分かったわ。おねがいします」
「あら? 小崎さんなら、もう少し食い下がると
思いましたが。今日は、素直ですね」
「何言ってるの? 私が食い下がったら、直子は、もっと食い下がるんじゃない」

 ふふっ、と笑う直子の前に、すん、と拗ねて勢いよく腰を下ろしてやった。思いっきり、お尻を打ち付けちゃったけど、畳は柔らかくて大丈夫だった。

 直子の冷たい指が、濡れた私の髪に触れる。指は、川に支流を作るかのように、肩より下まで伸びる黒髪を梳いていく。
「まったく。嫌になるほど綺麗な髪ですね」
 コードレスタイプのドライヤーのスイッチを点ける直子。

 ゴーーーーーーー。

「流石は、名門、城ケ崎家のコンディショナーといったところね」

 私が冗談めかして言うと、グーで、頭をコツンとされた。

「そういうことを言っているのじゃありません」

 それから、しばらく会話はなかった。ドライヤーの微風だけが静かな部屋に響く。外を見やると、相変わらずの大雨だが、厚い窓は立派なものなのだろう、雨音を完全に遮断している。屋敷には外側にも立派な木造の廊下が通っているが、その端っこの方には雨水が沁みて濃い色に変わっていた。

 ぼんやりと日本庭園を眺めていると、池の奥に、青と紫のアジサイが咲いているのに目がいく。満開のはずのソレを、何故だか綺麗だとは思わなかった。

 アジサイに興味が失せた私は、うつむき、畳をじっと見る。イグサの香りと、心地よいドライヤーの風、柔らかい直子の指。幸せだと感じてしまう。それが、辛い。私はきっと、その幸せを享受する資格を、とうに失くしているから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。 こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?! 私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。 バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。 その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。 鬼が現れ戦う羽目に。 事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの? この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。 鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます! 一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。 はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...