真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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心象世界

廃墟の上で ⅳ

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 すると、その閉じた目を無理矢理に開かれた。
 は?

「あー、やっぱりか。思った通りだ」
 眼前には、私の目を覗き込むような峰子の目があった。大きな涙袋と、左目の下にある小さな黒子が、彼女の濡れたような瞳を、より情欲的に引き立てた。

 何が起こっているのか分からない。すると、峰子は、ぱっと手を離した。

「魔眼だね、こりゃ」  

 一体、峰子は何を言っているのだろう。

「どうした、大丈夫か? 急に体を捩らせたりしていたけど、それになんか、顔も赤いぞ?」

 心配そうに私の顔を窺う峰子に背をむけると、一人で変な方向に盛り上がっていたのを悟られないように、落ち着きを装って尋ねる。

「魔眼ってどういうこと?」

 変に舞い上がっていた自分が恥ずかしく、普段なら到底受け入れられないような魔眼などという単語を、皮肉にも、今は、冷めた気持ちで咀嚼できた。

「特別なことじゃないよ。能力が憑依した部位が真梅雨の場合は、目であったってだけだ。多くの場合は、人間を一つのまとまりとして、その一つのまとまりとしての人間を対象に能力の憑依は起きる。私や、海斗もこのタイプ。ただ、たまに、君みたいに身体の一部分にだけ能力に憑依される者もいる。それだけの違いさ。形式的に違っているだけで、能力や憑依者の身体に差異が認められるわけでは無い。ただ、後者の場合、その部位に関する言葉を能力の名前に組み込む必要があるんだ。組織の決まりでね。
 それで、さっきまでの話の続きになるわけだが、何か眼に関する単語を連想して、その語を使った能力の名前を考え付くかな?」 

「そんな、いきなり魔眼とか言われても……。それに、よく分かんないし」
 メデューサの目を見たら、石になっちゃうみたいな話は聞いたことが、知っているとしても、せいぜいそのくらいだ。

「じゃあ、こっちも私が名前を考えてみたんだけど、聞いてくれるかい?」
 何故だか、グイっと肩を引き、嬉々として顔を近づけてくる峰子。

「はいはい、聞くくらいならいいわよ。はい、どうぞ」

「二倍シ、っていうのはどうだい?」

「ニバイシ?」 峰子の言葉の意味が分からずに、妙ちくりんな声を出してしまう。

「何、どういう意味よ、ニバイシって。庭石の親戚か何かかしら? そもそも、どんな字をあてるの?」

「漢数字の『二』に、倍数の『倍』。それに、シの字は、死ぬの『死』と視力の『視』のダブル・ミーニングになっている」

 ダブル・ミーニングとは、なかなか凝ったことをしてくる。
 しかし、疑問が浮かんでくる。今の話だと、二倍死っていうのは、なんとなく分かる。私が、生物を殺せば“死念”が発生し、発生した“死念”で、相当の生物をもう一度殺せることから、二倍死なのだろう。ただ、二倍視の方は、よく分からない。私の能力は、視力が二倍になったり、何かが二倍に見えたりするものでは無い。単に、眼(め)に関する単語を入れる必要があった為に、無理にこの漢字を当てたてたのだろうか。

「しめす偏の方の、二倍視の方は、どういう意味なの? もう片方は、推測がつくのだけど」

「それは、君が一つ大きな思い違いを」
 峰子の言葉の途中でトランシーバーが、再び音を出して震えた。

「なんだい? 海斗」

『いや、僕が合図してから、それなりに時間が過ぎましたが、いっこうにテストが始まる様子が無かったので、何か問題でもあったのかと思い』

「そういうことか。すまない、ただ無駄話をしてただけだ。もうすぐ始める」

『それなら、いいんですけど。では、さような』

 江藤の言葉の途中でかなり強引に通信を切る峰子。心配して電話をかけてきてくれた江藤が少しだけ不憫な気もする。

「というわけだ、真梅雨。君の疑問には、明日の朝にでも、ブロンテの話のついでに解決しよう。悪いね、能力に関する違和感が、使用感にも云々みたいな話をしておいて。まあ、私たちと出会ってから、かなり能力については理解が深まったろうから、以前よりは上手く使いこなせると思うよ」

「二倍シ、疑問は残るけど、とりあえずは採用しといてあげる。それに、確かに、以前より上手く使いこなせそうだわ」

 そう言うや否や、私は、テスト開始のボタンを押すと同時に、ビルから飛び降りた。途中、遠くの海に棲むジンベエザメの尊い犠牲と引き換えに、膨大な量の青白い“死念”が発生し、半透明であるとは言え、一瞬前が見えなくなる。しかし、貯蓄すると、一気に視界が晴れた。ここまでで、二階層分消費したくらいか。私は、“死念”を展開させ減速すると、空中で体制を整え無事着地。予定よりは着地の勢いが強く、足裏が少し痛むが、初めてにしては上出来だろう。思った通り、上手くいってよかった。

 さあ、かかってきなさいよ。いきなり、変なことに巻き込まれることになった私の不満、思いっきりぶつけてやるんだから。
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