真梅雨怪奇譚 ー 梅雨の日に得た能力

七槻夏木

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心象世界

戦闘開始

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「これで、二十八人目、と。あと、二人ね」

 大型ビルの二階、小崎真梅雨は、腕の内側につけている正の字に、黒の油性ペンで一本、棒を付け加える。完成した正の字が五つに、プラス三本。残り二人を倒せば、三十人を撃破したことになり、はれてミッションクリアだ。ペンは、撃破数を忘れない為に海斗が渡してくれておいたもので、女子的には、こういう用途なら水性の方が嬉しいけれど、ここは夢で、いくら体に落書きしようが起きたら消えているので気にしないことにする。海斗には、返り血で消えても困るだろう、と言われたが、真梅雨は、“死念”で返り血は防いでいたので、その心配は杞憂だった。

「でも確かにこの能力、相手を殺すときの演出が、少々派手過ぎるのが困りものだわ」

 私の能力の射程が広めで、相手の装備が銃器であるために、今回は、自ずと遠方からの撃ち合いが多くなるため、血飛沫がこちらまで飛んでこなかったり、飛んできても少量であるために、完全に“死念”で防げてはいるが、もう少し戦闘の距離が近づけば、“死念”でも、完全には返り血を防ぎきれてはいないだろう。

 こんな、汚れなんかのことを考えるくらいには余裕があり、人が死ぬ(それもグロテスクに)瞬間を見る恐怖は、真梅雨から完全に消え失せていた。不謹慎だと思うかもしれないが、敵のビジュアルのクオリティーは、海斗に頼んで、マネキンレベルにしてもらったし、こっちは、三十近くの敵兵を倒さなくてはならないのだ、いちいちオドオドしていても、どうしようもない。
 索敵のため、とりあえず見晴らしのいい屋上に出ようと、真梅雨が階段に向け歩いていく途中、奇妙なものを見つける。

「何これ?」
 不思議な形をした鉄の塊は、さっき仕留めた敵兵の所有物だったのであろう、血液で真っ赤になっていた。真梅雨は、それを拾い上げ、注視する。

「あ、これ、手榴弾ってやつだっけ?」
 こんな物騒な物、もちろん実物は見たこと無いが、スパイ映画か何かで知識はあった。確か、このレバーみたいなのを握ったまま、栓を抜いて投げればよかったはずだ。

「いいもの持ってるじゃない」
 真梅雨が五階まで登ると、空が見えた。それより上の階は、崩れ落ちてしまっていて存在していなかった。実質、ここが屋上だ。
 真梅雨は、恐る恐る栓を抜き、対角線上に手榴弾を投げる。手榴弾は、真梅雨の狙った通りの放物線を描き、床に落ちて炸裂した。大型のビルであった為、爆心地から周囲数メートルに傷がついただけで、建物自体が揺れたり、逆に位置取っていた真梅雨の方まで爆風がくることはなかった。
「よかったわ。思った通り、大した威力は無くて」

 手榴弾がどれほどのエネルギーかなんて知らなかったけど、人が手で投げて使う以上、あまり爆発の力が大き過ぎたら使用者も巻き込まれることになりかねないため、ビルが崩れるほどの威力は無いと踏んでいたのだ。

 もちろん、真梅雨がこんなことをしたのは、手榴弾の威力に興味があったわけでは無い。
 銃声が聞こえるとともに、真梅雨が背にしていた、かつて今は無き六階を支えていた柱に、銃弾の当たる音がした。 

「来たわね」
 真梅雨が発砲音のした方角を見下ろすと、道路を挟んで向かいのビルの陰から、敵兵が二人、こちらに向け射撃していた。

 敵兵は、真梅雨の姿を見つけると攻撃してくる。その為、手榴弾の爆発する大きな音で、真梅雨の位置を教え、自分で索敵する手間を省いたのだ。真梅雨が、我ながらに賢い方法だったと自画自賛しながら、相手の戦力を観察している間にも、敵は発砲を繰り返すが、そもそもかなりの距離があるために、かなり弾がブレており、運よく真梅雨の方へと伸びてきた弾も“死念”によって完全に防がれた。

 このままでは埒が明かないと考えたのか、敵兵は一度、ビルの裏へと完全に姿を消す。二倍シの能力で飛ばす“死念”は、追尾の効果があるが、それは永続的に続くものでは無く、あくまで、相手が、すぐ側の遮蔽物に身を隠した程度の時に、少し追跡するくらいのものなので、この距離だとビルの裏まで“死念”を追尾させるのは厳しい。真梅雨は、自身が距離を詰めるしかないと諦め、ビルの五階から飛び降りる。

 さっき確認したところ、相手の銃は、ライフルと狙撃銃だった。どちらも、中遠距離向けの銃だし、近接戦に持ち込んでも大丈夫なはずだ。

 最後の二人をサクッと倒して、はやいとこ終わらせちゃいますか。真梅雨は、勝ちを確信して微笑んだ。
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