この学園では個性的なキャラを演じてください、と言われたので「遅刻」ばっかしてみた。

七槻夏木

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厨二と作家とシャーロキアン

自動販売機の前で ⑤

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 そのあと、私と登葉ちゃんは未子ちゃんに言われるがままに、部屋に案内された。未子ちゃんの部屋に入るのははじめてだ。

 部屋には、大きな本棚にぎっしりと本が並べられている。試しに一冊目を手に取ると、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」だった。どうやら、文学界の巨匠がアイウエオ順に並べられているみたい。ヘミングウェイなど、海外の有名どころも見受けられる。

「半端な本屋よりも素敵な書棚ね」

 そう言って登葉ちゃんは、艶のある唇に手をあてて舌鼓を打っている。

 登葉ちゃんは川端康成を何冊かと、漱石の「吾輩は猫である」を借りていた。やっぱり、猫好きなんじゃ……。

 しばらく経って、私たちは炬燵を囲む。

「それで私たちに話ってなにかな?」

「うん……。本当は後井さんが学級委員だから話そうと思ったんだけど」

 え、。何かごめんなさい。未子ちゃんの悪気のない言葉に少々傷つく。

「私、友達少ないから、あんまり頼れる人が居なくて。それで後井さんに相談しようと思ったの。忙しいのにごめんなさい。佐藤さんも巻き込んじゃってごめんなさい」

「いえ、全然構わないわ。本も借りちゃったし」

「うん。私も、全然迷惑だなんて思ってないよ!」

 なんたって、勝手について来ちゃっただけだしね。とほほ。でも、お前呼んでないのにみたいな雰囲気にならなくて良かったよー。

 相談というのは、未子ちゃんのもう一つのキャラである、小説家についてだった。

 キャラというのは一人一つじゃくても大丈夫。最低一つだけど、上限は決まっていない。器用さをアピールしたい人がちょっとした特技をいくつもキャラとして申請したり、優秀さや文武両道をアピールしたい人が勉強やスポーツなど得意なことを何個か申請したりしている場合もある。まあ、殆どの人は一つか二つくらいだと思う。

「なるほどね。貴方の言いたいことは分かったわ。つまり、要約するとこうね。貴方は、本が好きで自分でも書いてみたいと思い、小説家とキャラを申請した。そして、一、二年生の時に何作か書いてどれもニ次審査や三次審査は突破した。しかし、賞を取るまでは至らなかった」

 うんうんと真剣に頷く未子ちゃんと、かっこよく要約する登葉ちゃんを羨望の眼差しで見つめる私。私達の反応を確認して、登葉ちゃんはさらに続ける。

「そして、あなたは今、かなりの出来の日常の謎というジャンルの作品を書いている。今回は、もしかしたら賞に選ばれることもあるかもしれない。しかし、最後に何か大きな話題が欲しいがそれが思いつかない。締め切りは二週間後。その賞が作品との相性も良く、賞に入る確率も高い。そこで、私達に何か案を挙げて欲しい。そして、作品が出来上がったら意見が欲しい、と」

 登葉ちゃんの無駄のない完璧な要約に私は、パチパチと手を合わせ音のしない拍手を送る。

「うん。ありがとう後井さん。もしも、もしも私が賞に選ばれたら、他のクラスに四組が差をつけらるかなって思って。それに……」

「それに?」

 私は、カクッと首を傾げて続きを促す。

「小説家になるのは、私の小さい頃からの悲願だから」

 未子ちゃんの口先を、登葉ちゃんはじっと見つめている。大きな瞳はずっと見ていると吸い込まれてしまいそう。その視線を受ける未子ちゃんのつぶらな瞳も、不安に揺れてはいるけど、そこには確かに真剣さと決意が見て取れる。未子ちゃんは尚も言葉を続ける。

「私、この学校に来るまで、本だけが友達だった。それで、将来、小説家になりたいと思って。自分には大き過ぎる夢だっていうのは分かってる。でも、どうしてもなりたくて。この学校に来たのもそのためなの。もし、最優秀クラスに選ばれたクラスの生徒が、小説を書けば必然的に注目を集められるんじゃないかって。実際に、最優秀クラスになった先輩の中からは、役者じゃなくて音楽やその他の方面で活躍している人もたくさん居るでしょ。だから、どうしても最優秀クラスに私は、なりたくて。それに、みんなにもなって欲しい」

 心の内にある感情を大切に一つずつ形にするように、未子ちゃんは言葉を紡ぐ。

「地味で、目立たない私とも、四組のみんなは仲良くしてくれたから。私に無理の無い、適切な距離感でいてくれたから。だから、私、四組のみんなの力になりたくて」

 その瞬間に、胸がぎゅっと締まるような想いに駆られる。未子ちゃんが、四組のことをそんな風に思っていてくれたなんて。

 未子ちゃんが話す間、沈黙貫いていた登葉ちゃんが、ふぅーっと息を漏らす。そして、一度ゆっくりと瞑目してから目を開ける。

「分かったわ。私でよければ力になりましょう。勿論、佐藤さんも、手伝ってくれるわよね?」

「うん!勿論だよ」

 勇気を出して、素直な気持ちを私たちに伝えてくれた未子ちゃんの力になれるなら、それ以上のことはない。私は、元気よく返事をした。
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