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厨二と作家とシャーロキアン

自動販売機の前で ⑥

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 私と登葉ちゃんは未子ちゃんにおやすみの挨拶をすると部屋を出た。登葉ちゃんは、川端康成と「吾輩は猫である」を両手で胸に抱えている。

「さて、大見得切って力になるとは言ったものの、具体的に何をしたらいいのか、まだ、方向性も見えてこないわ」

「でも、小説とかの賞ってそんなに簡単に貰えたらするものなの?」

「いいえ、そんなことはないわ。何年も書き続けてもデビューできるのなんて一握りという世界よ。でも、今回はあり得るかもしれないわね。九院さん、一、二年生の頃から書いていて何作も三次選考あたりまで行ったって言ってたでしょ。それは、地力と才能のある証拠よ。今回はかなり自信があるとも言ってたし、彼女の性格上簡単にそういうことは言わないでしょうから」

 私と登葉ちゃんはゆっくり歩きながら話す。

「でも締め切りが二週間後となると、球技大会との並行作業になるわね」

 忙しくなりそうな予感に、登葉ちゃんは手をこめかみの辺りにあてがい、遠い目をした。
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