元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い

雲乃琳雨

文字の大きさ
14 / 40

14、王家の誓い

しおりを挟む
 翌日も馬をつないで視察の続きをした。ニナリアが薬草の本を見たがっていたので、図書館や本屋にも行った。
 この街で薬草を扱っているのは魔法使いなので、魔法使いの店にも寄った。魔法石もそこだけで扱っている。長い黒髪にメガネの青年魔法使いソアが、ニナリアの薬草の先生になってくれることになった。
 魔法使いの店を出るとアレンが東側地域の話をした。

「街の中心部から外れると庶民向けの店がある。農村に近い東側には、温泉の大衆浴場や食品を無駄にしないための買取店や、農産物の加工所がある。今度来たときはそちら側を回ろう」
「……昨日と今日街を回って、アレンがみんなのことをよく考えているのが分かりました」

 アレンは自分と年齢が変わらないのに、とても領主らしいと、ニナリアは感心した。だからこそ、聖剣もアレンを認めたんだろうと思った。

「傭兵時代に、街を転々としていたことが役に立ったな」

 アレンは教会の前で足を止めた。

「最後はここだ。この教会には、ラディー王家の墓がある」
「ラディー王家?」
「ラディーという家名は、王国時代の王家の名だったんだ。それまで俺は師匠の家名を名乗っていたが、褒賞をもらうことになって、王子が配慮して王家の名に変えるように言ってくれたんだ」
「そうだったんですね!」(王家の家名だったとは)

 二人で教会の中に入った。アレンは出迎えた司祭と話をすると、司祭は礼拝堂から出て行った。
 アレンとニナリアは祭壇の前まで歩いた。床には四角い墓標が埋まっている。正面の丸い装飾のステンドグラスから、優しい日差しが届いていた。

「ここに眠っているのは最後の王だ。領地民が戦いに敗れた王を弔うために、教会に埋葬したんだ。
 王家の名を引き継いだので、二人で挨拶に来た」
「はい」
「——次のラディーは、また別の者に任せればいい」

(それは多分、私たちが子供より長生きしてしまうことだ。アレンは優しいから、きっと耐えられないだろう。私だってそのときになれば、多分同じだ)
(アレンと二人ならこれからも大丈夫)

「私たち二人で、この地を治めていきましょう」

 ニナリアはアレンの両手を握る。

「ああ」

 王の墓標の前で、そのまま二人とも下を向いて目をつむった。



 翌日、ニナリアはアレンと共に、城の野外にある騎士団の訓練場に来ていた。体の大きい男たちが、武器で訓練をしていた。
 アレンは騎士たちを招集する。旅に同行していた騎士もいたが、紹介されるのは初めてだった。

「皆に紹介しよう。妻のニナリアだ。明日の魔獣の森の見回りに、薬草採取と治療班として同行する」
「ニナリアです。よろしくお願いします」

 ニナリアが挨拶すると、騎士団の者は口々に話し始めた。

「やっと、紹介してくれましたね」
「領主さまは、とても大事にされていましたから」
「よろしくお願いします。奥様!」
「わぁ、近くで見てもかわいらしいですね」
「あのアレンが、夢中になるのも分かるな」

 ニナリアは圧倒される。呼び捨てにしているのは多分、傭兵仲間だろうと思った。

「おいお前ら、ニナリアは騎士に慣れていないから、驚かせるな」
「あ、そうですね」

 そう言ってみんなが一瞬気を遣うのが分かる。きっと、ニナリアの出自がゴシップ紙などで、ここまで流れてきているのだろう。ニナリアは少し、居たたまれなかった。

「以上だ。訓練に戻れ」

 アレンは騎士たちに指示すると、ニナリアを治療班のもとに連れて行った。訓練場の近くにある城の治療所だった。ここには三人の男性がいた。みんな、小柄だったり、細かったりと騎士の者たちとは体つきが違っていた。アレンはニナリアを紹介すると指示を出した。

「では、ニナリアに仕事の内容と治療の仕方を教えてやってくれ。頼むぞ」
『はい』

 三人は同時に返事をする。アレンがいなくなると、三人は自己紹介をした。二人は治療所を出て自分の仕事に戻っていった。紹介するのでここで待っていたようだ。残ったユアンはニナリアと背も近い少年だ。
 まだ若いのに、しっかりしていて、えらいなとニナリアは思った。

「治療班は、治療所の人だったんですね」
「はい。この街には医者が二人しかいないので、城の看護などは治療班がになっています。医者が必要であれば呼びに行くか、診療所まで運んでいます」

 ストラルトは領地は広いが、人は少ないので医者も少ない。
 治療所は隅に治療用のベッドが一つ置いてあり、他に椅子が複数と机が二つ、薬や道具の棚があった。隣の部屋が看護所で、看護ベッドが二つある。

「診療所は、街の中心部と農村寄りの東側にあります。街から離れた農村には領主様が、村長の家に薬を置くようにしています」
「そうなんですね!」

 ニナリアは、アレンが村のことを考えてくれているのでうれしかった。

(そういえばワレントでも医者はいなかった。父が作る薬草を、村長さんはとても喜んでいたっけ)

「では傷の手当からお教えします」
「はい!」

 ニナリアもやる気を見せた。傷の手当から、打ち身、骨折、脳震盪と、任務で想定される怪我の処置を、メモを取りながら学んだ。
 ユアンは棚からリュックを一つ取り出して、中身を机に出した。中には、ナイフやハサミ、包帯、布、綿、薬、水筒、非常食などが入っていた。

「こちらが、治療班の装備です。拾った添え木の端が尖っていたら、ナイフで叩いて潰してください。
 奥様は薬草採取をされるそうなので、装備はこちらで持ちます」
「はい」

 ニナリアは魔獣のことを聞いてみた。

「魔獣には角が生えてますよね。私は小型のものしか見たことがなくて」
「はい。普通の動物の姿をしているものは、角で見分けられます。それ以外は、魔獣にしかいない形態のものがいます。あと、防御の魔法石は効きませんのでご注意ください」
「え⁉」(今さらりととんでもないことを……)

 ユアンが魔鉱石と魔獣の説明をする。

「鉱物や石に魔力があると魔鉱石になります。魔鉱石に瘴気が当たると魔獣になります。魔獣と瘴気や魔力は相性がいいので、吸収されてしまうんです。そのため、直接攻撃が有効なんです」
(なんと! ——アレンは、キノコ狩りみたいな感じで誘ってくれたけど、……ま、まずいのでは)

 ユアンは、焦って黙り込んでいるニナリアに気が付いた。

「奥様には騎士が付きますので安心してください。僕たちも訓練を受けていますから。見回りのときはいつも治療班は二人います」
「……はい。そこまでして、薬草を取りに行くのが申し訳ないです……」
「それは、魔獣の森の植物には魔力があって、薬草の効果も高いんですよ。それで領主様も、奥様が喜ばれると思ったんじゃないでしょうか」

(そうなんだ……)

 ニナリアは納得して、気分が明るくなった。

「頑張ります! あと、ニナリアでいいですよ」(奥様はうれしいけど、やっぱり恥ずかしいというか)
「では、ニナリア様で」
「はい」(様はしょうがないよね。みんなにも名前で呼んでもらおう。今更だけど。……どっちでもいいか)

 道具の中に、コルクでふたをした小さい瓶が、三つあるのに気が付いた。中には透明な液体が入っている。

「これは何ですか?」
「聖水です。聖水は教会で祈りをささげた水です。瘴気に当たったときにこれをかけると、瘴気が消えます」
「おお~」(聖水か、初めて見た)

 一つ瓶を取って、間近で見た。

「切り傷にも効きますが、噛まれてしまうと気休めにしかなりません……。瘴気は毒と同じですから」
「……。小型の魔獣も同じですか?」
「いえ、小型の魔獣は瘴気が少ないので、熱が出るぐらいですね」
「そうですか」(噛まれなくて良かった!)

 ニナリアは瓶を机に戻した。その瓶だけが、微かにキラキラ光っていたが、二人は気づかなかった。
 この後ニナリアは城の者に、どちらでもいいですがと付け加えて名前呼びにしてもらった。メイドたちは喜んで名前呼びに換えた。騎士たちも喜んでいたが、アレンが嫌な顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された地味なメイドは和菓子職人の記憶に目覚める 〜王子たちの胃袋を『あんこ』で掴んだら、王宮で極甘に溺愛されています〜

あとりえむ
恋愛
「起きなさい、この穀潰し!」 冷たい紅茶を浴びせられ、無実の罪で男爵家を追放された地味なメイド、ミア。 泥濘の中で力尽きようとしたその時、彼女の脳裏に鮮やかな記憶が蘇る。 それは、炊きたての小豆の香りと、丁寧にあんこを練り上げる職人としての誇り…… 行き倒れたミアを救ったのは、冷徹と恐れられる第一王子ミハエルだった。 バターと生クリームの重いお菓子に胃を痛めていた王族たちの前に、ミアは前世の知恵を絞った未知のスイーツ『おはぎ』を差し出す。 「なんだ、この食感は……深く、そして優しい。ミア、お前は私の最高のパートナーだ」 小豆の魔法に魅了されたミハエルだけでなく、武闘派の第二王子やわがままな王女まで、気づけばミアを取り合う溺愛合戦が勃発! 一方で、有能なミアを失い、裏金のカラクリを解ける者がいなくなった男爵家は、自業自得の崩壊へと突き進んでいく。 泣いて謝っても、もう遅い。 彼らを待っていたのは、処刑よりも皮肉な「全土小豆畑の刑」だった…… これは、一粒の小豆から始まる、甘くて爽快な逆転シンデレラストーリー。 あなたの心も、あんこのように「まあるく」癒やしてみせます。

【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。

まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。 理由は、お家騒動のための避難措置である。 八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。 ★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。 ☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。 ☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

【完結】氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~

雨宮羽那
恋愛
 魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。  そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!  詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。  家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。  同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!? 「これは契約結婚のはずですよね!?」 ◇◇◇◇  恋愛小説大賞に応募しています。  お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"  モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです! ※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。 ※表紙はAIイラストです。文字入れは「装丁カフェ」様を使用しております。 ※小説内容にはAI不使用です。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

第四王子の運命の相手は私です

光城 朱純
恋愛
闇の魔力の持ち主が世界を滅ぼすと、見下される国カイート王国。 生まれてきた者は隠され、貶められ、蔑まれ、まともな生活を送ることは許されなかった。 圧倒的なその力に、いつ呑み込まれるかわからない闇の魔力の持ち主を救えるのは、聖の魔力の持ち主のみ。 そんな国に生まれ落ちた第四王子は闇の魔力を持つ。 聖の魔力を持って生まれた相手に恋をして、側にいることが叶えば、その愛はとどまることを知らない。 やがて運命の相手との力は国を守り、民を助ける。 聖と闇。その二つの魔力を持つ者がお互いを信じ結ばれた時、その力は何倍もの大きさになって国に繁栄をもたらすだろう。 闇魔法の使い手である第四王子。聖魔法の使い手の侍女エラ。運命の相手との立場を超えた恋愛のいく末はーー。 表紙はイラストAC様からお借りしました

妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付

唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。

処理中です...