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31、王宮暮らし
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ニナリアは右側の建物の前で馬車を降りると、建物の東にある客間に通された。この日は何もなく、ニナリアはゆっくり休むことができた。
次の日マリーから説明があり、ここが王子宮で王子の住まいだということが分かった。ここでも引き続きマリーとアンが世話をしてくれるということだ。
「アーシャ王女もお住まいです」
(そうなんだ!)
王女様を見てみたいと思っていたけど、会えるかもしれない。でも、体調はどうなんだろうと思った。メイドたちが、気にせず口にするということは、問題ないのかな?
「東側が王子宮で、西側が王女宮と呼ばれていますが、今は第二王子が第一王女と一緒に住んでいます」
第二王子もこちらに住んでいたが、アーシャ王女が来ることになって、王女宮に引っ越したそうだ。一番末の第三王子は、前面にあった一番大きい建物の本宮殿で、国王と王妃と一緒に暮らしている。
(なぜ呼ばれたのか、そろそろ説明があってもいいよね)
ニナリアは考えたが、その後は首都の洋装店が四店来訪した。それぞれの店が、ニナリア用の仮縫いしたドレスを二~三着持ってきていた。
旅の初日の宿泊先でも、洋装店を聞かれて二人を案内していた。
『ニナリア様がご存知の洋装店はありますか?』
『はい』
以前も服を買いながら旅をしていたので、その店に連れて行くと、採寸をされて一着注文することになった。ニナリアは初め断った。
『もってるからいいですよ』
『いえ、王子からの贈り物なので、遠慮はいりません』
『そうですか、じゃあ……』
どうも、そこで採寸した寸法を王子に送っていたようだ。着替えは、三着と念のためドレスを一着持ってきていた。今日も旅用の動きやすい普段着を着ている。もしかして、長期滞在することになるのではと、不安がよぎった……。
でもせっかく店の人が来たので、ニナリアは顔には出さずに試着を繰り返した。数が多いので、マリーとアンも片づけを手伝っていた。
四店とも違ったデザインだった。三着はエキゾチックなドレス。もう三着はフォーマルなドレス。二着はそれぞれ、ファンシー系とかわいい系のドレスだった。どれもストラルトにはない最新で、とてもかわいくてきれいなデザインだった。ニナリアは、素敵だな~と思いつつ、言われるままに着せられていた。
「できたものから、届けてください」
マリーはそれぞれに同じ指示を出していたが、一着だけ急ぎでお願いしていた。
やっと終わり、洋装店の者たちは帰っていった。宿泊先で購入したドレスも届いた。早速着替えましょうと二人が言うので、そのドレスに着替えた。
「午後から王子がお見えになります」
(やっとか。フー)
ニナリアは息を吐く。王子に会うから着替えたのかもしれないなと思ったが、すっかり気疲れしていた。昼食を済ませて小さな応接室でマリーと待っていると、暖かい日差しに目がふさがってきた。王子と初老の執事が応接室にやってきて、ドアをノックした。マリーがドアを開けて振り返ると、すでにニナリアは目をつむっていた。マリーは慌てて声をかけた。
「ニナリア様、王子が来ましたよ」
「……ああ、はい、分かってますよ。王子ですよね」
「えっ⁉」
マリーはニナリアの口ぶりに驚いた。王子はマリーに声をかける。
「どうした?」
「えっとそれが」
「王子、お久しぶりです。お話をどうぞ~」
ニナリアは目を一の字しながら、王子に手を出して促した。
「プッ」
王子はその様子に、少し握った手を口にあてて小さく笑った。ニナリアはすぐに「くかーっ」と寝てしまった。マリーは困って、あたふたしながらも説明した。
「午前中にドレスの試着がありまして、それでお疲れになったようです」
(本当にかわいい人だ)「このまま寝かせてあげよう」
きっと旅の疲れや、緊張も出たのだろうと王子は思った。王子はニナリアを両手で抱え上げると、客間に向かって部屋を出た。執事とマリーも付いて行く。部屋に着くと、マリーは靴を脱がせ、王子はベッドにニナリアを降ろして、布団をかけた。その光景を見てマリーは驚いた。
マリーとアンは、比較的新しいメイドだった。二人は別々の貴族の遠縁にたある平民で、その縁からそれぞれの家でメイドとして働いていた。王女の毒殺未遂事件が起きたあとに、王子宮で働くように命じられてここに来た。二人は、元々王子の命令で、養成されていたメイドだったのだ。
マリーは、王子の執務室にクリストファーとの肖像画があるのを見ていた。クリストファーはとても素敵な青年貴族だった。執事からは、クリストファーが王子にとって師であり、大事な人だったと説明を受けていた。
(ニナリア様はクリストファー様の子供だから、同じように接しているのね)
王子は弟王子や妹王女にも非常に優しい。きっとクリストファー様の影響だろうとマリーは思った。王子がニナリアと接することを喜んでいるのが分かる。
2時間ほど経った。ニナリアは目が覚めて、客間のベッドで寝ていることに気がついた。起き上がるとつぶやく。
「あれ、王子は?」
部屋で次の準備をしていたマリーが振り返る。
「お目覚めですか?」
「はい」
ニナリアは王子と会ったことは覚えているが、それ以外は覚えていないので焦った。
「あの、王子と会ったのは覚えているのですが、話したことは全く覚えていないのですが……」
「ああ、ご安心ください。何も話してませんから。ニナリア様が眠ってしまったので、王子が部屋まで運んでくださったんですよ。お姫様抱っこで。執事と私も一緒でしたのでご安心ください」
(うおぉぉぉぉ。何たる失態。——そこはありがたいですが、それ以外は全然安心じゃないよ~!)
ニナリアは心の中で、頭を抱えてしゃがみこんだ。ストラルトでは、ニナリアは主人なので上から言葉で話すようにしていた。ここに来て居心地が良かったので、寝ぼけてそのまま話していたのを思い出す。
(苦しゅうない的な……)
「王子は、夕方にまた来ます」
王子は今度は夕食前に来ることにしていた。
夕方になり、ニナリアは今度こそはちゃんとしようと思って、応接室で待った。王子と執事がやって来た。ニナリアが元気そうなので、王子はニコニコして機嫌が良かった。
「疲れていただろう。よく眠れたようで良かった」
王子は口に握った手をあて、クスッと思い出し笑いをしていた。ニナリアは王子は優しいと思ったが、おもしろがっているが分かるので、恥ずかしくて心の中で涙を流した。
(居たたまれない……)
王子は椅子に座ると、真面目な顔になった。
「君が召喚されたのは、侯爵から、君が聖女ではないかと話があったからだ」
「!」
(まさか、バレていたの⁉)
ニナリアは驚いた。
(背中の傷がないことを、シェイラから聞いてそう思ったの? 侯爵家にいた時は、わざわざ治さなかったのに?)
ニナリアは納得できなかった。王子はニナリアの様子を見ていた。
「実は、表向きは回復したと発表していたが、アーシャ王女の容態はよくない。それで侯爵が、君が聖女なら治せるのではないかと申し出てきたんだ」
王女の容態は、貴族に対しては正式に発表されていなかったのだ。
(それが呼ばれた理由だったんだ!)
(……多分、アレンは王子から情報を得ていたけど、知っていて言わなかったのね)
ニナリアがそれを知れば、自から王宮に行くと言っただろう。王子は話を続けた。
「聖女については、国王と二人だけで話し合った。我々は君がどちらであってもそのことについて確認するつもりはない」
(え?)
それは意外な答えだった。
「平民の間で、『聖女に利益がないので口にしない』という常識を我々は知っている。
国としては聖女を頼ることはしないと決めた。神殿とは別の見解だ。だから君が気に病むことはない」
「——はい」
ニナリアは言わなくていいので、ほっとした。
「アレンから、侯爵の目的は聞いている。ただ、何もしなければ、侯爵が君の噂を流してそれが公になってしまうかもしれない。そこで、侯爵の案に乗って君を一旦呼び寄せることにしたんだ。
僕が君と話してみたいというのもあった。君にはしばらくここに滞在してもらう。話は以上だ」
「はい」
王子は最後は表情を和らげた。ニナリアは、なぜ王子が自分と話をしたいのか分からなかった。珍しいのか? アレンも猫のようだと言っていたので、珍獣のように思っているのだろうか……。王子は普段、僕というのだなと思った。そこも父と同じだった。
王子は話が終わると部屋を出て行った。ニナリアは王女のことが気になっていた。
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ニナリアは考えたが、その後は首都の洋装店が四店来訪した。それぞれの店が、ニナリア用の仮縫いしたドレスを二~三着持ってきていた。
旅の初日の宿泊先でも、洋装店を聞かれて二人を案内していた。
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『はい』
以前も服を買いながら旅をしていたので、その店に連れて行くと、採寸をされて一着注文することになった。ニナリアは初め断った。
『もってるからいいですよ』
『いえ、王子からの贈り物なので、遠慮はいりません』
『そうですか、じゃあ……』
どうも、そこで採寸した寸法を王子に送っていたようだ。着替えは、三着と念のためドレスを一着持ってきていた。今日も旅用の動きやすい普段着を着ている。もしかして、長期滞在することになるのではと、不安がよぎった……。
でもせっかく店の人が来たので、ニナリアは顔には出さずに試着を繰り返した。数が多いので、マリーとアンも片づけを手伝っていた。
四店とも違ったデザインだった。三着はエキゾチックなドレス。もう三着はフォーマルなドレス。二着はそれぞれ、ファンシー系とかわいい系のドレスだった。どれもストラルトにはない最新で、とてもかわいくてきれいなデザインだった。ニナリアは、素敵だな~と思いつつ、言われるままに着せられていた。
「できたものから、届けてください」
マリーはそれぞれに同じ指示を出していたが、一着だけ急ぎでお願いしていた。
やっと終わり、洋装店の者たちは帰っていった。宿泊先で購入したドレスも届いた。早速着替えましょうと二人が言うので、そのドレスに着替えた。
「午後から王子がお見えになります」
(やっとか。フー)
ニナリアは息を吐く。王子に会うから着替えたのかもしれないなと思ったが、すっかり気疲れしていた。昼食を済ませて小さな応接室でマリーと待っていると、暖かい日差しに目がふさがってきた。王子と初老の執事が応接室にやってきて、ドアをノックした。マリーがドアを開けて振り返ると、すでにニナリアは目をつむっていた。マリーは慌てて声をかけた。
「ニナリア様、王子が来ましたよ」
「……ああ、はい、分かってますよ。王子ですよね」
「えっ⁉」
マリーはニナリアの口ぶりに驚いた。王子はマリーに声をかける。
「どうした?」
「えっとそれが」
「王子、お久しぶりです。お話をどうぞ~」
ニナリアは目を一の字しながら、王子に手を出して促した。
「プッ」
王子はその様子に、少し握った手を口にあてて小さく笑った。ニナリアはすぐに「くかーっ」と寝てしまった。マリーは困って、あたふたしながらも説明した。
「午前中にドレスの試着がありまして、それでお疲れになったようです」
(本当にかわいい人だ)「このまま寝かせてあげよう」
きっと旅の疲れや、緊張も出たのだろうと王子は思った。王子はニナリアを両手で抱え上げると、客間に向かって部屋を出た。執事とマリーも付いて行く。部屋に着くと、マリーは靴を脱がせ、王子はベッドにニナリアを降ろして、布団をかけた。その光景を見てマリーは驚いた。
マリーとアンは、比較的新しいメイドだった。二人は別々の貴族の遠縁にたある平民で、その縁からそれぞれの家でメイドとして働いていた。王女の毒殺未遂事件が起きたあとに、王子宮で働くように命じられてここに来た。二人は、元々王子の命令で、養成されていたメイドだったのだ。
マリーは、王子の執務室にクリストファーとの肖像画があるのを見ていた。クリストファーはとても素敵な青年貴族だった。執事からは、クリストファーが王子にとって師であり、大事な人だったと説明を受けていた。
(ニナリア様はクリストファー様の子供だから、同じように接しているのね)
王子は弟王子や妹王女にも非常に優しい。きっとクリストファー様の影響だろうとマリーは思った。王子がニナリアと接することを喜んでいるのが分かる。
2時間ほど経った。ニナリアは目が覚めて、客間のベッドで寝ていることに気がついた。起き上がるとつぶやく。
「あれ、王子は?」
部屋で次の準備をしていたマリーが振り返る。
「お目覚めですか?」
「はい」
ニナリアは王子と会ったことは覚えているが、それ以外は覚えていないので焦った。
「あの、王子と会ったのは覚えているのですが、話したことは全く覚えていないのですが……」
「ああ、ご安心ください。何も話してませんから。ニナリア様が眠ってしまったので、王子が部屋まで運んでくださったんですよ。お姫様抱っこで。執事と私も一緒でしたのでご安心ください」
(うおぉぉぉぉ。何たる失態。——そこはありがたいですが、それ以外は全然安心じゃないよ~!)
ニナリアは心の中で、頭を抱えてしゃがみこんだ。ストラルトでは、ニナリアは主人なので上から言葉で話すようにしていた。ここに来て居心地が良かったので、寝ぼけてそのまま話していたのを思い出す。
(苦しゅうない的な……)
「王子は、夕方にまた来ます」
王子は今度は夕食前に来ることにしていた。
夕方になり、ニナリアは今度こそはちゃんとしようと思って、応接室で待った。王子と執事がやって来た。ニナリアが元気そうなので、王子はニコニコして機嫌が良かった。
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王子は口に握った手をあて、クスッと思い出し笑いをしていた。ニナリアは王子は優しいと思ったが、おもしろがっているが分かるので、恥ずかしくて心の中で涙を流した。
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王子は椅子に座ると、真面目な顔になった。
「君が召喚されたのは、侯爵から、君が聖女ではないかと話があったからだ」
「!」
(まさか、バレていたの⁉)
ニナリアは驚いた。
(背中の傷がないことを、シェイラから聞いてそう思ったの? 侯爵家にいた時は、わざわざ治さなかったのに?)
ニナリアは納得できなかった。王子はニナリアの様子を見ていた。
「実は、表向きは回復したと発表していたが、アーシャ王女の容態はよくない。それで侯爵が、君が聖女なら治せるのではないかと申し出てきたんだ」
王女の容態は、貴族に対しては正式に発表されていなかったのだ。
(それが呼ばれた理由だったんだ!)
(……多分、アレンは王子から情報を得ていたけど、知っていて言わなかったのね)
ニナリアがそれを知れば、自から王宮に行くと言っただろう。王子は話を続けた。
「聖女については、国王と二人だけで話し合った。我々は君がどちらであってもそのことについて確認するつもりはない」
(え?)
それは意外な答えだった。
「平民の間で、『聖女に利益がないので口にしない』という常識を我々は知っている。
国としては聖女を頼ることはしないと決めた。神殿とは別の見解だ。だから君が気に病むことはない」
「——はい」
ニナリアは言わなくていいので、ほっとした。
「アレンから、侯爵の目的は聞いている。ただ、何もしなければ、侯爵が君の噂を流してそれが公になってしまうかもしれない。そこで、侯爵の案に乗って君を一旦呼び寄せることにしたんだ。
僕が君と話してみたいというのもあった。君にはしばらくここに滞在してもらう。話は以上だ」
「はい」
王子は最後は表情を和らげた。ニナリアは、なぜ王子が自分と話をしたいのか分からなかった。珍しいのか? アレンも猫のようだと言っていたので、珍獣のように思っているのだろうか……。王子は普段、僕というのだなと思った。そこも父と同じだった。
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