5 / 26
第一話
ヘッドスパ
しおりを挟む
「乾かして整えるのは、ヘッドスパのあとね」
くるりと私の椅子を回して、白いカットクロスをはずす。
なぜだろう。今日は、疲れる。
パワー充電するつもりできたのに、いつもと違う緊張感。
妄想しすぎかな。そうなら、自業自得。
今日は苦笑いばっかり浮かんでしまう。
一緒にいる時間が、とても嬉しいはずなのに。
ヘッドスパ専用のスペースに移動して、専用の椅子にゆったりと背を預ける。
「さて、じっくりいこうか」
「お願いします」
いつもの優しい笑顔。なのに、目に感情がないように見えるのは気のせい?
どこか懐かしい感じのハワイアンとともに、聞こえてくるさざ波のBGM。
フルーティな甘いアロマオイルの香りが、スペースに充満する。
彼の指先に力が入る。
「だいぶ固くなってるね」
……そうですか。
返事のない私に、続けて優しい声で問いかけてくる。
「最近、忙しい?」
「……ですね」
「そうなんだ」
「……他にも……いろいろあって」
「ふぅん」
首のこりをほぐし、肩へと大きな掌が動いていく。
――素直に気持ちいい。このまま寝てしまいそう。
「寝ていいんだよ」
再び、優しい声が耳元で聞こえてくる。
私の心の声が聞こえてるんだろうか?
案の定、私はものの数秒で、暗闇に落ちていた。
どれくらい寝てたのか。そんなたいした時間ではないと思う。
でも、とてもスッキリしたのは確か。
「どう?」
「なんか、スッキリしました」
「ふふふ」
黒川さんの意味深な笑顔。
「じゃあ、一度流してから、乾かして少し整えましょう」
大きな鏡で自分の顔を見る。
さっきよりも顔色がいいかも。マッサージのおかげかな。
黒川さんの手は魔法の手じゃないか、と本気で思いそうだ。
「はい、お疲れ様でした」
普段通りの笑顔。
「いい顔になったね」
「いつも思いますけど、黒川さんって、すごいですね」
「ふふふ」
優しい笑顔のはずなのに、怪しい笑顔に見えるのは、なぜだろう?
「また来月、お待ちしてます」
「はい」
会計を終えてドアを開けると、もう、外は暗くて、商店街の明かりがついている。
家路を急ぐ人々が、流れていく。
振り返ると、彼はまだ、ドアのところにいた。
「気を付けてね」
その言葉に、ぺこりと頭を下げる。
次に会えるのは、一か月先。今から待ち遠しい、と思ってしまう。
襟足がスッキリしている私に、後ろ髪なんてないけど、黒川さんへの惹かれる想いに、足取りはけして軽くはなかった。
くるりと私の椅子を回して、白いカットクロスをはずす。
なぜだろう。今日は、疲れる。
パワー充電するつもりできたのに、いつもと違う緊張感。
妄想しすぎかな。そうなら、自業自得。
今日は苦笑いばっかり浮かんでしまう。
一緒にいる時間が、とても嬉しいはずなのに。
ヘッドスパ専用のスペースに移動して、専用の椅子にゆったりと背を預ける。
「さて、じっくりいこうか」
「お願いします」
いつもの優しい笑顔。なのに、目に感情がないように見えるのは気のせい?
どこか懐かしい感じのハワイアンとともに、聞こえてくるさざ波のBGM。
フルーティな甘いアロマオイルの香りが、スペースに充満する。
彼の指先に力が入る。
「だいぶ固くなってるね」
……そうですか。
返事のない私に、続けて優しい声で問いかけてくる。
「最近、忙しい?」
「……ですね」
「そうなんだ」
「……他にも……いろいろあって」
「ふぅん」
首のこりをほぐし、肩へと大きな掌が動いていく。
――素直に気持ちいい。このまま寝てしまいそう。
「寝ていいんだよ」
再び、優しい声が耳元で聞こえてくる。
私の心の声が聞こえてるんだろうか?
案の定、私はものの数秒で、暗闇に落ちていた。
どれくらい寝てたのか。そんなたいした時間ではないと思う。
でも、とてもスッキリしたのは確か。
「どう?」
「なんか、スッキリしました」
「ふふふ」
黒川さんの意味深な笑顔。
「じゃあ、一度流してから、乾かして少し整えましょう」
大きな鏡で自分の顔を見る。
さっきよりも顔色がいいかも。マッサージのおかげかな。
黒川さんの手は魔法の手じゃないか、と本気で思いそうだ。
「はい、お疲れ様でした」
普段通りの笑顔。
「いい顔になったね」
「いつも思いますけど、黒川さんって、すごいですね」
「ふふふ」
優しい笑顔のはずなのに、怪しい笑顔に見えるのは、なぜだろう?
「また来月、お待ちしてます」
「はい」
会計を終えてドアを開けると、もう、外は暗くて、商店街の明かりがついている。
家路を急ぐ人々が、流れていく。
振り返ると、彼はまだ、ドアのところにいた。
「気を付けてね」
その言葉に、ぺこりと頭を下げる。
次に会えるのは、一か月先。今から待ち遠しい、と思ってしまう。
襟足がスッキリしている私に、後ろ髪なんてないけど、黒川さんへの惹かれる想いに、足取りはけして軽くはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
皇后陛下の御心のままに
アマイ
恋愛
皇后の侍女を勤める貧乏公爵令嬢のエレインは、ある日皇后より密命を受けた。
アルセン・アンドレ公爵を籠絡せよ――と。
幼い頃アルセンの心無い言葉で傷つけられたエレインは、この機会に過去の溜飲を下げられるのではと奮起し彼に近づいたのだが――
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる