ハルの異世界出戻り冒険譚 ~ちびっ子エルフ、獣人仲間と逃亡中~

実川えむ

文字の大きさ
61 / 95
第8章

56

しおりを挟む
 ギルドでそこそこ良い宿を紹介されて、俺たちはその宿に泊まることにした。

 ――やっと、本当にやっと、ベッドで眠れるっ!

 部屋に入った途端、目の前に置かれた大きなベッドの上に、よいしょよいしょと、よじ登る。ああ、地面なんかよりも、なんて魅惑的な柔らかさかっ!
 倒れこんで、思わずシーツをなでなでしてしまう。

「ハル、俺はちょっとでかけてくるから、お前はここで休んでろ」

 大き目な荷物をどさりと床に置くと、俺の返事を聞くまでもなく、へリウスはそのまま出ていった。しっかりドアには鍵をかけて。
 俺も中身は子供じゃないんだから、勝手に出ていくつもりはないんだが、へリウスにしてみれば、当たり前の行動だったのだろう。
 俺は俺で、町への好奇心よりも、ベッドの誘惑の方が何倍にも強く、睡魔が襲ってくるのはあっという間。そのまま、ぷつりと意識を失った。



 次に目を覚ました時には、部屋の中は真っ暗で、俺はきっちり上掛けをかけられている。へリウスが戻ってきたのだろう。ただ、この部屋には今はいないところをみると、下にあった食堂にでも行ってるのかもしれない。
 そんなことを思ったら、『くぅ~』っと、小さく腹の虫が鳴いた。

「そりゃ、腹も減るか」

 移動中は干し肉をしゃぶったりしてたけれど、この町に着いて、すぐにギルドや宿に入ってしまったせいで、何も食べる暇がなかったのだ。せっかくなら、なんか、ガッツリした物が食いたい。
 俺は身体を起こし、ベッドから飛び降りた。外に出ようとドアに近寄るが、ノブがちょっと高い所にあって使えない。

「むぅ、へリウスが戻るまで、外に行けないのか」

 思わず唇を尖らして、ぶつぶつ文句を言っていると、外の廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえた。もしかして、へリウス? と思ってドアが開くのを待ち構えたが。

 ガタガタガタガタッ

 強引にドアを開けようとしているようだ。
 
 ――へリウスなら鍵を持っているはずだ。こんな開け方をするわけがない。

 俺は慌ててベッドの下の隙間へと隠れて、息をひそめる。よく考えてみれば、Aランクの冒険者で獣人のへリウスが足音を立てるわけがないのだ。

 ――泥棒?

 町に到着して早々、そんな物騒なことに遭遇することになるとは思いもしなかった俺は、不機嫌な顔になる。
 ドアの前にいるだろう不審者は、しばらくガタガタいわしていたが、何があったのか、慌てたようにドアの前から去っていった。

「なんだったんだよ、いったい」

 俺はしばらくベッドの下で隠れていた。ジッと見ていると、いきなりドアが普通に開いた。

「ハル?」

 へリウスだ。
 俺は慌ててベッドの下から這いずり出ると、へリウスの足に抱きついた。

「どうした」

 優しいへリウスの声とともに、頭を撫でられた俺。しばらくは無言だったけれど、大きくため息をついて顔を上げた。

「なんか、誰かが部屋のドアを開けようとしてた」

 俺は泣きそうな声になっていた。
 自分でも、内心、驚いていてしまったが、思った以上に怖いと感じていたようだ。
 そんな俺を、へリウスは抱き上げ、ギュッと抱きしめてくれた。

「そうか、怖かったな……部屋の鍵だけじゃ、不安だな。アレを買っといて正解かもしれんな」

 窓の外へと目を向けたへリウスは、かなり怖い顔をしている。
 でも、へリウスがいれば、俺は大丈夫だ、そんな気がした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

異世界のんびり放浪記

立花アルト
ファンタジー
異世界に転移した少女リノは森でサバイバルしながら素材を集め、商人オルソンと出会って街アイゼルトヘ到着。 冒険者ギルドで登録と新人訓練を受け、採取や戦闘、魔法の基礎を学びながら生活準備を整え、街で道具を買い揃えつつ、次の冒険へ向けて動き始めた--。 よくある異世界転移?です。のんびり進む予定です。 小説家になろうにも投稿しています。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...